危険ドラッグはなぜ「危険」なのか ~その怖ろしさと回復のヒント~ カドカワ・ミニッツブック [Kindle]

著者 :
制作 : 河野 アミ 
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  • 松本俊彦『危険ドラッグはなぜ「危険」なのか その恐ろしさと回復のヒント』は、危険ドラッグ問題を論じた電子書籍である。危険ドラッグは文字通り危険である。本書は危険ドラッグが薬物ではなく、毒物であると言い切る。本書を読めば危険ドラッグが麻薬や覚せい剤以上に危険であることが理解できる。
    危険ドラッグは脱法ハーブ(合法ハーブ)と販売されている。そのためにハーブが、いかがわしいドラッグの代名詞のようになってしまった。これは薬物とは無関係のハーブ愛好家には面白くない話である。しかし、ドラッグ売人側はナチュラルさをアピールするために、あえてハーブの語を用いている。自然志向が実は不自然であり、不健康という欺瞞は放射脳カルトにも見られる(林田力『放射脳カルトと貧困ビジネス』Amazon Kindle)。脱法ハーブにマイナスイメージを持たせることは有意義なことである。
    危険ドラッグは、お香やアロマオイル等と称して販売されることもある。「インターネット上でお香やアロマオイル等に見せかけ巧妙に販売されていることもあります」(「薬物乱用、「ダメ。ゼッタイ」」こうとう区報2019年7月11日)
    危険ドラッグは特殊日本的な現象である。海外ならば薬物を求める人は違法薬物を入手する。脱法ドラッグ(脱法ハーブ)や合法ドラッグ(合法ハーブ)は形式的な遵法精神のある日本人ならではの需要である。しかし、その形式的な合法性だけを追求した危険ドラッグが違法薬物よりも危険なもので、即死亡や入院となるから皮肉である。
    危険ドラッグは死者を量産する薬物である。死んだ自覚もないまま死者にさせられる。人生が文章であるとしたら、ピリオドを打たれずに生を断絶させられる。薬物依存は全身が総毛立ち、発作のような震えが抑えられなくなる。悪寒と吐き気が交互に襲ってくる。耳元で死者が息を吐くような音が聞こえてくる。
    危険ドラッグは社会問題になっている。規制の強化は国民的課題であるが、本書は規制一辺倒では解決せず、ドラッグに手を出してしまう若者達の生き辛さを理解する必要があると主張する。それ自体は否定できない。私も希望のまち東京in東部で若者支援に取り組んでおり、若者を苦しめる社会の問題を理解しているつもりである。
    しかし、規制と支援をトレードオフの関係にし、前者ではなく後者と主張することは市民の関心を後退させかねない。危険ドラッグが社会問題になった背景には危険ドラッグ蔓延に対する市民の怒りがある。この状況に対して建設的アプローチだけでは納得は得られない。
    危険ドラッグ対策では規制も支援も必要である。確かに危険ドラッグ使用者を頭ごなしに人間失格と追い詰めることは適切ではない。強権的手法だけではダメである。しかし、危険ドラッグの売人や宣伝屋は強く規制していくべきである。危険ドラッグの売人や宣伝屋をターゲットとすることで規制と支援は両立する。
    実際のところ、本書も危険ドラッグの売人には仁義がないと手厳しい。覚せい剤の売人には重度依存症や女子どもには売らないなどのポリシーを持つ傾向があるが、危険ドラッグの売人は依存症患者の回復施設の前で販売するなど容赦がないという。また、危険ドラッグ売人には「このビジネスは長く続けられないため、規制の前に売り抜けする」という嫌らしさがあると指摘する。

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著者プロフィール

医師、国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所依存症研究部長。
主な著作に『自分を傷つけずにはいられない―自傷から回復するためのヒント』二〇一五年、講談社。『誰がために医師はいる―クスリとヒトの現代論』二〇二一年、みすず書房。『世界一やさしい依存症入門; やめられないのは誰かのせい? (一四 歳の世渡り術)』二〇二一年、河出書房新社。『依存症と人類―われわれはアルコール・薬物と共存できるのか』C・E・フィッシャー著、翻訳、二〇二三年、みすず書房。ほか。

「2023年 『弱さの情報公開―つなぐー』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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