人に頼む技術コロンビア大学の嫌な顔されずに人を動かす科学 [Kindle]

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感想・レビュー・書評

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  • 『やってのける』のハイディ・グランド氏の著書。
    先日、『やってのける』を再読し、こちらの本を手にとりました。

    人に頼むこと。
    それ自体はわたしもかなり苦手意識を持っていて、どちらかというと他人にお願いすることで、すり減らすくらいなら、自分でやった方がマシ、だなんて思っております。

    まず、安心したのは、そういった考えを自分が考えている以上に多くの人間が感じている、ということでした。

    また、多くの人は、相手に頼み事をしたときに、受け入れられる可能性を低く見積もっているということが実験により明らかになりました。

    だからといって、相手になんでも頼んでよいか、といわれると、当然そうではありません。

    この本では、頼みごとを正しく伝え、やってもらう上での重要なポイントを、うまく解説されております。

    この本を通じて、頼む側、頼まれる側が互いに尊重されるような頼み方を模索していこうかな、と思いました。

    ただ、ローマは1日にしてならずなので、少しずつ、足場を確保しながら。

  • コロンビア大学心理学博士の研究結果をまとめた本。あのスティーブ・ジョブズも参考にしているらしい。

    学びになった点を下記にまとめる。
    人に助けを求めることは誰しも肉体的な痛みと同じだけの苦痛を伴う。しかし、頼まれる側もノーと拒否するのには大きな苦痛が伴う。
    遠慮がちな頼み方は裏目に出る。大したことはないことなんだけど〜、みたいなのは逆効果。だから、後ろめたさは感じない方がいい。
    助けると気分が高揚し、温かい気持ちになる。助けた相手への好感も増す。
    助けて欲しいと相手に気づかせることが大切。求められてもないのに助ける(お節介)ことは相手も知っているので、ヘルプを求められていると確信できないと躊躇う。だからこそ、助けて欲しいと伝えて責任感を抱かせる。不特定多数の人に頼まず、この人に、と伝える。
    助けたことが変化をもたらしたこと、有効だったことを知りたがっている。それがないと無力感を感じる。だからこそ、助けてもらったおかげで好転したことを御礼とともに伝える。

  • コロンビア大学のモチベーション科学の第一人者であるハイディ博士が科学的なアプローチから実証実験に基づいて「お願いごとのやり方」について説明されている。
    サラリーマン業をしていると自分一人で完結できることは限られており、他の人をいかに気持ちよく自分のお願いに応えてもらうことがマネージャーに限らず重要である為、その観点から非常に参考になった。各章末にまとめがあり短時間に要旨だけ掴みたいご多忙な方にもおススメです。

  • 自分があまり人に頼むことが得意ではないので手にとった。
    さまざまな面からみた「どんな風に頼むと人は依頼を快く受けてくれるのか?」という内容は
    自分の内面の話だけでなく、相手にどう思ってもらうのがよいのか?も触れられておりとても実践的だった。

  • 「情けは人のためならず」という諺を心理学的に表した本(著者はアメリカ人なので、この諺を知っているかどうかはわからないが)。
    なぜ人は物を頼む事が苦手なのか?人に頼む時しては良い事、しない方が良い事、人からものを頼まれることによって生まれる心理的効果に分けてわかりやすく説明してくれる。

    人に物を頼むときにしてはならないことのリストで、
    「頼み事を引き受けるメリットを強調しない」「借りがあることを思い出させない」等は道徳的にやってはならない事は分かりつつもなぜそうなのか?については言語化ができていなかったため非常に参考になった。要は「相手をコントロールしてしまう=心理的負担をかける」事がNGなのだ。

    こういう日常で気にしないことを突き詰めてみる姿勢というのは、自身や周りの解像度を上げることに繋がるね。

  • #人に頼む技術 を #読了
    人に頼むとき相手の反応を想像して苦しくなる。しかし頼まれた時の自分を思い返すとその想像は行き過ぎていることに気づく。頼まれることはそんなに嫌なことではないし、断る方がキツい。命令は嫌だが助けることはむしろ好き。きっと相手も同じはず。頼むことを怖がることはない。

    してはいけないこと→
    ・やたらと謝る
    ・言い訳をする
    ・その頼み事は些細なものだとアピールする
    ・借りがあることを思い出させる
    ・助けられたことの自分にとってのメリットを強調する

    仲間意識・自尊心・有効性」の三つの人を動かす力を用いて適切な頼み方をすること。

  • 人を動かすための技術がたくさん書かれています。必読書。

  • 日常的に感じることが言語化されてる本と感じた。

    頼まれる側として本書にある内容は「あるあるー」と思うものばかりだ。
    一方で頼む側としてそれを意識できていたかというと、そうではなかったかもしれない。
    本書で書かれているアンチパターンも、頼まれる側の気持ちとして納得できる一方自分もやってるなぁと思い起こされるものばかりだった。

    頼み事はビジネスでもプライベートでも何度もよくあるものなので、忘れないよう実践していきたい。

  •  冒頭に出てきたミルグラム、電気ショック実験が有名だけど、人にものを頼む実験までしていたとは知らなかった。

     人間、ほんのささいな頼みごとをするというだけでも、大きな負荷を感じるのだという。欧米人の文化的な部分もなくはないかもしれないけど、実際、自分をふりかえってもそういうところはある。一方で、日常において頼む、頼まれるということは、当たり前の話でもあってさ。その背景にある人間の心理を理解することは、確かに生きやすくすることかもしれない。頼まれたら喜んで手伝ってあげるということもあれば、やらされている、報酬をもらっていると思うと、とたんにその作業が重く、つらく感じられる。わかる。人間の心って、そんなに単純じゃないんだよね。

     こういう研究は、人の心をメカニズムとして扱い、操作するための知見として使われると困る気がする。一方で本書で説かれていることは、必ずしもメカニズムではない。ある意味においては礼儀であり、別の側面では相手を深く理解することに関わっていく。深く理解することは、決して相手を操作することにはつながらないはずだ。接し方の知識が、そういうふうに使われうるようなリスクはあるにしても、相当気を使い、エネルギーをつかわない限り、操作する意図があればいずれ気づかれてしまうだろう。そうしないようにふるまう方が、実は大変なんじゃないかな。サイコパスとか、特殊な人はいるかもしれないけど。

     人に頼む技術とは、人間の心を理解することなのだなぁと思った。

  • - 何度も読み返して理解すべき本。
    - ***
    - ぎこちなく、申し訳なさそうに頼み事をすると、相手の〝助けよう〟という気持ちは薄れてしまいます。私たちは相手に何かを強いることを嫌います。そのことが、意図せずに相手に何かを強いることになってしまうのです。   誰かに助けを求めることは、本質的な矛盾を抱えています。 自発的な気持ちで、熱心に相手を助けようとするとき、人は良い気分になります。しかし他者にコントロールされていると感じると、この良い気分は消え去ってしまうのです。
    - つまり、誰かを助けることで良い気分になるには、 自ら望んで 支援の手を差し伸べているという、〝主体性の感覚〟が不可欠なのです。 心から相手を助けようと思っていなければ、できるだけ手間暇をかけずに助けようという考えが頭に浮かびます。
    - うまく人の力を借りるには、相手に〝助けよう〟という動機を持たせるための小さな合図である、「人を動かす力」(レインフォースメント)を理解する必要がある。
    - 頼み事をされた人には、「イエス」と言わなければならないという、心理的、対人的なプレッシャーが大きくかかっているのです。そして、このプレッシャーは頼まれた側にとっては 顕著 に感じられるものなのですが、頼んだ側にとっては感知しにくいものなのです。
    - 面と向かって助けを求めると、相手がそれに応えてくれる確率はもっとも高くなります。 その大きな理由は、助けを求めてきた人が目の前にいると、それを断るのは気まずく、社会のルールに違反するという感覚が大幅に強まるからです。一方、電子メールなどを用いて間接的に助けを求めた場合は、相手は直接的に助けを求められたときのような抵抗は示しません。
    - 最初のリクエストを断った人が、二度目に応じる可能性は上がります。そう、 一度「ノー」と言った人に別の機会に頼み事をしたとき、助けてくれる確率は、低くなるのではなく、高くなるのです。/// 身勝手な都合や面倒くささ、忙しさなどを理由に頼み事を断った人から二度目の依頼をされると、一度目のときの埋め合わせをしようと、相手の要求に懸命に応えようとするのです。/// 「ドア・イン・ザ・フェース」と呼ばれる有名なセールス手法も、まさにこの考えに基づいています。このテクニックの概念はとても単純です。まずは、極めて難しいか常識外れな、相手が必ず断ると思われる要求をします。それから、最初のものに比べればはるかに合理的な要求をします。そうすることで、二度目の要求が通りやすくなるというものです。/// このテクニックの効果が起こる理由の一部は、「コントラスト効果」(対比効果)と呼ばれる理論で説明できます。つまり、二つ目のリクエストは一つ目のリクエストと比較して些細に見えるので、たいしたことではないという錯覚が生じるのです。そして、このテクニックの効果のもう一つの大きな原動力は、私たちが抱いている「社会的責任」の感覚です。  私たちは〝誰かに頼み事をされたとき、親切で協力的であるべきだ〟という考えを持っています。そのため、二度続けて断ることに耐えがたいほどの抵抗や罪悪感を覚え、その結果として「イエス」と答えやすくなるのです。
    - 過去に助けた相手を今度は助けようとしないことは矛盾になり、認知的不調和の不快な緊張感が生じます。研究によれば、人は最初の要求に応えた後は、さらに手間や労力をかけて進んで相手を助けようとします。
    - 認知的不協和は助けを与える側に助けを受ける側への好意を抱かせる強力な作用があります。相手に好意を持つことで、矛盾した考えから生じる苦しみは消え、心に 葛藤 を抱えなくてもすむようになります。   ほとんどの人は、〝助けることは、助けられることよりも、はるかに印象を良くするものだ〟という間違った考えを抱いています。/// つまり、嫌な印象を抱いている人の頼み事に応じることで、その相手への嫌な印象が薄れます。さらに、大きな頼み事に応じると、その相手が良い人のように思える効果が生じます。 これも認知的不協和の作用です。/// 実は、助けを求めることで相手から良くない印象を持たれるかもしれないと心配する理由はほとんどありません。 逆に、人から好意や褒め言葉、サポート、贈り物などを与えられそうになったときには、たとえそれが必要ではなかったり、プライドが邪魔したりしても、受け入れることを検討すべきです。なぜなら、相手は〝与えること〟を通じて、ますますあなたに好意を抱いてくれるようになるからです。
    - 誰かに助けを求めることは、その相手に長期的なメリットを享受する機会を与えることでもあるのです。助けを求めないことは、むしろ利己的な行動だとすら言えるかもしれません。 人生において、幸福感を高めるためのもっとも信頼できる機会を、相手から奪うことになるからです。  これで、誰かを助けることが、助ける側にもたらすメリットについて理解できたと思います。
    - 重要なのは、こちらが頼み事をしたときに、相手に積極的に助けてもらえるかどうかです。そして驚くべきことに、その答えは私たちが考えている以上に、私たち自身のコントロール下にあるのです。
    - 誰かに強いられたからではなく、自ら進んで何かをすることを、心理学では「内発的に動機付けされた行動」と呼びます。過去三、四〇年間の研究は、誇張ではなく、この内発的動機付けが、あらゆる動機のなかで最高のものであることをはっきりと示してきました。内発的に動機付けされていると、たとえそれが難しいものであっても、私たちは自分のしていることに強い関心を持ち、大きな喜びを感じます。思考は創造的になり、新しい知識を吸収し、厳しい状況に追い込まれても踏ん張ろうとします。内発的動機付けは、大きな改善、優れたパフォーマンス、深い満足感をもたらすの です。
    - 一方、コントロールされているという感覚は、何かをすることの有効性や満足度を大幅に低下させます。持ち得たかもしれない内発的動機は台無しになり、早くそれを終わらせようというなげやりな気持ちが湧き上がってきます。もちろん、誰かに仕事を細かく管理されるのを好む人などいません。しかし、ごく些細なコントロールでも、驚くほど強力(かつマイナスの)な影響が生じ得るのです。
    - 〝コントロールされている〟と感じさせるものは、報酬だけではありません。脅威や監視、期限、プレッシャーなども同じ効果をもたらします。これらによって、私たちは自分の意思で自由にその行動をしているように感じにくくなるからです。
    - 返報性は、私たちが誰かに良いことをされたときに生じる、「感謝の気持ち」と「義理や借りの感覚」という二つの心理に影響されます。
    - フランク・フリンは、返報性を「個人的」「関係的」「集団的」の三種類に分類しています。
    - 個人的返報性は、取り決めによる交換です(いわゆる〝バーター〟です)。「背中をかいてくれたお礼に、私もあなたの背中をかくよ」という発想です。/// 個人的返報性は、つまりはビジネスです。  
    - 関係的返報性は、親密な関係にある相手(友人や恋人、配偶者、家族など)とのあいだに生じます。 この返報性では通常、お互いが何をするかについての明確な取り決めはなく、自分が困ったときにも助けてもらえるはずだという前提で相手を助けます。
    - 集団的返報性は、内集団での一般的な助け合いです。私たちは、同じ集団に所属する人や、何らかの共通点がある人を助けようとします。/// 集団的返報性では、関係的返報性と同じく、私たちはすぐに見返りが得られることは前提にせずに人を助けようとします。また、必ずしも助けた相手から見返りがあることも期待しません。誰かを助けることは、巡り巡って自分もまた誰かに助けられることになるのだという漠然とした(暗黙的な)考えに基づいているからです。  それでも、関係的・集団的な返報性にも「コントロールされている感覚」はわずかながらあります。
    - 逆に言えば、あなた自身が助けや支援を必要としているとき、自分が思っているよりもはるかに周りにはそれが伝わっていないということです。
    - 〝相手が困っていないのに、助けが必要だと誤解してしまう〟ことのリスクと、〝求められていないのに助けようとして嫌がられる〟ことへの不安は、どちらも誰かを助けようとする側にとって、大きな障壁になります。 逆に言えば、あなたが困っていて人に助けてもらいたいときは、この二つの壁を取り除くことが最善策になります。そして嬉しいことに、この方法はとても簡単です。 そう、直接、相手に助けを求めればいいのです。
    - 困っている人がいるとき、傍観者が多いほど、そのなかから助けようとする誰かは出てきにくくなります。その人たちが冷淡だからなのではありません。誰が責任を負うべきかがわからず、混乱が生じるからです。誰かの助けが必要かもしれないのはわかるが、それが自分であるという感覚を持ちにくいのです。  私たちが日常生活で「責任の分散」の状況に陥ってしまう典型例が、同報メールで誰かに頼み事をして、結局誰も反応してくれないというよくある失敗です。
    - 自分に直接頼んでこないのは、同じサポートを提供できる人が大勢いることの裏返しでもあります。このような頼み方をされても、頼まれたほうは、助けることに責任を持とうとは思えないのです。  ですから、誰かのサポートが必要なときは、責任の分散がもたらす混乱を減らすために、相手にあなたを助けることへの明確な責任感を持たせるような頼み方をすべきです。
    - 忙しい人からの助けを得るには、次の三つのことをするのがポイントです。  一番目は、「何を求めているのか、どの程度の助けが必要なのかを、はっきりと、詳しく説明すること」 です。「お願いしたいことがある」「ちょっと手を貸してほしい」といった曖昧な伝え方をすると、相手は自分の手に負えないほどの手間や時間がかかることを頼まれるのかもしれないと不安になります。  二番目は、「妥当な量の助けを求める」 です。相手のすべきことの妨げにならないような内容のものを頼むようにします。  三番目は、「求めていたものとは違っていても、相手の助けを受け入れる」 です。思ったほど助けてもらえなくても、それについて不満を抱かないようにしましょう。相手が与えてくれた助けがわずかであっても、感謝して、相手との関係を良いものにすることに目を向けましょう。そうすることで、私たちが考えている以上の恩恵が得られます。
    - おさらいをしましょう。  助けを得るには、まず誰かにあなたが助けを求めていることに気づかせ、それを確信させなければなりません。そのためには、遠回しの表現では伝わりません。助けてもらいたいことをはっきりと伝えましょう。  次に、相手はあなたを助けるために、〝他でもない自分がこの人を助ける〟という責任感を抱く必要があります。そのためには、不特定多数ではなく、その相手に直接依頼をすべきです。  最後に、相手が忙しいことを十分に留意します。妥当な量のサポートを明確に依頼し、もし思ったように助けてもらえなくても、それを受け入れるようにします。
    - 誰かに助けを求めることが難しいのは、重要なのが〝何を言い、何をすべきか〟だけでなく、〝何を言うべきでないか、何をすべきではないか〟 でもあるからです。第4章で見たように、助けを求めることは本質的な矛盾をはらんでいます。すなわち、〝助けてほしい〟と頼まれることで、相手は進んでその人を助けようという動機を失ってしまうのです。加えて、逆効果を生じさせてしまういくつかの頼み方もあります。
    - 相手の共感を引き出すのは、その度合いさえ適切であれば、助けを得るためのとても効果的な方法です。しかし、度が過ぎると逆効果です。「私は痛みを感じています。助けてください」というメッセージは、その痛みが大きくなりすぎると効かなくなることがあるのです。 相手は心を閉じ、その場から逃げ出してしまいます。
    - 〝ひたすらに謝られながら頼み事をされる〟という(あまり嬉しくない)経験をしたことはないでしょうか。/// このような形で誰かを助けようとすれば、「進んでそうしたいからではなく、しなければならないからする」という、〝コントロールされた〟感覚が生じてしまいます。
    - 「謝ってはいけない」と口を酸っぱくして伝えます。 謝ることは〝よそよそしい〟関係につながるからです。/// 持ちつ持たれつの助け合いをしている人間なら、助けてもらうときに謝る必要はないからです。 謝ると、同じグループにいるというアイデンティティが希薄になり、お互いのあいだに距離が生まれ、一体感が損なわれます。/// 一般的には、助けを求めるときには謝る必要はありません。その代わりに、こちらの求めに応じて助けてくれた相手には、感謝をしましょう。そのほうが、頼む側も頼まれる側も、はるかに大きな満足感が得られます。
    - 言い訳めいた頼み方をするのは適切ではありません。気が進まない様子で頼み事をしていたり、人の力を借りることにうんざりしたりしている様子の相手のために何かをしても、助けた側は充実感を得られません。 /// 助けを求めることが少々気まずいものであっても、言い訳めいた響きにはならないようにしましょう。 前向きな気持ちでリラックスし、自分が相手にどんなふうに見えるかではなく、相手がどんな気持ちになるかに意識を向けるのです。
    - 何かを頼むとき、その頼みを引き受けることのメリットを相手に強調してはいけません。 /// 誰かを助けると幸せな気分になるのは事実です。しかし、頼み事をする側がことさらにそれをアピールすると、頼まれた側は興ざめしてしまいます。まず、操作され、コントロールされているという感覚を抱きやすくなり、〝助けてあげたい〟という自主的な気持ちも失われてしまいます。さらに、それは頼む側からの一方的な押しつけや決めつけでもあります。相手は、「私がどう感じるかを先回りして言わないでほしいなあ。それは私が決めることなのに」と思ってしまうのです。
    - 助けを求めることは気まずく、相手に断られるかもしれないという不安がつきまといます。そのため私たちは、その頼み事を〝些細で取るに足らないもの〟だとアピールして、相手に引き受けてもらおうとします。/// しかし、このような頼み方には問題があります。 頼み事を小さく見せかけることで、得られる助けも、助ける側と助けられる側が感じる温かい気持ちも小さくなってしまうのです。
    - 私たちは、持ちつ持たれつの関係(返報性)がどんなものかを知っています(第4章)。また、助けを求めるときに不安で落ち着かない気持ちになるのもわかっています。ですから頼み事をするときに、〝過去に自分がしてあげたこと〟を相手に思い出させようとしてしまうことがあります。しかし、この方法も相手をひどく戸惑わせてしまいます。///
    - 返報性は、求められた助けに応じようとする力を生みますが、相手にコントロールされているという感覚も生じさせます。 返報性は、助け合いの労力が等しいときにもっともよく機能します。/// また、返報性は時期的にあまり離れすぎると効力を失います。/// 返報性についての重要なポイントは、こちらから思い出させようとすると、逆に相手からは〝借りがある〟という感覚が薄れることです。 自分には貸しがある、とアピールすると、相手はコントロールされた感覚を持ってしまいます。
    - 私たちはよく、感謝の気持ちを表すときに重大なミスを犯します。〝助けてもらえて嬉しかった、こんなに助かった〟と自分の気持ちばかりを話し、相手の気持ちに目を向けることを忘れているのです。/// 感謝の表現を、「他者称賛」と「自己利益」の二タイプに区別しました。「他者称賛」とは、助けてくれた相手の性格や能力を褒め、評価することなどです。「自己利益」とは、助けられた側のメリットを話すことです。
    - 相手に〝コントロールされた感覚〟を抱かせず、助けることの喜びを自然に感じてもらうような頼み方の方法は、三つあります。これらの三つの「人を動かす力」を用いることで、相手は他者を助けたいという気持ちになります。
    - 一つ目の方法は、心理学で「内集団」と呼ばれる仲間意識の感覚を用いることです。つまり、〝自分にとって重要な集団のなかに、困っている人がいる〟 という考えです。これは、単なる集団的返報性よりも強力なものです。
    - 二つ目の方法は「自尊心」です。つまり、 誰かを助けることで、助ける側がポジティブな感覚を得ることです。 この認識は、自分のポジティブな側面を自覚できたり、誰かに褒められるような役割を担っていると感じたりするときに高まります。
    - 三番目の、三つのうちでもっとも強力な方法は、 助ける側が「有効性」を把握できるようにする ことです。つまり、人は自分が何かを与えることや、与えたことの影響を知り、それが実際に有効であったかどうかを確かめたいのです。 /// フィードバックがない(行動の結果がどうなったのかわからない)とき、行動への動機は激減します。これは特に、人を助けるときに当てはまります。
    - いかにも安っぽい響きがするのはわかっています。しかし、「一緒に」という言葉を使うだけで、強い動機付け効果が得られることを示す、スタンフォード大学のプリヤンカー・カーとグレッグ・ワルトンによる最近の研究があります。/// 「一緒に」という言葉は、脳にとって他者と結びつくための強力な手がかりになります。   この言葉を聞くことが、脳にとっては報酬のように機能します。 あなたは自分が集団に帰属していて、他者とつながっていて、同じ目標に向かって共に働く信頼できる人々がいると感じることができるのです。
    - 共通の目標を持つことは、他にどのような集団に属していても、相手とのあいだに仲間意識をつくり出せる強力な方法です。
    - 第三者に対する敵意ほど、人々を結びつけるものはありません。共通の敵や競合他社に意識を向けることには、共通の目標に意識を向けることが集団の結束力を高めるのと同じ効果があります。
    - 強い仲間意識を生み出すのは共通の「客観的特性」ではなく「経験」のほうです。お互いのあいだに、似たような認識や思考、感情を見出すことが効果的なのです。前述したように、人間には自らが属する集団を基準にした偏見を持ちやすい傾向があります。それでも研究によれば、共通の経験について話をすると、相手が見知らぬ人であっても好感が高まります。同じ経験を共有することで、相手とのつながりを感じ、価値観を確かめ合えるからです。 /// 仲間意識をうまく用いて組織内に助け合いの精神を醸成していくには、まずは共通の感情や経験を探すことから始めましょう。同じ旅をしている仲間のような感覚をつくり出していくのです。
    - 私たちの大半は褒め言葉を喜んで受け入れます。なぜなら、自分自身のことをおおむね肯定的に見ているからです。ですから褒められても矛盾は感じません。
    - たとえば、三歳児でも、「親切なことをしなさい」ではなく、「親切な人になりなさい」と言われたときのほうが、他の子供たちがブロックを片付けるのを助けるようになることが、研究によってわかっています。
    - 脳に注目した研究によって、感謝を伝えられた相手は、その後も長期的にその人に興味を持ち、関係を維持しようとすることがわかったのです。感謝を伝えられることで、助けた側は、時間や労力を投じた価値があったと感じるのです。  逆に言えば、感謝の気持ちを示さないことほど良好な人間関係を台無しにするものはありません。みなさんにも、こちらの親切に対して感謝の言葉もない無礼な態度をとられ、ショックを受けた経験があるはずです(子育てをしている人なら、朝食に感謝をしてくれない子供のことを思い出したかもしれません)。感謝がないと察知すると、相手はその人をもう助けようとはしなくなります。フランチェスカ・ジーノとアダム・グラントによる研究によれば、前回の助けに対して感謝されなかった場合、その人が将来的に同じ相手を助ける確率は半減します。
    - 助けを求めるときは、相手をよく理解し、そのアイデンティティを肯定的なものにするようなポイントを強調することが大切なのです。 自分に意識を向けていてはいけません。
    - 第5章では、助けを求める際に「責任の分散」を避けることの重要性について話しました。五〇人に同報メールで頼み事をすると、全員がそれぞれ「誰かがやってくれるだろうから、自分が何かをしなくてもいいや」と思ってしまうのです。  しかしここには助ける側の動機についての、見落とされがちなもう一つの重要なポイントがあります。それは、〝 誰でもできることでは、自尊心を高めにくい〟 ということです。人が与えたがっているのは、その人しかできない(堅い言葉にすれば「代替不可能」な)サポートです。 自分にしかできない形で誰かを助けることで、私たちの自尊心は高まるのです。
    - これまで本書では、「仲間意識」 と「自尊心」 という二つの「人を動かす力」を見てきました。この二つは、助けを求めるときに同時に両方がある必要はありません。どちらか一つを相手に感じさせれば、うまくいきます。しかし、助けを与える側がその行為によってメリットを得るためには、 必ず存在しなければならないもう一つの「人を動かす力」があります。それは、助けることで「有効性」を感じられることです。 つまり、助けた効果があったという手応えです。
    - ヒギンズは最近の著書『Beyond Pleasure and Pain: How Motivation Works』のなかで、「有効性」を感じたいという欲求(自分の行動に効果があり、結果に影響を与え、求めていた結果を達成したことを把握すること)こそが、人間を積極的に行動に向かわせ、人生を有意義なものにするものだと主張しています。私たちは、身の回りの世界に影響を与えたいと考えています。この観点からは、幸福感は少しポイントが外れています。人が日常的に苦しみを受け入れ、自分を犠牲にして何かに取り組むとき、その行動がどんな「影響」を生じさせるかのほうが、幸福感よりも重要だからです。
    - 有効性を実感していると、長期的に人を助けようとする可能性が高まる ことを示しています。  たとえばある研究では、助けた相手から礼状を受け取った被験者は、その相手のみならず、その他の人たちに対しても、さらなる助けを提供したいと考えるようになっていました。もちろん、この場合では「感謝」も動機付けに関わっていますが、人を助けたことの実感が得られたことも、重要な役割を果たしているのです。
    - 相手に助ける意欲を持たせ、助けることによるメリットを享受させ、そのサポートを継続させるには、有効性を感じてもらわなければなりません。これは、人に助けを求めるときに見逃されていることのなかでも、もっとも重大なものだと言えます。相手に有効性を感じさせるためのいくつかの方法を見ていきましょう。
    - ①求めている助けがどんなもので、それがどんな結果をもたらすかを、事前に明確に伝える ///
    - ②フォローアップをする(事前にそれを伝えておく ///
    - 第二部の『良い頼み方、ダメな頼み方』では、どんなふうに頼めば、相手が応じてくれやすくなるかについて、実践的な方法が解説されています。カギは、「自律性」。相手は、「コントロールされている」と思った瞬間、相手を助けようとするモチベーションを大きく下げてしまうのです。
    - 第三部の『人を動かす3つの力』では、「仲間意識」「自尊心」「有効性」の3つの力を詳しく紹介します。人間は、自分と同じ集団に属する仲間だと見なしている人から頼み事をされたり、「助けることで自分の自尊心が高まる」と思ったり、「助けたことで良い影響が生じる」と実感できるときに、誰かを助けようとします。
    - また、著者は頼む側のみのメリットを強調しているのではありません。頼まれた側にとっても、相手を助けることで気分が良くなる、自尊心が高まるといったメリットをあることにも触れています。

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著者プロフィール

社会心理学者。コロンビア大学モチベーション・サイエンス・センター副所長。コロンビア大学で博士号を取得。モチベーションと目標達成の分野の第一人者。「ハーバード・ビジネス・レビュー」「ハフィントンポスト」「サイコロジー・トゥデイ」「フォーブス」などへの寄稿多数。本書のほか『やり抜く人の9つの習慣』(ディスカヴァー)『やってのける』(大和書房)『だれもわかってくれない』(早川書房)などのベストセラーがある。

「2019年 『人に頼む技術』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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