原著のタイトルは『Wonderland - How play made the modern world-』で、直訳するなら「不思議の国 ー遊びはどのように世界を形作ったかー」といったところか。和訳タイトルは原著のタイトルのニュアンスとそれほどかけ離れてはいないが、世界を「変えた」のと「形作った」のはちょっと意味が違う気もする。
序章で「本書は異なる種類のイノベーション、すなわち、一部の人々が生活のための強制労働から逃避したところに出現した、新しいアイデアとテクノロジーと社会空間についての本である」との説明がある。多くの本に見られる、一般的な社会変革の要因や出来事とは一線を画したエピソードについて触れている、というのが存在意義なのだろう。
ファッションの進化が繊維産業や百貨店での女性万引き犯の急増に繋がったこと、音楽の発展が機械人形のプログラミングに貢献したこと、コショウが調味料ではなく薬として、さらには異郷を体験するためのツールとして使われたこと、イリュージョンがアニメーションの発展に寄与したこと、居酒屋やコーヒーハウスが政治的談義の場や保険会社、株式取引を育んだことなど、いわゆる「バタフライ効果」的な各エピソードの連関について紹介されている。なるほど、と思えるものもあれば、コショウやコーヒーハウスのような比較的知られているトピックもあり、その中身は結構バラバラ。
とりとめのない、一見して関係なさそうなエピソードの意外な繋がりを楽しめるが、著者の論理にツッコミを入れたくなる部分もちょくちょくある。そんな批評家的な視点で読書を楽しめる人には向いているだろう。