【要旨】
・30年にわたる経済の低迷は日本の生産性の低さに原因がある
・戦後から大きく経済成長できたのは、日本型資本主義がうまく機能していたからではなく、単に人口が増えていたから
・しかし、日本人自身(特に中年以上の世代)がそのことを正しく理解していないために、改革に対する強いアレルギーを示す
・経済成長していたときには生産性が低くてもそれをはるかに上回る人口増加の恩恵があった
・そのために、生産性を向上させようという努力を企業の経営者が怠ってきた
・生産性を改善させるためには女性の活躍できる環境の整備や給与の増加が必要となる
・しかし、経営者側に生産性を改善するインセンティブが小さいために、利益を内部留保へ回してしまう
・経営者に生産性の改善を迫るためには「外圧」が必要
・政治からのアプローチで、企業へ時価総額を上げるよう圧力をかけなければ生産性は改善しない
・まだ最大限活用されていない女性のポテンシャルを引き出せる環境を作ることができれば、生産性改善の余地がある
【所感】
非常に面白い議論であった。
いかに日本の生産性が低いかをデータで示し、その原因が何かを様々な観点から分析する著者の熱意に脱帽。
経営者に生産性改善のインセンティブが少ないというのは納得できる。ただ、政府もある程度は大企業によって支えられている側面もあるだろうから、圧力をかけようと言ってもそんな簡単にできるものなのかはわからない。
女性が活躍できれば、という話も面白かった。確かに、日本ではいまだに男尊女卑的な慣習があり、共働きが増えている現代においてもまだ昭和の専業主婦優遇政策を維持している。変化を嫌う高齢者に票田を握られている以上、政府もそう簡単にいろいろと動いてくれるとはあまり期待できない。
生まれたときから景気が悪い若者の意識はまた異なる、という話も納得感があった。確かに、自分も政治に期待せず、自力で自分の人生をどうにかしようというマインドセットだし、昨今はそういう旨の発信をするインフルエンサーが若者の人気を集めがちだ。
「このままだと二流国家になる」と警鐘を鳴らす本書、生産性改善のための提案も理にかなったものは多いと思うけれど、必ずしも正論で人は動かない。
ましてやロジックより感情・雰囲気で物事を決める日本人(と著者自身がそう評している)。
日本は島国で単一民族国家だから、日本人が自分たちを客観視するのが難しいという側面もあるんだろうなあ。
これをどうにかするには移民(特に、専門性の高い職)を増やしたり、海外で武者修行する日本人の数を増やす必要があるんだろうけど、どうもそれとは逆の方向に日本社会は進んでいるみたい(自戒をこめて)。