罪 (小学館文庫) [Kindle]

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  • ペーターが抱えているものは、パニック発作という病と多額の負債。不運な生い立ちが、見知らぬ女性から渡された小箱を機に動き出す。そして知る真実。自ら鬱病を患う作者が描く、それぞれのつらくも懸命な人生。

  • 流行りの北欧ミステリも数が増えている、特捜部Q、ヴァランダー刑事、一口で言えるようになったアーナルデュル・インドリダソン等々。

    和製ミステリでも本格らしい作品が、読んでみるとなんとなく軽さが目についてきたりしたので、新しく見つけたこの作家を読もうと揃えてみた。

    とは言いながら、今年は心温まる読み心地のいいものを読もうと、100冊からまだあまり5冊ほどリストアップしてみたが、こんなには読めないだろうなぁと眺めていたところだった。この分野は今まで疲れた時に慰めてくれるようで好きたったが、読後感のいい暖かい物語は書く人も読む人も多いようでこのくらい読めば多少は優しくなれるだろうか。などと思って今年の目標にしようかなと。

    そのうちリスト(だけ)を何度か読んでいるうちにぬるま湯から出たくなって、というかもう早速ミステリに刺激を求めてまた暗い世界に走り込んでしまった。優しい話は迷い勝ちの心をまっすぐにしてくれるかもしれないし、いいことなのに。

    ところがやっぱりよそ見する、いい感じの読書目標を見ていても、何気なくふとこの読みにくい名前の、<カーリン・アルヴテーゲン>という難しい言語圏の人にとっつかまってしまって、もう喜んで早速冷たいミステリの水の中で泳ぎ始めている。あらら今年もほっこりと暖まる暇もなさそうかも。



    ペーターは子供の頃消防士の父がなくなりそのショックで母も死んでしまった。その後パニック障害に苦しんでいる。同僚となんとなく始めた仕事が軌道に乗ってきたところで、会計士に金を洗いざらいを横領され、夜も眠れない。銀行からローンの返済通知がくる、役所からは溜まった消費税の滞納で延滞金の督促。およそ2030万円。差し押さえを前にしてどうしたらいいのか目途の絶たない小心者。
    そこに電話があって喫茶店で待ち合わせているという、なんだろう疑心暗鬼で行ってみると、現れたのはまるでこの世のものでないような化粧のカツラ女。
    小箱を届けてほしいという。電話帳で探偵と間違ったらしい。その怪しい風体に密かにデモーンと呼ぶことにした。
    箱の中身は分からないが、出された1000クローネ(1クローネは15円)欲しさに引き受けてしまう。
    届先のルンドベリは広告会社の社長だった。

    彼にあって中身を見ると、切りとった足の親指が入っていた。ルンドベリはこの女からの熱いラブレター攻めに参っているという。デーモンはサイコなストーカーだった。
    どこの誰だ、突き止めてくれたら負債は肩代わりしよう。
    この話でペーターは不意に人間らしさを取り戻し引き受けてしまった。
    父親ほど年は違うがこの社長とも気が会いそうで、何しろ心の重荷が取れたようで。
    あのデーモンを探す不気味さよりも桁違いにこの幸福感が上回ってしまった。長年苦しんだパニック症候群まで治った気がする。

    殺人事件が起き、警察の女捜査官は手を出すなという。向かいの会社から望遠レンズで覗かれているようだ。アパートをでて、ルンドベリのセキュリティー対策万全の家で暮らすようになる。

    姉のエーヴァは早くに家を出て、両親と距離を置いて来た。彼女は前向きで三つ子を育てながら生物化学研究所に勤めている。親指を分析してもらい該当者が見つかる。そして警察ににらまれながら追い詰めていく。

    資金と協力者ができ、ここらで読んでいてもほっとする。そう来ないと終わらないし。
    ここまでは様々な出来事にかき回されて面白い。

    主人公たちは命がけで大変そうだが、ペーターは案外いい仕事をする。何と言っても脅迫されるルンドベリのキャラクターが予想外で楽しめる。読み始めはちょっと暗めだがどことなく優しい雰囲気があってこれも面白いかもしれないと思った。
    日本作家の流行りのイヤミスとまではいかないけれど、事件の背後で右往左往する人たちの旨い心理描写が登場人物をイキイキと動かしているのが文芸作品のように面白い。

    心理治療の記録などを読むのが好きだそうで、なんとなく近くでも見たような性格の人物たちの物語に現実感があるのも、医師が書く難しい医学用語はなくても、酷な環境に陥ると、こういうことも起きるかな、と物語に真実味もあって面白かった。



    終わりに近づき少し絡まったストーリーの仕掛け(罠)が簡単にほどけすぎるようにも思うが、この「罪」がデビュー作だった。評判がよかったそうで今は大人気作家だとか。
    北欧って言葉も難しくて分からないうえに、季節や時間がずれていたりする。高緯度の変わった四季でも体験してみると自分の事も違って見えるかも。それにしても人の本質はどこに住んでも同じようで、今のところ訳が出ている未読の6冊をお気に入りに入れた順に読んでみる。

  • 「喪失」続く二冊目。こちらはデビュー作だそうだが、喪失に比べるとこちらのほうが断然面白いと思う。喪失はやや平板な話に感じたが、こちらはプロット作りがとてもうまいと思う。登場人物も十分魅力的。

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