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感想・レビュー・書評
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初シェイクスピア。
四大悲劇中最も遅く成立したと思しき本作だが、一番短いので入門編にはちょうどいいかもしれない。
にしても血みどろである。スプラッター寄りの悲劇。
「きれいは汚い、汚いはきれい」と高らかに宣して戯曲は始まるが(この本では「晴々しいなら禍々しい、禍々しいなら晴々しい」)、主君を弑し、護衛にその罪をなすりつけて殺し、真相を知る者、知りそうな者を次々と手にかけるマクベスの掌は汚れる一方だ。
ある意味首謀者と言ってもいいマクベス夫人の、洗っても落ちない返り血を嘆く夢遊病的所作の凄まじさたるや。
マクベス、マルコム、マクダフと主要人物に似た名が多く、日本語だと文字数も同じでかなりややこしいのだが、後世の極東の読み手など作者の知ったことではなかろうし、そもそもこれらの人名は先行する史実に拠るものらしい。
また、「気をつけよ、マクダフに」「女から生まれた者が、マクベスを傷つけることは断じてない」「バーナムの森が、けわしいダンシネインの丘に攻め登ってくるまでは」といった実現困難な予言がどのようにマクベスの破滅に結実するのかが見物の一つなのだが、この仕掛けはシェイクスピアの創作なのかな?詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
スコットランドの王位を巡る、凄惨な争いの戯曲です。
魔女との出会いによって、武勇に誉れ高いマクベスの人生が崩壊していきます。
マクベスの我欲は一時的なもののはずでしたが、邪悪な夫人の後押しが凶行に及ばせます。
欲深さが身を滅ぼす典型的なお話ですが、魔女の予言を聞いた時点でマクベスは抗えない運命に突き動かされているように思えてなりません。
とんとん拍子に話が展開し、飽きることのない一冊。 -
主人公であるマクベスは、だんだん他者の意見の介入をさけ、自分の意思だけで決断するようになり、他者への殺意を平然と持つようになっていく。
予言通りの未来が来たのではなく、
自らその未来を望み、運命を選んだんだよ、マクベス。
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元が戯曲なので、台本のような構成になっている。セリフをしゃべる人物が明示されていたり、登場や退場に関する記述が有ったり、傍白の注釈が有ったり。セリフ回しが芝居がかっているのはもちろんだが、表現が古典ならではの古さを感じる部分もある。頭の中に劇が浮かんでくるよう。
「ヘエエエイ、マクベース!」が序盤だけの登場だったのが残念。 -
われわれを破滅におびきよせようと、地獄の手先ども、往々にしてまず手始めに真実を告げてみせる
おれのこの胸の奥底にわだかまる黒い野望に、光を当てるな。手のやることを目には見せるな。やらねばならぬ。やってしまって、たとえ目が見るのを怖れるようなことであっても、やるしかない。
あなたは、そんなことはやめようと思うより、ただそうふることをこわがっているばかり。
罪のない花を装いながら、花の陰に隠れているヘビでいなくてはなりません。
眠っているのも死んでいるのも、ただの絵と同じこと。
いったん悪を始めたからには、悪を重ねること以外、強くなる道はどこにもないのだ。
あの方に必要なのは医者ではない。むしろ神父だ。
王位にあるという称号も、あたかも小人のこそ泥が巨人の衣装を見に帯びたも同様、身の丈に余って、ずり落ちるほかはないのだ。
消えろ、消えろ、短いロウソク。人生はただ、うろつき回る影法師、あわれな役者。出番のあいだは舞台の上で大見得を切り、がなり立てても、芝居が終われば、もうなんの音も聞こえぬ。脳なしの物語。響きと怒りばかりはものすさまじいが、意味するところは無だ。 -
王位簒奪するには野心が足りなかったはずのマクベスが、魔女や夫人にそそのかされて性格が豹変してしまうさま。
彼は過去におかした罪はかならず後で自分に跳ね返ってくるという教訓を語っているし、現世での行いしだいであの世での報いが変わることも意識している。
西欧的教養をしっかりと積んだ、敬虔なキリスト教徒だということは見て取れる。
にも関わらず、一度は王になってみたいという野望がほんの少しあったがために、それが増長して結局は破滅する。
どんなに柔弱温厚な人物でも悪の芽を抱えており、それはいつどんなきっかけで大きく成長するか知れない。
自分にそのつもりがなくても、よこしまな隣人が心の隙につけ入ってきて、それを育てようとしてくるかもしれない。
弱肉強食の世の中で無知蒙昧のままでいることは、怖いものだ。
リア王やハムレットと違い、マクベスは主人公なのに舞台での死に際が描かれず、マクダフとの戦闘で袖にはけた後、首だけ持ってこられる。
悪に走った者の末路は、華々しくなどは決してないというわけだ。
傍流のプロットではあるが、マクダフが夫人と息子を置いて行方をくらましたときの、そんなに悲しんでもいない風の夫人と息子の会話が興味深い。
マクダフが予言で言われていた「女から生まれなかった男(女の腹を破って出てきた男)」だという告白をするのは、伏線がなくてやや唐突感があった。
アイルランドへ逃げたダンカン王の息子ドナルペインが、これから行動しそうな期待を匂わせながらその後二度と登場しなかったりと、端々に雑だと思えるような部分もある。
また、この当時下剋上の世の中で暗かったというスコットランドの歴史にも興味が湧く。
この光文社新訳文庫で他のシェイクスピアの台本も翻訳していた安西氏はすでに2008年に亡くなったそうだ。
最後に橋爪功のコメントも寄せられ、安西氏との思い出が語られている。
新しい訳本だとみずみずしい感じがするので、つい今でも訳者は健在だと思ってしまうが、刻一刻と確実に時間は過ぎている。
あっという間に人間は死ぬ。
シェイクスピアもほんの五十二歳であの世へ行き、作家として活動していたのはうち二十年ほどに過ぎない。
誰かが彼の本を語り継いでは死んでいき、誰かが翻訳、出版しては死んでいき、か細い綱渡りを繰り返して四百年の月日がたった。
こんなことを書いている私も数十年か後にはあっさりこの世からいなくなる。
シェイクスピアのように後世に思い出してもらうこともないだろう。
まさにマクベスの言う"Life's but a walking shadow, a poor player."(人生は歩き回る影法師、あわれな役者)。 -
演劇の台本のような文章構成で、このような小説に今まであまり出会ったことがなく、読んでいて不思議な感覚だった。
マクベスとマクベス夫人の台詞の言い回しが秀逸で、文章から溢れ出てくる狂気に最後まで魅了され尽くした。
全体を通して、抜群に面白かった。 -
初めてシェイクスピアの作品に触れたが、その文章の美しさに心奪われ、うっとりしながら読了。
マクベスというスコットランドの将軍が、3人の魔女に予言を伝えられるところから物語が始まる。
マクダフの息子と妻の掛け合いがとても好きだったな。「旦那は市場で20人でも買える」「たくさん買ったらあまっちゃうし売りなよ」と、とても少年とは思えないようなユーモアな返しができてて見習いたいな。
あと、マクベス夫人がずっと怖かった。いくら私利私欲のためとは言えど、王を殺せ、殺せないなんてそれでも男なの?ってめちゃくちゃ煽動していて、ドン引きしながら読んでいた。でも作中後半では夢遊病になる程弱気になっていて、その過程がよくわからないのが残念。
ともあれ、初めてのシェイクスピアの作品本当に楽しく読めました。そりゃたくさんの人から愛される訳だ。この調子で4大悲劇をとりあえず読みたい。 -
シェイクスピアの短編。とても単純なストーリーで確かに演劇向けではある。しかしながらそのストーリーにいささか違和感を感じる。マクベスは魔女達の予言をマクベス夫人に手紙で知らせ、夫人はそれを元に夫を焚き付けるが何か無理やりである。そもそもどうして王を殺害して王座を奪えるのか。二人の息子は都合よく逃亡したので疑われたが逃げずに犯人探しをする事でマクベスが疑われたのではないか。
マクベス夫人は気が進まないマクベスを鼓舞し、血のついた剣で遺体のある現場まで赴く程の勇気があるが後半ではその野望はどこへやら。夢遊病の末自殺となるが心の変化が分からない。
予言で女が産んだ男ではない男の謎は女を帝王切開したひとが産ませた男というオチは少し感心。
それにしても美しい文章を読んで独特の雰囲気を味わうだけでも読む価値は大いにある。