いつも「時間がない」あなたに 欠乏の行動経済学 (早川書房) [Kindle]

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  • なぜ人は欠乏状態に陥るのかを説明した本。タイトルは後半が本質で、「時間がない」は欠乏の一例に過ぎない。本書は欠乏の本質本※ だと言える。

    本書では欠乏が生じるメカニズムと、欠乏状態から抜け出すことの困難さをメインに書いている。簡単に一連の流れを説明すると以下のようになる。

    ・人はリソースが潤沢にある時は無駄に使う
    ・突発的な出来事でリソースが不足する = 欠乏状態になる
    ・欠乏状態になると人はそのことに集中し、視野が狭くなる = トンネリング効果
    ・トンネリング効果で他のこと対する脳の処理能力が低下する
    ・トンネリングの対象にリソースを集中させるため、他の事に対するリソースが不足する
    ・その結果、新たな欠乏が生じる
    ・以下ループ

    要するに一度欠乏状態になるとそれが新たな欠乏状態を引き起こすため、悪循環にハマるのだ。しかも脳の処理能力は目の前のことに集中してしまうため、長期的な視点で物事を考えるのが難しくなる。だから脱出できない。抜け出すためにはトンネリングになっていない第三者の協力が必要だ。

    本書を読むと欠乏のメカニズムと恐ろしさが良く分かる。一度欠乏状態になると抜け出すのは困難であるため、欠乏状態にならないのが肝心だ。それには突発的な出来事に対処するための余裕を持っている必要がある。「常に余裕を持って優雅たれ」とは、まったく家訓としてふさわしい。

    ※本質本はこの記事を参照: https://honeshabri.hatenablog.com/entry/book_of_essence

  • タイトルは『いつも時間がないあなたに、タイムマネジメントを教えます』という意味ではなく、『いつも時間がないあなたは、こういうデメリットを被ります』という意味でした。しかも、「時間」に限らず、「欠乏」全般についてでした。

    欠乏のデメリットに関する実験や事例がたくさん紹介されていて、貧困の問題やNASAの事故など参考になりそうなものがたくさんありました。

    愚かな行動をしてしまったと後悔することが多いが、スラックの欠乏によるものだと理解すれば、気を張り詰めることも少なくなりそう。

  • これはプロジェクトマネジメントをする人はぜひよんでもらいたい一冊。
    プロジェクトはなぜ遅れるのか?
    人は合理的にものごとを考える。そしてスケジュールを組む。人員を配置する。しかし必ず不合理、不条理な出来事がおこり合理的なスケジュールはこわれる。
    無理をしてなんとかしようとする、ますます壊れていく。大幅に遅延する。
    著者はこの対策として「スラック」という概念を提唱。常にリソースの何割かを「遊ばせておく」ことだと。
    スラックがあることで、必ずおこる「不合理、不条理」な出来事に対処できる。
    ある意味で運動におけるニュートラルポジションが一番大事なポジションであることに通じてすっきりはいってきた。
    一方で企業は常に、ぎちぎちでやることが好きな文化にある。スラックを作ろうといってもそれはなかなか理解されにくい。その文化的壁をどうこえていくのかが実装においてはもっとも課題になるであろう。

  • 「欠乏」をテーマにした本作。
    必ずしも時間に限らず、お金、他者との交流、など、仕事だけでなくプライベートな観点からも、いかに我々が「不足」し、そのツケを払うのか、そしてなぜ「不足」がなくならないのか?が説明される。
    欠乏は悪いことばかりではなく、トンネリングによる”集中ボーナス”を生む。優先順位をクリアにする、というメリットもある。

    一方で欠乏は心を占拠し、集中力を使わせる。結果的に処理能力を低下させる。これは感覚的には納得できても、実験と数字を示されると説得力が違う。
    大事なのは余裕を持つこと。欠乏しないように、資源のどこかに”スラック”を持っておくこと。スラックがなければ失敗の余地はほとんどなくなり、近視眼的になる。集中をする反面、多くの”その他”を後回しにする、そして目先のタスクが片付いた瞬間、次の欠乏が襲ってくる。

    また質の低い労働者は欠乏に襲われて処理能力が落ちている可能性がある。だからといってお金を渡すのは難しいんだけど。
    そしてもっと深刻な、”貧困から抜け出せない”という問題は貧困者の資質によらず、貧困そのものが欠乏を引き起こしている、という事実はとても面白いし、納得感もある。

    紹介される事例が実にあるあるで、読んでて頷きまくりでした。自分は本当に欠乏に心を占拠されがちで、欠乏が嫌いであり、過去の失敗のいくつかが、欠乏による処理能力低下に起因することを改めて自覚しました。
    プロジェクトはなぜ遅れるのか?豊かな時間的・資金的・人的資源を浪費してしまうのか?
    いつかちゃんとやる、のではなく、大事なのはいかに仕組みをつくり、欠乏に陥らないようにすること。
    資産もそこそこに作ろう。処理能力の高い・低いは正直あるでしょうが、それも欠乏に起因するものが大いにある。
    いつか発生しうる欠乏というショックのために。やれることは余裕しろを設けておくことが一番。会社でやるのは難しいな。評価を変えていかないと。

    読む人が読めば、当たり前なのかもしれないですが、自分の仕事とプライベートのうまくいかなった時の状況に当てはまるロジックがうまく言語化されていて、すごくスッキリした。個人的には読んでよかったし、失敗体験を忘れないという意味でも手元に置いておきたい本。いろんな人におすすめしたいです。

  • 再読。最近あまりに時間がないと感じるので読んだ。お金がない・時間がない、などの「欠乏」が人の認識力をとても落とす、という話。認識力が落ちるせいでさらにお金が、時間がなくなってしまう悪循環についても語られている。ではどうするか、についてはそこまで書かれていないが、それでもとてもよい本で、あらゆる人に絶対的におすすめ。邦題は原題と比べて内容に忠実じゃないとか、全体的にちょっと冗長とかはあるけど、それでも。

  • いつも時間がない!と焦ってしまうあなたにおすすめの1冊。
    この本の筆者が伝えたいことは貧困の撲滅で、貧困に陥ってしまう人が一体どのような思考をしているのか試験し、結果を分析しています。けれど、貧困だけでなく、私たちの日常生活に役立ちます。
    例えば、「スラック」の考え方。ミズーリ州の病院の手術室が常にフル回転で、残業が多発。それを解決する手段が「手術室をひとつ使わずに空けておく」でした。いつでも想定外の手術が確実に入ってくる。そのために余裕を持つことが大事だったのです。
    私たちも、常に想定外の出来事が発生します。子どもの体調不良や仕事の問題。時間がない!に対処するヒントをもらえる本です。
    (2021/12/30チョコベリー)

  • 自分にとって「時間」が最も貴重な資源だと思っているので、時間を増やすためのヒントを求めて読んだ。

    「欠乏が更なる欠乏を生む」という負のマタイ効果がテーマの本だと感じた。
    そこで時間を増やすためには、欠乏状態にならないことが重要。

    人は「時間やお金が欠乏している」と感じていると無意識下でそれを気にしてしまい、日常の処理能力が下がる。
    かといって、締め切りまで何年もあるような余裕のある状態だと、切迫感がなくなり集中力を得られない。(マニャーナ効果)

    欠乏状態は重要-緊急の4象限でいうところの、「緊急であること」に集中してしまっている状態。
    リマインダーや習慣化、デフォルト設定を変えるなどして、「重要だが緊急でないこと」にも投資していくことが、欠乏状態を避ける対策になる。

  • 社会人になると、時間・お金を中心に、何かに欠乏している人が極めて多く、自身の場合は時間を欲する機会が増えている様に感じる。この本の重要な主張の内の一つに"自制心・認知能力・処理能力等は消耗をする"という考え方がある。例えば、貧困地域で肥満の方が多い、或いは怠薬(薬を処方された通りに飲まないこと)をする方が多い、というのを我々はその人達の意識の問題にしがちであるが、抑々日々の生計を立てることへの心労に自制心・認知能力が消耗されているのが原因である、という考え方である。自身の生活や仕事を考えてみると、我々は1日のスケジュールを考える際に、夫々の予定に対して時間を割り当ててスケジュールを立てるが、処理能力を割り当てるといった考え方をしない。そう考えた時に、矢張り頭がフレッシュでまだ処理能力・認知能力を消耗していない段階でじっくり考える仕事をすること、消耗した夕方・夜にかけて単純作業を行うこと、等の処理能力・認知能力を割り当てるという観点でスケジュールを組む考え方もあるのだろう。また、例えば議事録を取る必要があるとして、会議が終わってから別の緊急の仕事に取り掛かり、時間を置いて議事録に戻った場合、打ち合わせの内容を思い出しながら作業に取り掛かる必要が出てくる為、余計に処理能力が消費される。自身の仕事を振り返ると色々と反省する必要がありそうだ。
    また、"トンネリング"という考え方もこの本の重要なメッセージの一つだ。このメッセージを通して筆者は、期限が期近で緊急なものに対して人は通常以上に大きな力を発揮するものであるが、その緊急事態への処理に人は集中しすぎて長期的で重要な課題が見えなくなるといった副次的な欠点がある、ということを伝えている。プライベート・仕事に絶えずトンネリングが発生しているが、例えば重要だけど長期的な課題に関しては無意識に行動に移れる仕組み(例えば家族との時間を取りたい場合は、1週間に1回の親子参加プログラムに申し込む等)を作って、行動が自動的にトンネルの内側に入ってくる"仕組み作り"が肝要である。

  • ネットでおすすめされていたので読みましたが、人の思考パターン、陥りがちな問題点(思考の視野狭窄)などのメカニズムが事例付きでわかりやすく書かれていてなるほどなあと思いました
    いくつか反映できそうなものがあったので実践していきたいと思います

  • 行動経済学系の一般向け本あるあるなのかもしれないが、とにかく冗長。各章仮説の説明と検証のための実験、最低限の具体例だけでいいしそうすれば半分以下くらいのページ数にはなると思う。

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