イスラーム国の衝撃 (文春新書) [Kindle]

著者 : 池内恵

• 文藝春秋 (2015年1月20日発売)

感想・レビュー・書評

[futanさんの感想 · 2015年1月25日]

日本人拘束事件が起こった同じ日にたまたま出版された池内恵「イスラーム国の衝撃」文春新書

たちまち売り切れ
アマゾンで在庫切れ
天王寺の旭屋には数冊置いてあった。

複雑な中東の宗教、政治状勢を解きほぐし、どのようにして「イスラーム国」「グローバルジハード」が登場して来たかを説明している。

驚くべきことに、グローバルジハード主義者達は、2000年から2020年までの行動計画を立てており、2001年の9.11は「目覚め」の時期に相当し、2013年ー2016年には国家の宣言の時期としており、2016年ー2020年は終末論的な全面戦争になるということ。

そして「そのような終末論的な闘いに身を投じていると信じるジハード戦士の目には、陰惨な戦闘も、残酷な処刑も、聖なるものとして映るかもしれない。」と言っている。

細かいことでは、人質にオレンジ色の囚人服を着せる意味や、斬首の映像の技術等も解説している。

池内恵はマスコミには出ない。
以下ブログ「中東・イスラーム学の風姿花伝」
http://chutoislam.blog.fc2.com/

[dm8774さんの感想 · 2015年3月31日]

イスラム国をめぐる論考では、ほぼ全てを信頼して良いだろう池内氏による解説。
ISの連中がどうして、この時期に勃興してきたのか、なぜ続いているのか、今後どのような展開に至るのかといった予想まで含めて、本書を読めば相当なことがわかってくる。

深刻なのは、ISの出現というのがある意味で、アラブの世界をめぐる現状を考えると必然でもあり、単純な宗教対立の結果ではないこともあって、たとえ現在のISが無くなっても、また新たな勢力が出てきそうなところ。

現在のイラク軍(と言いつつ内実はイランで訓練を受けたイラン軍みたいもなもの）の攻勢などについてもかなり的確に言い当ててていて読んでて驚く、というかさすがと思える。

ISがなぜここまで若者を惹きつけるのかも本書を読めばわかる。彼らは不満の受け皿でもあるし、何より広報・宣伝が巧みなのだ。

[korisu3964さんの感想 · 2015年2月28日]

イスラム研究の第一人者が記した、おそらく「イスラム国」を理解するには、最適の本。
「いったいなぜ 『イスラム国 』は 、急速に伸張を遂げたのだろうか 。どのようにして広範囲の領域を支配するに至ったのだろうか 。その勢力の発生と拡大の背後にはどのような歴史と政治的経緯があるのか 。斬首や奴隷制を誇示する主張と行動の背景にはどのような思想やイデオロギ ーがあるのだろうか 。本書が取り組むのはこれらの課題である」。
本書が素晴らしいと思うのは、本の使命を明確にし、上記のような疑問を「学術的」に考察していること。新聞記事を張り合わせただけの薄っぺらなルポルタージュに陥っていない。

イスラム国が異質であるのは、「領域支配を行う 『国家 』を強調し 、 『カリフ 』という究極のシンボルを使用した 、アルカ ーイダ系諸組織の 『再ブランド化 』の新たな試み 」であること。では、何故「カリフ」を名乗ることが、それほど重要なのか？本書は、モハマッドの時代から丁寧に解説し、イスラム国の異質性の怖さをわかりやすく解説する。
新聞記事を読んでいて、ツギハギの理解が、自分の頭の中でまとまってゆくのは快感である。

なお、私が住んでいるインドネシアは世界最大のイスラム教徒大国。メディアは「イスラム国」という言葉は使わず、ISISで統一している。本書を読んで、なるほどと思い、同時に安心した。

コンパクトで、面白い本。ただし、読みやすい本ではない。これは、中東の政治事情、イスラム教の複雑さのため。お勧めの★5つ。

著者プロフィール

東京大学先端科学技術研究センター教授。専門はイスラーム政治思想史・中東研究。著書に『アラブ政治の今を読む』（中央公論新社）、『増補新版　イスラーム世界の論じ方』（中央公論新社）『イスラーム国の衝撃』（文春新書）、『サイクス＝ピコ協定　百年の呪縛』（新潮選書）、『シーア派とスンニ派』（新潮選書）など多数。

「2022年 『UP plus　ウクライナ戦争と世界のゆくえ』 で使われていた紹介文から引用しています。」