猫を棄てる 父親について語るとき (文春e-book) [Kindle]

著者 :
  • 文藝春秋
3.57
  • (16)
  • (45)
  • (48)
  • (8)
  • (1)
本棚登録 : 356
感想 : 50
  • Amazon.co.jp ・電子書籍 (63ページ)

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 亡くなった父親との関係を基調に自身のルーツを辿っていく随想記。初出の月刊文藝春秋掲載時に読み、先月香櫨園界隈を散歩したら、あらためて読みたくなって…。

    話は、著者が小学生の頃に暮らしていた西宮 夙川からほど近い香櫨園浜に父と猫を棄てに行った思い出から始まる。帰宅してみれば、棄てたはずの猫がなぜか先に家に戻っていた。父は〈呆然とした顔〉から〈感心した表情〉になり〈いくらかほっとした顔〉になった。それは忘れ難いものとなった…。余談だけど、北野武の場合は犬だけど、これによく似たエピソードを語っている。

    ファンタジーめいた、微笑ましいエピソードの下りには穏やかな空気が立ち昇るも、父親の人生を大きく揺さぶり、以降の人生と精神を激変させた戦争体験の話に至ると、途端に筆致は変わる。

    村上春樹の父 千秋氏は1917年(大正6年)京都 浄土宗の寺の次男として誕生。二十歳で召集され、中国へ渡る。著者は、自身が小学生の低学年の頃、『所属した部隊で、中国人捕虜を処刑した』と父親から打ち明けられる。

    《中国兵は、自分が殺されるとわかっていても騒ぎもせず、恐がりもせず、ただじっと目を閉じて静かにそこに座っていた。そして斬首された。実に見上げた態度だった、と父は言った。彼は斬殺されたその中国兵に対する敬意を―おそらくは死ぬときまで―深く抱き続けていたようだった。》

    こんな話を聞けば、幼くても、軍刀で人の首がはねられるという残忍な光景は眼前に浮かぶ。心的外傷を与えかねない強い衝撃と、戦争に対する恐怖やエグさが心に深く刻まれる。

    結果として、父から継承を受けた『戦争の擬似体験』を作家となった息子は幾度となく戦争体験を作中人物に語らせるシーンを登場させる。『ねじまき鳥クロニクル』では、1934年の中国とモンゴル国境のノモンハンで、モンゴル軍と衝突したノモンハン事変、『騎士団長殺し』では、1937年の旧日本軍の占領下で起きたとされる『南京事件』を。

    さて著者と父親の関係は、作家となり、関係は次第に疎遠になっていく。父は二度の召集により勉学を中断せざるを得なくなり、方や息子は勉強より好きな事に熱心になり、父を落胆させたことを後ろめたく思うようになる。以降20年余、顔を合わせることはなく、2008年に父親が亡くなる少し前にようやく和解。

    そこから、自身のルーツを辿る格好で、父親の軍歴も詳細に調べ、父親の生涯を縦軸にノンフィクションタッチで話は展開する。

    一般に『歴史』というと、時代の移り変わりと
    いった大きな時間の流れを指しているような思うが、個人や家族の内側にも歴史は存在する。教科書で習う第二次世界大戦も、父親の戦争体験を知ることで、それはたちまちにして、身近で現実性を帯びる。ただ、自分の中にある痛切な記憶は、概して口は重くなりがちではありますが…。

    本書は、父のオーラルヒストリーを端緒に、小説家 村上春樹の小説家という肩書を下ろし、村上千秋の息子 春樹として『顔』が随所に見られた稀有な随想記である。


  • 父親との確執というテーマはちょっと気乗りがしないまま読み始めたが、猫のエピソードと挿絵でさらさらと読めてしまった。ちょっと前にねじまき鳥を読んだので、村上春樹がなぜ戦争の物語を書き続けるのかということを考えるにはヒントになるかもしれない。

  • 村上春樹さんがお父様について語った本として話題になりました。
    お父様について少し、京都のお寺の6人兄弟(男ばかり)の次男として生まれ、お坊さんの学校を出た後京都帝国大学の文学部で学ばれ、俳句同好会で句を詠んだり、もちろん勉学にもいそしまれ、とにかくまじめなで優秀な方だったらしいです。
    その間に徴兵されて(対中戦争)中国戦線に送り込まれる。
    実は村上さんが長らくお父様について触れられなかったのは、この戦争体験が大いに関係していたのでした。
    村上さんはある疑惑を持っていて、その事実を知ることを避けてこられたのです。
    しかしお父様がお亡くなりになりはっきりさせたくて、関係者の方々の話や、残された手記などから、お父様はその事件に関わっていなかったという確信をされ、肩の荷を下ろされたということですね?
    そしてやっとお父様ときちんと向き合って、冷静に過去を振り返ることができたということですね?
    20年以上疎遠で亡くなられる少し前に再開し、和解のようなことをしたとあります。
    お父様にはお父様の思い、村上さんには村上さんの思い、お互いわかっていても譲れないものがあるし、親子なので頑なな性格も似ているだろうし、そういうことですよね?村上さん?

    文芸春秋の単行本を読みました。

  • 村上春樹さんが語る父親とは、、、。挿絵を眺めているとノスタルジックで、幼少期の村上さんがそこに居るみたいに感じました。なんとなく村上さんとお父様の性格が似ている部分もあるように感じがしました。親子なんだなぁ、と。淡々と書かれてるようにも思いますが、書きたくない部分もあったみたいですし、その内容はどんな事柄だったのか知りたいような知りたくないような、、、。村上さんのファンなら読んでおきたい一冊だと思いました。

  • 村上春樹もおじいちゃんになったんだなぁと改めて。
    親子というのは文学のテーマとしてかなり根源的なんでしょうね。

  • 人に歴史あり。

  • 猫を棄てる~父について語るときに僕の語ること

    村上春樹
    文芸春秋
    2019年六月特別号

    村上春樹が、これまでほとんど語ってこなかった家族について初めて書いたエッセーとの記事が、5月10日の朝刊に出ていた(日経と朝日しか見てないが両方とも)ので、本屋に行く。
    見当たらない。
    もう売り切れたのかと思って聞くと、まだ並べていなかった。でっち(台車)に積まれた中から出してもらい、購入。
    彼と父親との関係だった。
    20年ほど、ほぼ交流がなかったが、死ぬ少し前に「和解」のようなことをしたという。
    しかし、なぜ断絶のような関係になったかについては、なにも書かれていなかった。

  • 村上さんとそのお父様とのお話。
    村上さんが父方の叔母と同い年、お父様は父方の祖母(つまりその叔母の母親)と同い年ということがわかり、書かれている内容に親近感を持って読んだ。そしてあとがきに書かれていたけど猫がとっかかりになっていたのですんなり入り込めた気がする。
    自分の親、祖父母がどう生活していたかを知りたいと思った。

  • 何も知らないで村上さんの本というだけで読み始めたので、リアルな話だと気がつくまでに結構かかりました笑 父親との思い出と、父親の辿った人生の軌跡を紐解きながら、それぞれの人間の人生は偶然や必然の重なりで生まれているものだけど、世界を形作る一部として機能しているというところに思い当たる。人生の主人公は自分ではあるけど、一人一人が物語を持っている主人公なんですよね。猫ちゃんがちゃんと帰って来られて良かったです。

  • 最後に込み上げてくるものがありました。
    なんだろう、わからないけど。
    こうやって、一人一人の物語が歴史を作っていく。

全50件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

1949年 京都府生まれ。著述業。
『ねじまき鳥クロニクル』新潮社,1994。『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』新潮社,1985。『羊をめぐる冒険』講談社,1982。『ノルウェイの森』講談社,1987。ほか海外での文学賞受賞も多く、2006(平成18)年フランツ・カフカ賞、フランク・オコナー国際短編賞、2009年エルサレム賞、2011年カタルーニャ国際賞、2016年ハンス・クリスチャン・アンデルセン文学賞を受賞。

村上春樹の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
村上 春樹
恩田 陸
村上 春樹
恩田 陸
ピエール ルメー...
有効な右矢印 無効な右矢印
ツイートする
×