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感想・レビュー・書評
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コロナウイルスが猛威を振るっている今、「予言の書」として話題の本を読みました。
10年前の作品ですが、驚くほど現実と似た事態が展開されます。
2008年の北京オリンピックをベースにしたと思われる、20XX年の北京のワールドカップ時に発生した不気味なウイルス。
世界が注目する大イベント中のため、中国が必死に隠蔽するうちに被害は広まっていき、結局決勝戦は中止に追い込まれます。
世界中から集まっていた観戦者が自国に戻ったことで、ウイルスが世界中にばらまかれることとなりました。
これには、実際に残すところあと2日で中止となった、ヴェネチアのカーニヴァルが重なりました。
あまりに身につまされ、ページをめくる手が止まりません。
主人公はWHO勤務経験のある医師。
政界とのつながりもあることから、理想的なほどに大胆な対策が実行に移されていきます。
首都封鎖は現実には起こりえなかった話ですが、物語ではそうした強硬手段を取ったために、被害を最小限に抑えられたことになります。
東京からウイルスを広げないためにバリケードを築き、人の往来を完全に止めたことで、東京は機能停止となったものの、地方では通常通りの生活を送ることができる。
そして犠牲者が増え続ける東京に物資を供給して支援する。
いいモデルプランになってはいますが、現実では日本中に感染者が広がったため、その対策はとれませんでした。
物語では、世界人口71億人のうち、80パーセントの56億8000万人がウイルスに感染し、その22パーセントにあたる12億5000万人が死亡しています。
8割の人間が陽性になるという恐ろしい事態。
死亡率も2割と高く、絶望的な状態ですが、その割に登場する主要人物たちは、誰もが死力を尽くしていながら、みんな無事。
医療関係者の感染率の少なさが際立ちます。
(主要人物を感染させると、もっと物語が長編になったからかもしれません)
描かれる国民も、いろいろ抵抗はしつつも、際立った反抗はない印象。
「TVは映画や昔のドラマの再放送ばかり」という点は、現実も全くその通りとなっていますが、「新聞は不定期に週2日の発刊」というところまではいっていません。
水際対策がかろうじて成功して、拡大を抑えられている日本に、世界中の難民が船で続々と押し寄せてきます。
小松左京の『日本以外全部沈没』を彷彿とさせる描写です。
たとえ国際的に非難を浴びたとしても、自国民を守るためにそれを断固入国拒否し、鎖国状態にできるものなのか。
現実にはどうなるのでしょうか。
恐ろしいウイルスでありながら、物語では2か月ほどで制圧できています。
現実のコロナウイルスとの闘いは、いつになるかはわかりませんが、有効なワクチンができるまで続くことでしょう。
現実の事態と照らし合わせながら、休む間もなく一気に読み通した長編小説。
著者は『パンデミック』というタイトルにしたかったそうですが、発刊当時は身近な言葉でなかったために『首都感染』としたそうです。
今では、パンデミックはもうメジャーワードになっていますね。
「新型インフルエンザの場合、感染は飛沫感染と接触感染だ。この二つを徹底的に注意すればいい。」
「移動をなくし、人との接触を極力避ければ、感染は最小限に抑えられる。」
現実でも、私たちができる対処法は上記の通り。
結局はそこに尽きるというわけですね。
実際にコロナウイルスの恐ろしさを知ったからこそ、人々に広くおすすめしたい本です。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
新型コロナウイルスの流行を受けて読んだ本、その3。
不公平だと思いつつも、ついつい、現実と比べてしまう。
現実はいつだって厳しい……。 -
9年ほど前に書かれた小説だが、驚くほど2020年4月現在で世界が、日本が直面している問題に酷似している。幸いにも現実は本書と違い、致死率が6割を超えるような強毒性のウィルスではないし、全世界で億の単位で死者を数えるような事態にもなっていないが。相当思い切ったことを、苦渋の決断で、なんとか手遅れになる前に着手していく小説内の日本政府。そこはあくまでフィクションだよ、と言いたくなるが今回の事態を鑑みれば、強毒性のウィルスによるパンデミックだって起こり得るわけで。リニアなフィクションに震える。
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2010年に書かれたと思えない、ウイルスによる首都感染。今起こっているコロナ感染を予測している。元WHOの医師優司、医者である厚生労働省大臣高城、総理大臣瀬戸崎の3者のウイルスに立ち向かう姿勢が実に明確である。「責任を負う」という言葉に重みがある。
中国ではサッカーのワールドカップ杯で、ベスト4に中国と日本が残っているという状況である。中国と世界が熱狂している。その中で、致死率60%の強毒性新型インフルエンザが雲南で発生する。村が全滅する状況であるが、中国政府はひた隠しにする。中国全土に広がり、ワールドカップを見終えた人々は、その強毒新型ウイルスに感染されて世界に帰るのである。それが原因で世界的なパンデミックが起こる。医師優司は、その情報をつかむや否や、日本の空港を閉鎖するという水際作戦を提言し実施する。さらに東京をロックダウンするのである。積極的に封じ込め作戦を実施する。
総理大臣瀬戸崎は、父親であり、厚生労働大臣の高城は、別れた妻の父親という関係であるが、そのことをあまり明らかにせず、ウイルス汚染に立ち向かう医師優司。別れた妻は、現在再婚し、WHO
で働いている。別れた原因は、生まれた子供に対して十分に対応せずに死なせたということがきっかけになっている。人を救おうとして、結局自分の子供さえ救えない不甲斐なさに自己嫌悪に陥っている。「僕は、なんの力もない。人を死んでいくのをただ見ているだけだ。昔も今も何も変わフジオちゃいない。相変わらず僕は、無力で、何もできない」と落ち込むが、ウイルスには断固たる姿勢を示す。ウイルスに対するワクチンが開発されることで、病気の感染が収まり、さらに抗ウイルス剤が開発されることで、事態は終焉の希望が生まれる事になる。
この本が、10年前に書かれたとは思えない緊迫感がある。リモート会議などのインターネットの進展による大きな社会的な仕事の変容までは予測されていないが、病院における闘い方などはいまの現場の様相を浮かび上がらせている。ウイルスで人を死なせる事で無力だと自己嫌悪に陥っているにもかかわらず、敢然と格闘する医師が主人公である事に、現実に医療現場で奮闘されている医療人たちに感謝したい。 -
約10年前に書かれた、現在のウィルス感染を予言していたとされる本。
読み始まったのは、新型コロナ感染による緊急事態宣言がまだ完全には解除されていない5月中旬、読み終わったのが東京都の飲食店営業自粛などが完全に解除された6月中旬。物語は、現実社会の振り返り的な感じで読み進むことができた。
小説に出てくる強毒性の新型インフルエンザと現実社会の新型コロナウィルスは、致死率に大きな違いがあるが、感染の広がりなど現実社会で起きていることがそのまま書かれているような感じを受けた。
小説では主に東京23区を完全に封鎖し感染を拡大させない策をとったが、これが現実社会でいかに難しいか今を生きる私たちは痛感せざるを得ない。小説で行われた機動隊、自衛隊による環状線の封鎖など、やろうものならたちまち野党や個人の権利を主張する人たちの猛攻撃を食らい、とても政権を維持することなどできなくなるだろう。
物語は日本の一人勝ちで幕を閉じるが、出来すぎと思う反面、こうなったらいいなという思いも持った。 -
今、まさに世界はこれに似た状況。
本作はさらに強力なウイルスとの闘いとなります。
実際に起こるとこれ以上のことがおこるのでしょうね。
最後は想像通りの展開で。
まぁ、サクッとの読めます。 -
今のコロナ禍に実にマッチした作品、著者は預言者と称されている。
一気に読了。
2010年の作品の10年後に当たるいまがコロナ禍。
作品では、政府のリーダーシップが遺憾なく発揮されたが、今の政府は愚策、愚業だらけ。
日本の未来は託せない。 -
新聞で「まるで今回の新型コロナウィルスを想定していたような内容・展開。これを読んでいたら、対応なども変わってきたかもしれない」と紹介されており、気になってキンドルにて読み進めておりました。
隠しても隠し切れない現状から一気に感染爆発が広がっていく様・空港閉鎖・首都閉鎖…世界中の惨状など、文章からリアルな今とリンクするところも多々あり、私たちの日常がこんな風になり得るリスクをはらんでいることや群衆心理など、とても勉強になりました。
読み終えると、目の前の景色の中にある希望を大切に 日々を過ごしていきたいとしみじみ感じる一冊でした。