1973年のピンボール (講談社文庫) [Kindle]

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感想・レビュー・書評

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  • 三部作の中で一番地味な印象だけれど、好きな文章がたくさん出てくる。


  • 青春小説だと思います。
    やるせない悲しみや逃げられない辛さに直面した鼠と主人公、二人を描いています。
    彼女に何も伝えず苦しみ抜いて街を出る鼠。何も生み出さないピンボールに多くの時間を費やした主人公。
    二人が具体的に何に苦しみ、悲しでいたのかは書かれません。おそらくそんな必要はないのでしょう。
    ただ美しい情景描写、印象的な会話、いくつかの感情表現が話を綴ります。

    ーこの土地には雪こそほとんど降らなかったが、そのかわりにおそろしく冷たい雨が降った。雨は土地に踏み入り、土地を湿っぽい冷やかさで被った。そして地底を甘味のある地下水で満たしたー


    ー時折、幾つかの小さな感情の波が思いだしたように彼の心に打ち寄せた。そんな時には鼠は目を閉じ、心をしっかりと閉ざし、波の去るのをじっと待った、
    夕暮れ前の僅かな薄い闇のひとときだ。波が去った後には、まるで何一つ起こらなかったかのように、再びいつものささやかな平穏が彼を訪れたー


    ーねえ、誰が言ったよ。
    ゆっくり歩け、そしてたっぷり水を飲めってね。
    鼠はジェイに向かって微笑み、ドアを開け、階段を上る。街灯が人影のない通りを明るく照らし出している。鼠はガードレールに腰を下ろし、空を見上げる。そしていったい、どれだけの水を飲めば足りるのか、と思うー


    ー僕は一人同じ道を戻り、秋の光が溢れる部屋の中で双子の残していった「ラバーソウル」を聴き、コーヒーを立てた。そして1日、窓の外を通り過ぎていく十一月の日曜日を眺めた。何もかもが透き通ってしまいそうなほどの十一月の静かな日曜日だったー


    何ももう苦しまなくていいんだ。全て過ぎ去ったことなんだ。全ては追憶なんだ。
    そんな安らぎを読者に与えてくれる稀有な作品だとおもいます。
    村上春樹の小説の中で1番好きな作品です。

    あなたにとってのピンボールはなんですか?

  • 「感想」という感想を書くのは非常に難しく捉えどころのない作品なのだが、『風の歌を聴け』と似て非なる僕の静寂や鼠の決意が美しい言葉で断片的かつ重層的に綴られており、初期の村上春樹の「らしさ」が匂い立つように感じた。
    『スペースシップ』と交わす最期の会話では、終始抽象的な文体にも関わらず涙が出た。僕と彼女の関係も心情表現も情景描写もあまり想像できないまま読み進めてしまったのに、それでも出所の分からない苦しさというか、理由も掴めないのに胸が締め付けられるような。双子、ジェイズ・バー、翻訳、猫、耳掃除、そしてピンボール。もう一度読むことがあれば、もしくはこれを含めた村上春樹の初期三部作について語らう機会に恵まれれば、時間の許す限り全てのファクターにおいて一つ一つ噛み砕き解釈を加えるという形で丁寧に読み解いていきたいが、今はただこの独特な雰囲気に浸るしかあるまいと思う。

    「人間てのはね、驚くほど不器用にできてる。あんたが考えてるよりずっとね」
    鼠は瓶に残っていたビールをグラスに空け、一息で飲み干した。「迷ってるんだ」
    ジェイは何度か頷いた。
    「決めかねてる」
    「そんな気がしてたよ」

    「またいつか会おう」
    「今度会った時は見分けがつかないかもしれないぜ」
    「匂いでわかるさ」

  • 「1973年のピンボール」(村上春樹)「電子書籍版」を読んだ。何度も何度も繰り返し読んだ二十代のあの頃の匂いがよみがえる。劣等感とかやり場のない憤りとか自己憐憫とか、とにかく泥濘んでいたあの頃をよくもまあ乗り切ったもんだなとつくづく思う。(少からずの人を傷つけながらではあるが。)

  • 前作よりは記憶に残りやすい。
    魅力的な双子が出てきたり、フリッパーズ・ピンボール・マシンを捜したり、耳の穴が曲がったりしているからだ。

  • 「風の歌を聴け」同様、村上らしさを感じる作品。

著者プロフィール

1949年京都府生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。79年『風の歌を聴け』で「群像新人文学賞」を受賞し、デビュー。82年『羊をめぐる冒険』で、「野間文芸新人賞」受賞する。87年に刊行した『ノルウェイの森』が、累計1000万部超えのベストセラーとなる。海外でも高く評価され、06年「フランツ・カフカ賞」、09年「エルサレム賞」、11年「カタルーニャ国際賞」等を受賞する。その他長編作に、『ねじまき鳥クロニクル』『海辺のカフカ』『1Q84』『騎士団長殺し』『街とその不確かな壁』、短編小説集に、『神の子どもたちはみな踊る』『東京奇譚集』『一人称単数』、訳書に、『キャッチャー・イン・ザ・ライ』『フラニーとズーイ』『ティファニーで朝食を』『バット・ビューティフル』等がある。

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