或る女 (角川文庫) [Kindle]

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  • この作家の描写の力は凄まじい。冒頭、いきなり、それを見せつけられる主人公登場の場面。場所、物、人物の服装、所作。緻密を超えて濃厚に、しかし、流麗に、しかも、平易に描かれ、読ませていく。そこには直接には書かれていない登場人物の性格や心情がまざまざと見える。同業者であれば「舌を巻く」、あるいは「脱帽」といったところだろう。こんなに見事な描写が、果たして、最後まで続けられるのだろうか。そして、もし、それが成し遂げられているとしたら、これはどんなに凄い小説なんだろうか。私は、冒頭を読んでそう思った。そして、それは成し遂げられていた。しかし、私の期待とは違っていた。その描写の対象は、程なく、主人公葉子の心理に移った。描写の質は変らない。これが、私からこの物語に関する想像の余地を奪った。答えは全てこの中に書いてある。遊びのない鉄道のレールの上を走らされている感じだった。
    さて、主人公の葉子。これもこ問題である。自分の欲望を満たすためには何でもする。奪う、捨てる、欺す。また、それを完璧に行うために必要な、人を魅了する美しさ、人を見抜く洞察力、人を出し抜く実行力、人を手玉にとる表現力を持っている。これで、無邪気だったり、潔かったりすれば、感情も移入できるのだが、彼女は、打算的で、卑怯で、我が子すらあまり顧みない。私は、この女に罰を与え賜え、そして、悔い改めさせ賜え、と言うような心境で読み進めた。確かに、葉子は罰を受ける。しかし、悔い改めることはない。ただ、壊れていくだけである。
    この二つの点で、この小説は、私にストレスを感じさせるものだった。

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