価値観再生道場 原発と祈り (ダ・ヴィンチブックス) [Kindle]

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  • ダヴィンチの対談による連載企画で、はじまった。
     硬直したモノのとらえ方、物事の判断の格付け、新しい時代にあった価値を探るということで始まった。「価値観を再生する」ということだ。ところが、2011年3月11日、東日本大震災、津波、そして原発事故があった。場は心理学において21世紀のテーマ、時代の変化の中で、取り残された感覚を新たな光を当てるという試み。橋口いくよが、「福島第一原発を鎮魂している。40年も不眠不休で働かされたにもかかわらず、人々に感謝されず、怖がられている。だから、ありがとうって、手を合わせている、穏やかな最後を願っている」という。
     ここに、本の表題である『原発と祈り』になっている。少なくとも、東日本大震災で亡くなられた方々への祈りではないのだ。通底しているかもしれないが、それを切り離している。
     「アートの本質は、弔いである。日本には、鎮魂が足りない。現在の日本が必要としているのは、鎮魂の儀礼だ」と内田樹は言う。人間の世界に存在しない巨大な力に対するトリセツがうまくつかえていない。そこから、ゴジラの話となり、ウルトラマンの話に流れていく。対談とは興味あることに流れていくのだ。そして、怪獣は人間を襲うが、ウルトラマンは仏像の顔に似ていて、怪獣を成仏させる役割をするのだという。まぁ。縦横無尽に、サブカルチャーの中に突入していく。確かに、七色仮面も仏像顔だ。名越康文は大学の講義で「怪獣と思想」と言うのを教えた。怪獣を前にして、日本人の罪悪感や生き残った人間のやましさがあるという。ゴジラの肌は、戦争で焼かれた人たちのケロイドを表しているという。
     荒ぶる神の火を鎮めるための原発供養がいる。「準現実」に向かい、時間や空間がない心の世界に入り込んでいく。もっと自由で、より無重力にしてくれる瞑想と祈り。その中で、身体が動き、言葉を発して、心の中で思うその三つが一致すると心が落ち着くのだ。
     現実から離れて、言葉遊びをしているような風情だね。
    何に向かい、何を祈れば、強い祈りとなるのか?心の強度と高度を上げていく祈り。そこから、メタ認識のゾーンに入っていく。呪いの言葉は、確実に機能する。怒、怨と言う言葉は、暗い方向の恨み、憎しみの心につながりやすい。水俣公害反対闘争での水銀を垂れ流した国と会社への怒りと怨は、私は当然のように受け止めた。それは、強い祈りであり、呪詛かもしれない。
     正義というものは敵を作り、そして、ナルシストなのかもしれない。という。
     名越は「放射能を感じる」という。かなりいい加減な医者でもある。なんとなく、風評被害を巻き起こす。東京は、変化が激しすぎて、適応できない。そのために、生体機能を変えていく作業が必要だという。違和感、そして身体と心が引き裂かれるような経験。
     内田樹は、「いいから黙ってきけ、威張りたいし、人をキズつけたいと思っている」という。なるほど、それが内田樹の本質なんだ。
     今の若者は、無表情な顔で、自分の知っている範囲の中だけでコミュニケーションをして、自分の知らないものは無意識的にスルーする。無表情なショッカーになっている。ショッカーとは、問わない人になっている。あぁ。どうしょうもない、井戸端会議になっとるわい。
     何も持たないで、今を生きて、死ぬ覚悟を持つ。それだけでいい。どこに、価値を再生しているのだろうか?
     原発をシンボライズして、祈りを対置するという話は、やはりフクシマの現実を直視しない、高見ののんびり穏やかなものとして、受け取った。意外と、あかんなぁと感じた。

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著者プロフィール

1950年東京生まれ。東京大学文学部仏文科卒業。神戸女学院大学を2011年3月に退官、同大学名誉教授。専門はフランス現代思想、武道論、教育論、映画論など。著書に、『街場の教育論』『増補版 街場の中国論』『街場の文体論』『街場の戦争論』『日本習合論』(以上、ミシマ社)、『私家版・ユダヤ文化論』『日本辺境論』など多数。現在、神戸市で武道と哲学のための学塾「凱風館」を主宰している。

「2023年 『日本宗教のクセ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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