なんとなく、クリスタル (河出文庫) [Kindle]

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  • 河出書房新社
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  • 働いて、美味しいご飯を食べて、彼氏や時に他の男と幸せなセックスをして、のらりくらりと過ごす女の子と、彼女のゆったりしたどこか退廃的な生活そして「なんとなく、クリスタル」=半透明で中途半端な心情。当時の大学生特有のモラトリアムを圧倒的な筆致(+本文と同じくらい主観に富んでのらりくらりとした註釈)を描いたとにかく「すごい」小説。どちらかといえばスロー・テンポなのに、彼女の気持ちを独特な間で挟み込むことで、(いい意味で)「変な」奥行きが出ているというか…。不思議。取り敢えず年齢層に似合わず単なるYA青春小説ではない。アンニュイとか気怠げとかの言葉が相応しいようにも思える。
    何というか、今でもとにかく「すごすぎて」うまくまとめられない…巻末にある高橋源一郎の解説まで是非読んでほしい。それこそ田中康夫と彼の筆致の「すごさ」が明確に書いてあるから…。

    蛇足だがオーガズムを何度も「高圧電流」って言っちゃうところとかは、女の快感に対する作者の男臭さが出てて笑えた。少し。

  • 80年代の若者がどのように考え生きてきたかが垣間見える作品。
    構成が独特で、1ページごとに大量の注記があり、トータルでは本文の量とほぼ等しいんじゃないかというくらい言葉の説明がされています。著者が俯瞰で主人公たちの生活を見ているような感じにもとれたが、もしかしたら流行りや周囲の環境に馴染むためには主人公のような生き方をするのが理想ではあるが、注釈にところどころで皮肉を込めているあたりは、理想とは分かっていながらもその生き方を批判している著者の二面性のようなものも感じました。
    なんとなく自分の良いと思う選択に従って生きているというのは、世論や流行りに流されやすい日本人の心理には少し刺さるものがあるのではないかと思います。たとえば、『なんでそのブランドのバッグ買ったの?』と理由を聞いても自分を軸とした答えをだせない人が多いのではないかと思います。ちなみに『本を読んでいても自分の考えを確立できない人も多くいる』という言葉が自分には深く刺さりました。これもまた、自分の考えでなく周りの意見に左右されてなんとなく本を読んでいるんじゃないか?という自分への不信感の表れですね。

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著者プロフィール

1956年東京生まれ。一橋大学在学中の1980年に『なんとなく、クリスタル』で文藝賞受賞。長野県知事、衆参国会議員を歴任。著書『昔みたい』『33年後のなんとなく、クリスタル』他、著書多数。

「2019年 『ムーンウォーク』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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