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感想・レビュー・書評
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東浩紀、楠正憲、境真良、白田秀彰、西田亮介による新憲法案。全体を貫くのは、日本の歴史的文化性を表すような二元性だ。衆議院を引き継ぎ在住外国人を含めた統治に関わる「住民院」と、参議院を引き継ぎ住民院を監査指導する役目を明確に持ち、国外を含めた有資格の専門家からなる無給の「国民院」。国家の文化的な「象徴元首」の天皇と、内閣を廃止し大統領的権限を持つ「統治元首」の総理。大臣は天皇の臣下の意味合いが強いので総理・省長とされ、内閣は政議院に改められる。
また、特徴は他にもある。孫文的な5権分立を目指し、行政の明確な行政監視を行う人事院・監察院の独立。自衛隊明記と国外活動、自然・人的災害援助の趣旨。東浩紀『一般意志2.0』を反映した情報技術による議場外からの議員の議会参加や一般人の意見の表示。国家の国民に対する自由制限の制約や削除禁止、それに伴う「義務」の文言の削除。居住、世代も差別されないだけでなく、同一の取り扱いとされる。
全体的に現実的で、衆参のねじれを是正と役割を分けること、自由を強く保証する部分は面白く明確な反面、少し気になるのは、国外の参政の危険性と二元制だ。特に二元制については、ルソー『社会契約論』において、その土地にあった政体が前提されるとはいえ、二元制が批判されている。
"社会的な統一を破るものには、いかなる価値もないのである。人間をみずからと矛盾させるすべての制度には、いかなる価値もない。"(ルソー『社会契約論』光文社古典新訳文庫 第8章公民宗教について 三つの宗教)
ルソーはここでは政体と宗教について述べているが、『憲法2.0』「コンメンタール01元首規定」にもあるとおり、歴史的文化には原初的な宗教性と切り離すことはできないぶん、全く無関係とはいえないだろう。むろん、全体主義、帝国主義への反発から単一性を排除し、外国を含めた多様性を大きく取り入れることは、先進的であるし重要なことだ。しかし、矛盾に引き裂かれた曖昧さは、単一性を求める人間の本性に打ち克つことができるのだろうか。グローバリズムが不安定化し、世界的な右傾化が問題となるいま、内心は差別的な動物的感情をどのようにうまく人間的社会に適合させるか、もう少し踏み込んだ提案が必要になるように思える。詳細をみるコメント0件をすべて表示