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感想・レビュー・書評
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二〇一八年創刊の創元日本SFアンソロジーをここ数ヵ月続けて読んでいるが、人類が新型コロナウイルスを知った後に初めて刊行された(二〇二〇年八月)のがこの第三巻だ。そういうこともあって、私にしては珍しく、あとがきにあたる「編集部より」から読んだ。世界の変化とSFについての、東京創元社編集部のメッセージはさすがにかっこよかった。
■宮澤伊織『エレファントな宇宙』
(途中で挫折)
■空木春宵『メタモルフォシスの龍』
痛くて、そういえば前作(というのはGENESIS2所収の『地獄を縫う』)も痛かったけど、今作の方が痛描写率が高くて、いいい~っとなりながらも続きが気になって読んじゃう。続きが気になったのは前作が凄かったからだが、前作も、味わいとして好みに合ってるかどうかというとそうでもなく、それでも衝撃が大きすぎて「読んで良かった」という意味ではナンバーワンだった。今作はそれに比べると満足度は八割くらいだけど、テーマやディテールは色々と象徴的で本歌取りの手法も見事で、巧みだなあと感じる。
■オキシタケヒコ『止まり木の暖簾』
「宇宙人に拐われる」という事件を他の何か現実に起こりそうな出来事に置き換えて、ラストの可笑しみさえ諦めてしまえば、SFじゃない普通の小説(人情話?)としても成立しそうだ。でもSFだからこその寓話性が、現実に対する批評とか風刺とかユーモアをもたらすのかな。
■松崎有理『数学ぎらいの女子高生が異世界にきたら危険人物あつかいです』
この作家さんはここまでのGENESIS皆勤で、前二作はどちらも各巻の中で最も星新一味が感じられたのだが、今回は一転、タイトルからしてラノベ風。共通しているのは親しみやすさとほのかなユーモア。内容は、要は数学(論理的に考えること)の楽しみに開眼するお話で、まあ大事なことだとは思うしちょっと数学やりたくなっちゃったけど、身を震わすような感動はなかった。
■堀晃『循環』
大阪キタの河川工事の歴史と、後期高齢者となった主人公男性の社会人としての半生の回想を重ねる不思議な小説。作中で語られる、「人生を四季になぞらえて、青春、朱夏、白秋、玄冬に分けてみると…」という概念は知ってはいたが、今回これを読んで初めて自分の四季にも思いを馳せた。またラストの、作者自身が老いと向き合う心模様も味わい深い。
■宮西建礼『されど星は流れる』
コロナ禍の現代社会を、真正面から題材に、というか舞台にというか前提とした作品。もしかするとそういう物語を読んだのは初めてかもしれない。本書の刊行時期を考えると、今(二〇二二年六月)よりもずっとずっと、先行きが見えず暗中模索で胸塞がれる状況の頃に書かれたはずだ。しかし、それでいてこの高揚感、胸の高鳴りたるや!ストーリーは、学校が閉鎖となり通常の部活動ができなくなった天文部所属の高校生たちが――といっても部員は二人――、我が部はどうなってしまうんだ…と途方に暮れているところから始まる。この二人が、世情の閉塞感を当然背負いながらも、心を燃やして打ち込めるものに向かって邁進し、そして自然と同志たちとつながっていく様が、ラストの一文まで熱い。熱いけれど人間のタイプとしては熱血とかキラキラじゃなさげだし、文章のトーンもそんなに青春小説めいていないところがまた良い。「同時観測」という技術や「市民科学」という概念も誠に興味深かった。大好き!(あれ、これってSF?)
■折輝真透『蒼の上海』
ちょっと私には難解で受け止めきれなかったが、ところどころハッとしたり。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
先にオキシタケヒコ先生の通商網シリーズ1作目『What we want』を読んでたので、『止まり木の暖簾』で語られるスミレさんの姿に「あのかっこいいスミレさんにそんな過去が!」と感動してしまった。
人情味溢れる街の料理店に集まる人たちが宇宙人の話をしてるの良い。そういう現実味と非現実がクロスする設定好きです。
空木春宵先生の『メタモルフォシスの龍』は再読だけど、オチまで分かってると主人公の行動ひとつひとつが切ないなぁ……。 -
9人の作家によるSF短編集。内2作「エレファントな宇宙」と「循環」は既読。「メタモルフォシスの龍」と「止まり木の暖簾」が印象的だった。創元SF短編賞受賞作の「蒼の上海」は設定がハイブローすぎてイメージが追いつかず、面白そうだけどノリきれない気分になった。