ドストエフスキー自身の4年間のオムスク監獄流刑中に書いた『シベリア・ノート』を基に,雑誌に連載された作品。作中の主人公は貴族のゴリャンチコフで,ドストエフスキーが政治犯だったのに対し,妻殺しでの10年の囚役と追放という設定になっている。
十九世紀のロシアの監獄がどのような場所であったか,どのような刑罰があり,また民衆と貴族の関係がどうであったか,民衆が囚人に抱いている感情はどういったものであったか,ロシアという広大な国に住む多くの民族や各々の宗教観の関係がどうであったかなどを読み解ける逸話が詳細書かれている。解説を含め592ページという大作であるが,一気に読み進める面白さと迫力がある。
物語の完結後には,諸事情により出版時に含まれなかった章も追加されており,また巻末(P.528〜)には訳者による「読書ガイド」「ドストエフスキー年譜」と「あとがき」がある。特に読書ガイドは物語を読み解くのに非常に役に立つものだった。