いのちの停車場 (幻冬舎文庫) [Kindle]

著者 :
  • 幻冬舎
4.12
  • (24)
  • (40)
  • (11)
  • (2)
  • (0)
本棚登録 : 252
感想 : 36
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・電子書籍 (321ページ)

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 大学病院の救命救急センターに勤務していた主人公が、故郷の訪問診療クリニックに転職する。そこで行われる医療・看護は救命救急センターで行われていたものとは180度方向性・目的が異なるものだった。そこで主人公は戸惑いながらもアグレッシブで挑戦的な医療に取り組む。老老介護や終末期医療などと一言では言い表せない世界に奥深さを感じ、その世界に引き込まれ読み進めることが出来た。
    改めて訪問診療医や訪問看護スタッフの皆さんの献身的な取り組みに頭が下がる思いがした。

    最後の章で主人公は父親の希望する自宅治療を始め葛藤する。消極的安楽死・尊厳死を進めようとする主人公と、脳卒中後疼痛に苦しみ「楽にさせてくれ」と訴え積極的安楽死を希望する父親。後者は日本においては犯罪行為とされている。苦悩の末、『死を創る』ことを世に問う決意をする主人公。
    自らの意思とは関係なく延命治療を施された私の母の姿を思い浮かべながら本書を読了した。

  • 出だしは、ものすごい医療用語の羅列で
    緊迫した現場の雰囲気もよく感じるが難しい、
    と思っていたところ、
    金沢に赴いてからは、
    土地鑑とあるからか?情緒豊かに描かれていて、
    私も金沢に何度か行ったことあるし、
    イメージしながら楽しく読めた。

    在宅医療の難しさ、よく分かった。
    後遺症としての疼痛についても全然知らず、こんな苦しみがあるなんて全く気の毒で、
    尊厳死を受け入れてあげてほしいと思う一方、
    父を失いたくないという思い、
    医者としての倫理観との葛藤、
    それをクリアするのがあの結末、
    というのも見事だった。

    私も、家族に面倒をかける前に死にたい、
    と思っている。
    でも、その時になったら死にたくないと
    思うんかなぁ、とか。
    意識がきちんとあれば、
    尊厳死を依頼するかなぁとか。
    その頃には制度も変わってるかもしれんけど。

    現代医療の飛躍的進歩と、
    神の領域に立ち入りすぎたんじゃないかというような思いと。
    作中セリフにあったように、
    生きるということは、食べること、
    自力で食べられなくなったら命は終わり、
    といった内容のやつ。
    同感もしつつ、
    でも、医療で繋ぎ止めている命によって、
    勇気や生き甲斐を得ている人もいて。

    難しい。

  • 周り中から勧められていてようやく読みました。
    映画は吉永小百合さん主演で話題になってました。

    在宅医療がテーマ。
    舞台が金沢で、知ってる街並みがいっぱい出てくるのでなかなか楽しい。

    でも人の死に向き合う話なので、細やかに登場人物の内面描写されてて、読めば読むほど辛くなってくる。特に6歳の女の子が自分が死ぬことをわかっていて、それでも両親に思い出を残したいと願って海に行くシーンも悲しい。

    最後のシーンで安楽死問題と向き合うのだけど、
    それも辛い。
    そしてちょっと尻切れとんぼな感ある。

  • 在宅医療、訪問診療をテーマとした医療小説。「サイレントブレス」と同じ構成。

    今回の主人公は、超真面目なベテラン医師の白石咲和子(62歳)。東京の大学病院の救急救命センターの副センター長を引責辞任し、生まれ故郷、金沢に戻って高齢の父(元研究医)と二人暮らしを始めた咲和子だが、のんびりする間もなく、急遽知り合いがやっている在宅専門の「まほろば診療所」を手伝うことに。

    救急医療との勝手の違いに戸惑い、バラエティに富んだ患者たちと日々悪戦苦闘する咲和子。

    ドケチ爺さんの老老介護あり(第1章)、IT企業のやり手社長の幹細胞移植へのチャレンジあり(第2章)、ごみ屋敷に住むセルフ・ネグレクトの母親の介護あり(第3章)、信念の厚生官僚の終末期医療あり(第4章)、6歳の小児癌患者の看取りあり(第5章)、そして激痛に苦しむ父親の積極的安楽死あり(第6章)、と盛り沢山な内容だ。

    中でも、第5章(人魚の願い)は泣けた。家族と念願の海に出掛けた瀕死の萌が両親に言ったセリフ、「萌ね、癌になっちゃってごめんね」、「癌の子でごめんね」、「萌ね、人魚になっても、パパとママの子になりたい」で目頭が熱くなった。父親の「萌は、これからも私も妻が生きていけるように、私たちを海に連れて来てくれたのかもしれない」にも思わずジーンときた。

    そして第6章(父の決心)。父親から「積極的安楽死を頼む」と言われた時の咲和子の、医師の職業倫理と娘として父親を楽にさせたい気持ちの激しい葛藤に心が震えた。こんな決断を娘に迫るなんて、お父ちゃんも酷やなあ(でも、人生の最後を心静かに迎えたいという気持ちも分かるしなあ)。

    特に色濃い沙汰や人間関係のトラブルはなく、訪問診療の日々が淡々と語られているのもいい。舞台が古都金沢というのもいい。

    読み応えたっぷりだった。

    あれ、この作品、映画化されててしかも今公開中だったんだ! ネット見てて今気づいた。

  • 映画の上映が始まったが見るかどうか迷ったのでkindle unlimitedにあったので読んでみることに。医者の書く小説は珍しくないがどちらかと言うとエンタメ系のものが多く医療以外にもひともうけと言うものが多い。本作は医療の矛盾と命の問題を真摯に問うたものだ。夏川草介が病院中心の急性期医療であるが、本作はどちらかと言うと終末期医療で救いのない物語であり、命の終え方と最後は積極的安楽死の問題にも切り込んでいる。コロナでは完全に国民を敵にした日本医師会も老人相手の金儲けばかりでなく真摯に医療問題を考えて欲しいものだ。映画は見ることにする。

  • 在宅医療をテーマにした小説。Kindle Unlimitedにて読了。Unlimited対象になっていたのは、本作の映画公開に合わせたのでしょうかね。
    Kindleアプリで見るまで本作の存在を知りませんでしたが、2020年5月に原作が出版、9月から吉永小百合主演で映画の撮影を開始し、2021年4月に文庫化、5月に映画公開、と…何と言うか、実にスピード感のあるプロモーションですね。(そしてそれにまんまと引っ掛かっている私…(笑
    著者は出版社勤務→主婦→内科医→小説家という、非常に納得感のある経歴。医療小説としてのリアリティもありながら、病気のメカニズムから医師側の心情までをわかりやすく伝えていて、非常に読みやすいです。

    人の心を動かす=(良くも悪くも)感動させるため、「命」や「病」を描写するのは王道中の王道で、医療はこの世界の我々の日常では、最もそれに近い場所にいる訳です。
    だからこそ、いち読み手としてはちょっと期待しすぎてしまうきらいがあって、いや、面白いし読みやすかったけど、医療小説ならもっと行けるだろ!というご無体な要望を持ってしまうのです。。

    本著の導入として、東京での緊急医療から始まり、故郷金沢での在宅医療に進むという、対極的な医療シーンを配置する図もわかりやすいし、在宅医療での「看取り」というのは社会的にも重要なテーマだし、終盤に積極的安楽死を取り扱うのもセンセーショナルだし、と…どれも要素としては素晴らしいと思うのです。
    ただ、それが感動に直結するかと言うと、上記が非常に現実的な要素だからこそ、描くのがとても難しいのではないかと。。
    ※あるいは私自身の現実での状況として、あまり上記を身近に感じていないからかもしれないし、もしくは先月やたらドラマチックな『Dr.コトー診療所』を再読した影響かもしれません(笑
    とはいえ、ドラマ「コード・ブルー」をキッカケにドクターヘリが普及したように、本著がキッカケとなって在宅医療の世界がより良くなるのなら素敵なことですね。

    ちなみに、本著ではモンゴルの馬乳酒が登場しますが、前にモンゴルのゲルでいただいて、酸っぱさに悶絶した記憶が想起されました(笑
    ただ、あれは夏の短い季節しか作れず、そんなに保存が利くものでもなかったような。。

  • NHKのあさいちに著者の南杏子さんがゲストで出ていた回を見て、早速買って読みました。

    ちょうど映画化もされて、題名は知っていましたし、ドラマ化された「ディア・ページェント」は途中まで見てました(ストーカーな患者さんの演出がホラーすぎて途中から見られなくなってしまっていましたが……(ホラー、苦手〜))。


    病院での医療しか目にすることがなかった私には、とても勉強になる小説でした。ドキュメンタリーを見るような気持ちで読んでいました。

    こんなふうに、患者や患者の家族に寄り添って考えてくれる先生に出会いたいものです。

    小説は、オムニバス風に6つの物語が書かれていました。高齢者の看取りだけでなく、在宅医療から最先端技術にバトンタッチする話や、若い世代の在宅看取りや、小児がん患者や、そして、医師視点だけではなく、患者の家族視点まで。

    5章、6章が印象的ではありますが、私は第1章で先生が患者に対して行った「死のレクチャー」がとても心に残りました。私達一般人は、死がどのように訪れるのか経験したこともなくて全く知らない。だから怖い。何が「普通のこと」なのかわからない。小説の中の先生は、患者の家族に、それを優しく教えてくれた。こんなふうに、きちんと導いてくれる先生にリアル世界で出会いたいと、本当に思いました。

    咲和子先生の「死のレクチャー」、どこかで受けられないでしょうかね。映画では描かれているのかな。映画も見に行ってみようかな。



    ドラマでは途中から見られなくなってしまった「ディア・ページェント」も、小説としてならあまりホラーホラーしないで読めるかな。読んでみようと思いました。


    自分用メモ
    ・死のレクチャー
    ・レスパイト・ケア
    ・脳卒中後疼痛
    ・積極的安楽死

  • ほんとの気持ちは、ぶつけていこうと思えた。

  • 在宅医療の現場では、患者本人だけでなく介護者(家族など)への支援も大切だと伝わってきた。支援拒否やセルフネグレクトのケースでの適切な声かけも、さりげなく描かれていてよかった。あっさりうまくいきすぎていると拍子抜けした時もあったが、在宅医療は細く長く繋がり続けていくと思うので、物語性をとれば、うまくいっている局面を切り取るやり方をしたとみてもいいと思った。父親に関する話については、どうなんだろう?と思ってしまった。

  • 在宅医療で患者の生活と命に向き合った咲和子医師と彼女を囲む人たちの格闘記。5つの物語が、金沢の風景と共に編まれている。自分もその時が来れば、こんな医療を受けたいと思う。数々の医事小説をものにしておられる著者ならではの文章に心打たれる。
    これを受けた最終章は、咲和子さんの父親の看取り。それもいわゆる「積極的安楽死」に行き着く。判例の適法基準を引用しつつ、咲和子さんと父親のやりとりは胸を打つ。
    改めて在宅診療の重みを知らさされた。

全36件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

1961年徳島県生まれ。日本女子大学卒。出版社勤務を経て、東海大学医学部に学士編入。卒業後、慶応大学病院老年内科などで勤務したのち、スイスへ転居。スイス医療福祉互助会顧問医などを務める。帰国後、都内の高齢者向け病院に内科医として勤務するかたわら『サイレント・ブレス』で作家デビュー。『いのちの停車場』は吉永小百合主演で映画化され話題となった。他の著書に『ヴァイタル・サイン』『ディア・ペイシェント』などがある。


「2022年 『アルツ村』 で使われていた紹介文から引用しています。」

南杏子の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
中山 七里
又吉 直樹
東野 圭吾
東野 圭吾
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×