危機と人類(上) (日本経済新聞出版) [Kindle]

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感想・レビュー・書評

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  • 様々な国が危機をどのように乗り越えたのかを解説する本。登場する国を比較すると共に、個人における危機の帰結を左右する要因を国に当てはめる形で分析する。

    最初に断りが入っているが、本書は統計学を用いるような計量的分析は行わず、比較論的研究で叙述的に語られる。従って本書で紹介された成功例が、そのまま「成功率の高い危機の乗り越え方」とは言えない。あくまでも成功例を物語の形で学ぶという認識を持った上で本書に向かうのが良いだろう。

    本書は翻訳書でありながら、日本人向けの本と言えるだろう。本書に登場する国は7カ国の中に日本が含まれており、しかもアメリカと並んで2度登場するのである。上巻では危機を乗り越えた成功例として明治維新が語られる。下巻では現代日本の危機として、巨額の国債、男女の不平等、少子高齢化、移民の不在、日中・日韓関係、自然資源管理が挙げられる。『銃・病原菌・鉄』の著者が日本の強みと弱みを分析するという点で、読む価値があるだろう。

  • あー、浅い浅い。本当に貴方、研究者ですか?こんなに浅くて、「知の巨人」とか言われて恥ずかしくないですか?
    非常に、非常に、そして非常に残念である。(重要なので三回言います)

    著者は明らかに西洋文明が優れている事を前提にして、それを日本が明治維新において如何に上手く取り入れたかという議論をしているのだが、全く本質を理解していない。
    民族の性質、特質などと言うものは、一朝一夕で変わるものでは無いのだ。

    江戸時代から日本は、識字率も高く(藩校、寺子屋)、貸本屋もあり(知的好奇心が高く)、生活水準も高かった。
    江戸市中に玉川上水を引き、汚物もリサイクルしていた。
    李氏朝鮮が、国家事業として水車の一つも開発者出来なかったのに、同時代の日本では水車が多すぎて、水車税なるものが導入されたのである。

    遙か太古から連綿と続く技術や知識の蓄積があってこそ、明治維新の躍進が可能であったのだ。

    幕末における徳川幕府の対応に関しても、著者に根本的な認識の間違いがある。あたかも幕府が開国に反対し、その古い思想により倒幕されたかのような表現をしているが、全く違う。

    幕府は富国強兵しつつ開国して西欧列強に対抗する方針(小栗上野介忠順、勝海舟)を、薩長は鎖国勤皇を主張した。結果的に倒幕が成されたが、明治政府の方針は全て幕府のそれを継承するものであったのだ。
    結局国際状況を鑑みるに、明治政府も旧幕府の方針が正しかったのと認めざるを得なかった証左である。

    日中戦争から太平洋戦争に至る、第二次世界大戦に関する日本に対する認識と考察も浅薄である。
    当時の西欧列強による植民地支配に言及せずに、一方的に日本の拡大方針に疑義を提唱するのは公平さを欠いている。

    本書では、著者は純粋な学問としての議論を離れて、西洋国家とその国民に優越感として受け入れ易い、商業的な主張に陥っていると指摘せざるを得ない。

  • ジャレッド・ダイヤモンドが“個人的危機の観点から”世界7カ国の事例を分析する。11章のうち2章が日本に当てられていて、分析・指摘とも読み応えがある。
    7カ国とは、フィンランド、日本、チリ、インドネシア、ドイツ、オーストラリア、アメリカ。個人的危機の帰結にかかわる12の要因、たとえば「危機に陥っていると認めること」「他の人々を問題解決の手本にすること」「公正な自己評価」といったものを、各国の対応・国民性・地理的制約などにあてはめて検討していくというユニークなスタイルで、読みやすさにも貢献していると思う。
    フィンランドにつづいて紹介される、開国から明治にかけての日本については、かなり評価が高い。明治政府の指導者たちは現実主義に立脚し、不平等条約の改正を目標として西洋の文物を借用し、さらにそれらを日本化して取り入れた。「危機に直面している」という自覚は広く国民に共有されており、「現実的かつ公正な自国評価」のもと、「柔軟」に「他の国を問題解決の手本に」した。「外国から支援」も受けたが、「強いナショナル・アイデンティティ」を資源として「忍耐強く」前進し、自己犠牲をいとわない国民であることを「決して譲れない基本的な価値観」として団結した。島国であるという地政学的要因も、恵まれていた。
    しかし、第8章で再び俎上に載せられる今日の日本が直面している危機とその対応については、なかなか辛辣だ。いくつかの強みはあるものの、環境の変化によって時代遅れとなった伝統的価値観にとらわれており、過去の戦争で中国・韓国に対してしてきたことを自分の責任として捉えることができず、かつてはあった「公正で現実的な自国認識」が欠如していることで、その強みを相殺している。隣国との関係が険悪であることについて、「もう十分謝ったじゃないか」という子どもっぽい態度を捨て、〈首相が南京を訪れて中国人が見守るなかでひざまずき、戦時中の日本軍による虐殺行為への許しを請うてはどうだろうか〉――かつてブラント西ドイツ首相がポーランドの群衆の前で行ったようにと助言する。
     著者がすべて正しいわけではないと思うが、西欧的知識人の一意見として、真摯に聞くべき内容があると思う。

  • 読みにくいというか冗長な部分も多いが、概して勉強になる。人が困難を乗り切る要因を、国家にあてはめようとする試みは興味深く、完全合致ではないにせよ、研究的アプローチを読者と共有し、考える機会を提供してくれるのは好意的に評価したい。日本の幕末と第二次世界大戦時の描写は正確であるだけでなく、日露戦争勝利と大戦敗北の原因に対する考察は、極めて説得力があるだけでなく、当事者たる日本人である私にはわからなかった仮説である。フィンランドの話は、ロシアによるウクライナ侵攻や、日本の国防を考える上で必読だろう。ドイツと日本の対比では、日本人が苦手とするところが見えてくるようで興味深い。

  • 国家が危機に直面した時、どう対処すればよいのか?かつて危機に見舞われ、それを突破した事例から、国家的危機の解決法を導き出す書籍。

    個人も国家も、危機にうまく対応するためのカギは「選択的変化」。すなわち、自身の能力と価値観を公正に評価し、どれが現時点で機能し、どれが機能していないかを見極める。そして、新たな状況に対応すること。

    個人的危機の治療法として、精神科医が考案した「危機療法」がある。その専門家らは、個人的危機の解決に役立つ要因として、次の12個を挙げている。
    ①危機に陥っていると認めること
    ②自分の責任の受容
    ③囲いをつくること(問題を特定し、言語化する作業)
    ④周囲からの支援
    ⑤手本になる人々
    ⑥自我の強さ
    ⑦公正な自己評価
    ⑧過去の危機体験
    ⑨忍耐力
    ⑩性格の柔軟性
    ⑪個人の基本的価値観
    ⑫個人的な制約がないこと

    国家的危機をめぐる疑問の1つに、「指導者によって違いは生まれるのか?指導者は歴史に影響を与えるのか否か」というものがある。
    歴史家の間では、否定的な見方が一般的。指導者に影響力があるように見えるのは、すでに国民が持っていた考え方と共鳴する政策を行うからだという。

    歴史から学ぶことのできる教訓は2つある。
    ・1つは、ある国の歴史を理解すれば、それを基に、将来その国がとりそうな行動を予想しやすくなる、ということ。
    ・もう1つは、普遍的な教訓だ。大国に脅かされている小国は常に気を配り(フィンランド・ソ連)、選択肢を現実的に見極めるべきだ、ということ。この教訓は、現実にはしばしば無視されている。(太平洋戦争時の日本)

  • 歴史の事実を少しは知っていても大きな流れの中で捉えるのが苦手な私にとって非常に有益な本であった。
    まず個人的危機と国家の危機に関わる要因をそれぞれ12あげ説明、第1の要因は危機に陥ってることを自覚すること。上巻はフィンランド、明治期の日本、チリ、インドネシアが取り上げられている。フィンランドの歴史は全く知らず、これを読んで危機を乗り越えられたのは奇跡に近いと思われた。興味深かった。チリに関してはアジェンダ政権の捉え方に疑問が残った。インドネシアについては、映画「アクトオブキリング」で少し知っていたが今回これを読んでよくわかった。

  • フィンランド、チリ、インドネシアの近代史を知ることが出来た。

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著者プロフィール

1937年生まれ。カリフォルニア大学ロサンゼルス校。専門は進化生物学、生理学、生物地理学。1961年にケンブリッジ大学でPh.D.取得。著書に『銃・病原菌・鉄:一万三〇〇〇年にわたる人類史の謎』でピュリッツァー賞。『文明崩壊:滅亡と存続の命運をわけるもの』(以上、草思社)など著書多数。

「2018年 『歴史は実験できるのか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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