- Amazon.co.jp ・電子書籍 (367ページ)
感想・レビュー・書評
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タルコフスキーの映画が好きだったのですが、いまいち理解できないところもあり、補足のつもりで、原作の新訳を購入。かといってなかなか読む覚悟が作れずにいたのですが、ようやく読了笑。
冒頭から、ハリーが登場するところあたりまで、ホラー味も強かったからか、思いのほかスルスルと読めましたが、合間に挟まってくる「ソラリス学」についての章のところで、ペースが急落笑。なんとか頭で理解しようとしながら(できてはいない)よいしょよいしょで読み終えました。
タルコフスキーの映画では、人の心の中のどうしようもない郷愁に捉われる心理を、ソラリスで起きる現象で突きつけられるという話だったと思うのですが、原作の方はソラリスがそういう道具じゃなくて、直接「ソラリス」という存在そのもの(ひいては人間以外の異生物、欠陥を持った神)について考証したハードなSFだったんですね。
あまりSF読みではないので、メタ的な視点はちょっと理解が追い付きませんでしたが、ソラリスで見ることができる妖しくも美しい風景描写は、頭の中でも輝き、広がっていきました。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
SF 的意匠を散りばめながら、核心は人間の体心理そのものにあると感じた。自分にとってのハリーが眼前に現れたとして、いったいどれだけの人間が過たず生き延びることができるというのだろう。
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人間の理解を超えた「未知なるもの」と遭遇《コンタクト》したとき、人はどうふるまうのだろうか。
よくあるSFモノでは知性ある生物は人間と似た姿で描かれるが、それは我々の物差しを使っているに過ぎない。理解できない「他者」に対し、それでも一生懸命に理解すべきなのだと作者は希望的なメッセージを投げかけている。
拡張すると、人間同士、さらにはよく知った家族どうしてでも未知の部分はある。だが、作中でケルヴィンがハリーに言っていたように、どうしようもないことがあっても一緒にできることをやっていこう、と考えさせられた。 -
未知の惑星ソラリスの調査のために心理学者の主人公ケルヴィンがソラリスの調査基地にやってくるところから話はスタートする。
調査の過程で今はなきかつての恋人の形をした"なにか"が出現して主人公はとまどい、またソラリスを覆う海は交信可能な生物なのかという星そのものの謎を、作中の架空の学問ソラリス学の歴史を紐解き、不可解な現象に襲われながらながら迫っていく。
本書で目を引くのはかつての恋人ハリーの形をしたなにか、およびソラリスの海の反応や海や空の情景の不気味さだ。単なるホラーやサスペンスというよりも、得体の知れなさを執拗に執拗に描写する書き口に作者の意図があるように思う。
原著の発表は1961年。ちょうど宇宙開発が盛んだった頃だ。
だから、宇宙に存在するであろう未知の生命体について、作者のスタニスワフ・レムの想像力が広げられ、またその未知の存在に対する人類のアプローチがどのようになるのかを突き詰めた結果だともいえる。
ソラリスの海の反応は、われわれが普段使っているコミュニケーションのプロトコルとはまったく異なる規範にもとづいていて、そもそも規範があるのかもわからないし、人間に興味を持ったかのような反応をすることもあれば、不可解なタイミングで反応をやめることもある。
われわれはまだ見ぬ遠くの隣人に対して人間と同じような交信方法、情動のゆらぎをするだろうと無意識に決めつける傾向にあるが、ほんとうの意味での未知の存在は、われわれの理解を超越しているのではないかというイメージが現れているように思う。
このように、本作が名作たり得ているのは発表された時代の宇宙に対する世間の期待や盛り上がりが前提にあるように思う。
文章そのものは描写や説明がかなり多く、エンタメ的な部分はあまりないので娯楽として読むにはかなり大変だと思う。発表当時の世間の空気感を調べた上で読んだらまた違った感想が得られるのではないかと思った。
ChatGPT3.5による本作の名作としての評価を受けた理由の解説は以下の通りだ。当時の時代背景も加味して教えてもらった。
まず、小説が書かれた1961年当時、人類が未知の宇宙に進出する時代が始まっていました。この時代に書かれたSF小説は、人間の想像力が未知なる宇宙に向けられ、科学技術の進歩によって想像も及ばない未来が待ち受けているという楽観的な視点を持っていました。
しかし、「ソラリス」は、逆にその進歩した科学技術がもたらす深刻な問題を提示しています。惑星ソラリスは、未知なる知性とのコミュニケーションの困難さや、人間の感情や記憶をコントロールする力など、人間の限界を浮き彫りにしています。
また、「ソラリス」は、SF小説におけるフィクションの枠を超え、哲学や宗教など多岐にわたるテーマを扱っています。たとえば、物語の中で描かれる未知なる生命体と人間とのコミュニケーションの困難さは、人間の言語や文化がどのように限定されているかを問いかけています。また、人間の感情や記憶をコントロールする力は、自己同一性や人間の自由意志についての問題を考えさせます。
最後に、レムは「ソラリス」を通して、人間の限界についてだけでなく、科学技術の進歩によって生まれる社会的問題や倫理的問題についても問いかけています。たとえば、ソラリスの研究は、科学者たちが自分たちの情熱に没頭するあまり、彼らの人間関係や倫理観を無視することを示しています。
以上のように、「ソラリス」は、その時代の文化的・哲学的・科学的な背景に対する問いかけや、SF小説としてのフィクションの枠を超えた深いテーマ、そして文学的価値の高さなどから、今でも高く評価されています。 -
恋愛SF、或いは恐怖文学と見せかけてるが(そこの部分が人気になった様だが)、「人類以外の知的生命体とのコンタクト」が「人間の思想倫理に基づいて行われる」という発想についての批判がテーマである。この根底にある本書のテーマが、ロマンスや存在論やスペクタクルで彩られているため「20世紀の名著」になったのだろう。たしかに名著。
ちなみにこの『ソラリス』がリンチの『ツイン・ピークス』(以下TP)の元ネタの一つではないかと、ふと思った。以外それを想起させる部分。
・ポピュラーな題材をエサに難解な本題へ持って行く表現手法(TPでは「謎の殺人事件をFBIが捜査」というエサがあった)
・人間の倫理では計り知れない「存在」の物語
・不死身のドッペルゲンガーや同じ見た目で中身の違う存在の登場。しかも「3人の同一人物」という設定
・消滅したはずが、何度も再登場するヒロイン
・度重なる宇宙や量子論への言及
・核による世界変更
・不可能な事への克服行動が起こす厄災
・赤く波打つものと、白に黒の山型の線がデザインされた異空間(レッドルーム⇔海と脳波)
・騙して閉じ込めたら、予想外の大暴れをして消滅(別の場所に行っただけ)する問題の人物(リーランド⇔一番目の「お客さん」のハリー)
・宇宙空間に存在して、自分を助けてくれるような素振りの、目の見えない存在(ネイドー⇔ソラリスの海)
・半球ガラスで覆われた別空間との接触媒体
・初期に突然登場して重要な役割を担う、肉感豊かな黒人女性
リンチはかつて『砂の惑星』を作ったのでSFへの関心もありそうだ。 -
ソラリスの新訳が電子書籍で出ているのは知っていたが、キャンペーンでちょっと安くなっていたのでいい機会だと購読。
『ソラリスの陽のもとに』はテレビ放送された『惑星ソラリス』の映画があまりにも強烈だったので、その後ノーカット版の『惑星ソラリス』も見て、「これは原作を読むしかない!」と読んだ。もう35年ぐらい前。
内容はたいがい忘れていて、「さすが新訳、こんなのは前の本になかった!」といって確認するとちゃんとあったりする。読んでいて新鮮だったけどそれはほとんどが忘却という脳の機能による。
レムの小説は何冊も読んだので、特に最初がソラリスだったこともあり、ソラリスをもう一回読むのは苦にならなかった。しかし、レムがこだわって書いているであろうソラリスの海の描写は頭に描くのが難しく、半分も理解できていないのではないかと考えてしまう。
作者の解説などを読んで今頃になって、ハリー(3人目)が「お客さん」なりに悩んでいて、解決策をあれこれ考えていた、ということを理解した。サルトリウスの装置は彼女の同意のもとで動かしていたとは。
ソダーバーグの映画ももう20年前とは。作者の辛辣な書き方を読むと今のところ見なくてもよさそう。ワイが求めてる映画とも違いそうだ。
時代の進歩はすごいもので、『惑星ソラリス』はyoutubeでタダで見られる。見てから読むか、読んでから見るか、という角川の昔のキャッチコピーは、ソラリスにもぴったり当てはまる。 -
古典的名著とのことで読んでみた一冊。
あらすじ:
・海の惑星ソラリスに主人公クリスが降り立つ
・ソラリスの海上に浮かぶステーションでは、研究員の1人が死に、2人も異常に
・いるはずのない黒人女性が出現
・そして主人公の下にも、死んだはずの恋人ハリーが現れる
・主人公はハリーを宇宙に追放するが、翌日再びハリーが現れる
・図書館を通じて、ソラリスの歴史とソラリス学が描写される
・主人公はハリーに恐怖するが、ハリーもまた自身のことをゆっくり理解する
・主人公はハリーとともに悩み、やがて思考停止し、ハリーとの日々に甘んじる
・あるとき同僚の行動によりハリーは姿を消す(ニュートリノ装置で破壊される)
・主人公は同僚と、海について語る
ステーションで怪異が起きているという「謎」はサスペンスとしてはそこまで強いものではなく、描写もかなりネチネチしていて、読み進めるのに苦労した。読んでいておもしろいとも思えなかった。
しかしながら、読み終わってみるとハリーの消滅には喪失感があり、ソラリスの海について深い印象が残っている。描写として特に苦痛だった、ソラリスの海が作る構造体の描写も、読了後には幻想的な情景として記憶に残っている。
解説にもある通り、本作にはいくつもの要素が折り重ねられている
・ラブロマンス
・失った恋人とのノスタルジー
・トラウマを軸とした物語
・超知性の描写、異種知性とのファーストコンタクト
・人間とは何か、宇宙における人間の意味、神とは何か
・架空の学問史
特に失った恋人とのノスタルジーは、夢を見ているような描写で、それは主人公にとっては悪夢であるけど、読者に対しては普遍的な印象を残すものだったのだと思う。
超知性としての海のことは結局は「わからない」ということが結論となったが、その「わからなさ」を表現するために一冊費やされた価値は確かにあり、一冊読んで初めて得られる「わからなさ」があった。その上で、最後の会話による総括は、その「わからなさ」を高位に概念化していて、それもなるほどと思った。
読書体験としては苦痛も伴ったし、小説としてあまり参考にはなら無さそうだし、「わからなさ」についても前評判以上の発見は無かったが、しかし一度読めてよかった一冊。 -
幼年期の終わりとかああいうのが好きな人は好きだと思う