空白を満たしなさい(下) (講談社文庫) [Kindle]

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感想・レビュー・書評

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  • 自殺に至る心の動きをやっと思い出すことができた徹生。家族との絆も再生でき、未来に希望を持ち始めた徹生にふりかかる復死の恐怖。限られた生をどう生き、そしてどう痕跡を残して死んでいくべきか、改めて考えさせられる作品だった。

    心を病ませようと徹生に執拗につきまとう佐伯の退廃的な言葉が無気味だった。一方、ラドスワフ(ラデック)や秋吉が語る癒しのセリフは結構心にしみた。

    たくさんあるゴッホの自画像。そのゴッホの絵を素材として語られる「分人」という考え方、なかなか面白かった。「私たちは、その対人関係ごとの色んな自分を、〈個人〉に対して〈分人〉と呼んでます。分数の分に人。個人が整数だとすれば、分人は分数のイメージです」、「人間は、誰かとの関係の中で、その人のための分人を常に生み出している」。

  • NHKのドラマ版が見たくなりました。

    奇跡!?世界中で死んだ人間が生き返った!主人公は生還した土屋徹生。彼は自殺したのか殺されたのかの真相に迫ります。幸せそうに見えた彼が抱えていた悩みとは何?自分の中に、色んな自分がいるという多面性。それをそれぞれの相手との関係の中で常に生み出す様々な私、分人という考え方について描かれていました。復生者たちの未来は?生きたい!家族への想いが溢れるラストは涙涙でした。

  •  NHKの土曜ドラマが素晴らしかったので、これは原作も読まねば、ということで早速購入し、一気に読みました。読了して、ドラマ制作陣の優秀さに改めて感嘆しました。まずは、ドラマと原作との差分と言うか、いかにドラマ班が素晴らしい仕事を成し遂げたのか、という点から書いていきたいと思います。

     何より素晴らしいのは、原作をそっくりそのまま映像化するのではなく、物語を一旦解体し、再構築することによって、映像作品として最も「映える」ように作りきったことです。通常の映像化は、それがテレビドラマであればなおさら、原作を忠実に映像へと置き換えるか、印象的なシーンのみをクローズアップして切り取るかのどちらかである事がほとんどだと思います。どちらも一長一短で、特に前者は、メディアの違いを考慮せずに、ただ「物語」だけを置き換えてしまうと、往々にして焦点がぼやけがちであり、酷いときには核となるテーマそのものが壊れてしまうことすらあります。本作の映像化は、換骨奪胎の逆というか、物語の核となる部分を抽出し、「テレビドラマ」という表現に最も適した形へ作り変えた、という離れ業を成し遂げています。
     一例として、本来、セリフというのは、それを発するキャラクタと分かち難いものです。それを発するキャラクタの造形が「生きて」いないと、どんなに名言であったとしても、名言であればあるほど、その「名言」は空虚で浮ついたものになってしまいます。しかし本作の映像化では、発言するキャラクタを変えることを見事に成し遂げています。その中でも、原作では救われないまま命を絶ってしまったキャラを、テレビドラマでは救済される形へと作り変えたことは白眉という他ありません。他にも、時系列を変えたり、原作にあるシーンを複数のシーンに分割したり、といった細かい作業が多数見受けられました。なのに、物語としての本質は少しも損なわれること無く、むしろより際立った形で表現されたと感じます。特に、「どのゴッホがどのゴッホを殺したと思いますか?」という圧倒的なセリフの「出し方」。原作にもこのセリフは出てきますが、テレビドラマで阿部サダヲがこのセリフを放つシーンの素晴らしさは、ちょっと筆舌に代えがたいです。視聴時、頬を引っ叩かれたかのような衝撃を受けて思わず身震いしたのを今でも鮮明に思い返せます。これは、単なる辻褄合わせのための改変ではなく、「物語を活かす」ための改変であるからだと思います。理想的な映像化作品と呼ぶべき出来です。

     次に、物語についてです。本作は、自死に至る経緯を「復生者」という突飛な設定によって描き出そうとした意欲作だと自分は捉えました。「分人」という考え方が本作では語られます。相対する人によって異なる「自分」があり、それらが相互影響しながら「自分」というものを形作っている、という考え方だと自分は理解し、なるほどなあと腑に落ちました。そして、自死に至ってしまう人は、その多くの分人のうち、「病んでしまった自分」を、「健康な自分」が「消して」しまうことで起こってしまう、という流れです。これの例として、先に書いた「どのゴッホがどのゴッホを殺したのか?」というセリフへと繋がります。
     ドラマでは、このセリフは佐伯の吐露という形で描かれます。自分は、このシーンに本当に胸を突かれました。自分も10代後半から20代にかけて、まさにこのシーンの佐伯のような思いに囚われていた時期があったためです。「生きることの価値」「生きる意義」みたいなものが息苦しくて仕方なく、そんな自分と世間とのギャップに苦しみました。ひたすらに哲学書や宗教学の本を読み漁り、どこかにこの苦しみから解放してくれる術はないかと探しました。そして辿り着いたのが野矢茂樹著の「『論理哲学論考』を読む」で出会ったヴィトゲンシュタインであり、原始仏教の世界で、そこから「自分の生とは」という一つの答えを導くことが出来たのですが、それは言葉にできるものではないので、ここに書くことはしません。
     何が言いたいかというと、この作品は、自分にとってのヴィトゲンシュタインと同じような、誰かにとっての「救済」になり得る作品であると感じた、ということです。自死の原因は様々なものがあり、ここで取り上げられているような話はその一部でしか無いかもしれません。しかし、刺さる人には確実に刺さる作品であると自分は断言したいです。
     あと、ラスト近くで千佳が「救済」されるシーンがあります。ドラマで千佳を演じた鈴木杏さんの演技が本当に素晴らしく、「救済された人」をテレビドラマの中で目の当たりに出来たことに感動しました、と最後に付け加えておきます。

     原作を読んだことで、ドラマの様々な要素が補完されたので、土曜ドラマに引っ掴まれた人には、是非、原作を一読することをオススメします。
     また、もう放送は終了してしまいましたが、原作の読者でドラマ未視聴の方も、再放送などの機会があれば、是非、観ることをオススメします。

  • 分人。表紙のゴッホの意味が分かってすっきり。
    死後に遺せるもの5つ(記憶、記録、遺品、遺伝子、影響)もなるほどと思った。後悔なく生きるため、これから自分に置き換えて考えたい。

    ただ死の真相のところが長すぎて、読んでいて疲れた。そして何となくその死の理由が納得いかなくて、星は3つ。

  • 面白かった。やっぱり面白いけど続けて同じ作家は読めないくらいのヘビー内容。

  • 全国で生き返る「復生者」たち。徹生もまた生き返るが妻に「あなたは3年前に自ら命を絶ったはず」と告げられる。そんな理由などない徹生は殺されたのではと疑う-死の彩りが全面的に漂ってはいたけれど、本当は生きたかった!という復生後の徹生の叫びや、消える前に残そうとする息子と妻への愛から、生きることへの肯定を強く受け取りました。ラストは涙々で目が腫れてしまうくらい。

  • なるほど、それでゴッホ。それでこのタイトル。

    「分人」かぁ。
    「この人といる時の自分は好き」この感覚はすごく分かる。

    出家に関するラデックさんの言葉。なんだか目から鱗だった。確かに。

    じっくり考えてみたい言葉がたくさん。
    読み終わったけれど、これからまたじっくり反芻してみたいと思う。

  • 「分人」すごく腑に落ちた。

    人によって顔を使い分けてるとか、
    本当の自分を出していないとか
    言われることが多くて、でも私は
    「どれも本当の私やねんけどな〜」
    と思っていた。

    この気持ちに名前をつけてくれた!
    ありがとう!
    って、すごくホッとしました。

    それと、もう1つ強く思ったことがある。

    生き返った人は消える。
    それはどの瞬間か分からない。
    主人公は「その時」に備えて、
    必死に善く生きようとする。

    でもこれって、生き返った人に限らず
    私たちも同じじゃないのかなぁ。

    だから、「その時」まで
    善く生きよう。
    と、強く思いました。

  • 有名人の自死のニュースを反芻しながら読み進めてしまった。
    「死は傲慢に、人生を染める。」
    世間でも、その印象がずっと残り続けてしまうだろう。
    でも、近くにいる人は、長く連れ添った人は、その人に救われたり元気付けられた人は、死に染められた印象ではなく、その愛おしくて人生に不可欠であったその印象で、その人を心の中に生かし続けてほしいと思った。
    平野啓一郎さんの本は、誤ったことでも、(不倫や自死)そのことを表面だけで受け取らないきっかけを作ってくれるように思う。

  • ただのおしゃれかと思ってたゴッホの自画像の表示にしっかり意味があった!最後までどうなるんだろうと思いながら読んだ。分人という概念はなるほどなと思ったし、徹生を殺した犯人とロジックも理解できる。哲学的ミステリーでおもしろかった。

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著者プロフィール

作家

「2017年 『現代作家アーカイヴ1』 で使われていた紹介文から引用しています。」

平野啓一郎の作品

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