57歳で婚活したらすごかった(新潮新書) [Kindle]

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感想・レビュー・書評

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  • 6、7年ほど前から、婚活パーティーの司会をしています。
    会場は、自分の職場のあるまちで30年近く営業しているカフェ。
    そこのママさんに頼まれたのがきっかけで始めました。
    パーティーは多い年で年3、4回ほど。
    自分も、それなりに時間と労力を費やしていますが、これだけは当初から完全にボランティアです。
    なぜなら、さまざまな人間模様が見られ、自分にもプラスになるからです。
    将来を共にするいいパートナーと巡り合いたい。
    参加者の気持ちは切実です。
    少しでも協力できれば―という思いもあります。
    そんなわけで、本書を手に取りました。
    57歳の男性ライターの婚活ルポ。
    結婚相談所や婚活パーティー、婚活アプリを駆使して、結婚相手を見つけようと奮闘する日々を赤裸々に描いて読ませます。
    いいなー、こういう体当たり的なの。
    大好きです。
    著者はバツイチで年収が不安定なフリーランス、容姿も並み以下といくつもの「ハンデ」を抱えています。
    婚活現場では、年収や容姿に恵まれた男性を「優良物件」と呼ぶそうですが、優良とは程遠い。
    何より57歳という年齢が、相当にネックのようです。
    婚活アプリで知り合い、首尾よくデートにこぎ着けた41歳女性に著者がメッセージを送り続けたところ、
    「連絡すんなって書いてあんの読めないのかよ。老眼鏡つけとけよ。てめーからLINEくるだけでゾッとして不眠になるわ。クソ老人!」
    と罵倒されるメッセージが届いたといいます。
    胸が痛くなりました。
    ただ、出会いは意外と少なくないようで、時にデートしたり、それ以上の関係に発展するエピソードは、軽く嫉妬を覚えるほど。
    もっとも、本書を著した時点で成婚には至っていないようです。
    婚活は一筋縄ではいかないのだと実感しました。
    結婚相談所、婚活パーティー、婚活アプリとツール別の対策も載っており、一読して参考になるとも思いました。
    さて、自分は婚活パーティーの司会をしていると書きましたが、2019年11月の開催を最後に途絶えています。
    言うまでもなく、新型コロナウイルスの影響。
    本書にも「コロナ禍で追い詰められる婚活者たち」ということで1章が割かれています。
    「会えない相手とアプリで延々会話」という描写が何とも切ないです。
    コロナ禍で職を奪われ困窮する婚活女性のエピソードも出てきます。
    著者とレストランで食事をして、帰り際に女性の吐いた
    「えっ、帰る前に、わたくし、食べたいものがあります。最後にステーキを注文してはいけませんでしょうか? 牛肉の鉄分もいただきたいので」
    の言葉は胸に迫るものがありました。
    婚活者はもちろん、既婚者も一読に値する本だと思います。

  • 書店で目に止まり購入。タイトル通り凄かった。

    実際に使っているからこそ出てくる生生しさは、あまり実態を知らない自分にとってはインパクトの強いものだった。奢られたことしかない人って、結構いるのかと。

    また終盤のコロナ禍での婚活部分は、女性側の切迫感が別の意味でも強くなって来ているのが伝わってきて印象的だった。

  • 結婚を目的とした活動──婚活には周期がある。仕事の繁忙期は〝婚意〟は眠っている。ところが、忙しさがひと区切りつき、時間ができると、婚意はむっくりと頭をもたげる。自分の中に眠っている「結婚したい」という願望に気づき、婚活パーティーに参加する。やがて忙しくなると、婚意は鎮まる。しかし、繁忙期を過ぎると、また結婚したい波が訪れる。そのくり返しだ。

    コロナ禍によって、「結婚したい」願望は「結婚しなくてはならない」になった。パートナーがいれば助け合える。「愛する女性と手を携えて生きていきたい」と願った。 ジジイがよくもまたこりずに──と、周囲に言われるのは承知している。熟年婚活とは、寂しさが恥ずかしさに勝ったときに始めるものなのかもしれない。

    一方、保険のきいていない、リスクをともなう婚活は、日常生活で交際相手と出会えない、モテない男女がこっそりやるものだと思われていた。だから、友だちには内緒にしておきたかった。いわゆる〝婚活村〟にいるのは、男女とも追い詰められた40代以上が主流だ。とくにネット系の婚活アプリは、社会の理解を得られていなかった。セックスを目的とした出会い系サイトとなにが違うのか──。そのあたりが一般的にあいまいだったからだろう。

    女性の場合は「細い」「やや細い」「ふつう」「グラマー」「ややぽちゃ」「ぽちゃ」から選択する。周囲の評価がデブでも、自己評価で「グラマー」を選ぶことはできる。職種も、年収も、婚歴も、子どもの有無も偽ることはできる。未記入でもいい。 自己申告の項目が多いので、ナンパ目的の男性や妻帯者はまちがいなくいるだろう。美人局の女性もいるかもしれない。男女ともリスクは伴う。 しかし、何もしなければ、パートナーを見つけることはできない。一歩踏み出さなくては、人生に新しいことは何も起こらない。●女性が結婚相手に求めるもの ①性格 95・0% ②経済力 67・2% ③恋愛感情 53・6% ④健康 52・4% ⑤趣味 42・6% ⑥親の同意 33・9% ⑦容姿 33・8% ⑧自分の仕事に対する理解 32・2% ⑨年齢 27・9% ⑩職種 26・9% このアンケートを見ると、女性が求めている条件がよくわかる。 1位は「性格」だが、よほどのマゾでなければ、性格の悪い相手など求めない。3位の「恋愛感情」、4位の「健康」も誰もが求める常識的な希望だ。恋愛感情は大前提だし、元気なほうがいい。 それを考えると、女性が男に求めているのは②の「経済力」ということになる。

    ●男性が結婚相手に求めるもの ①性格 91・9% ②恋愛感情 47・0% ③容姿 46・4% ④家事能力 41・2% ⑤趣味 39・3% ⑥健康 35・8% ⑦自分の仕事に対する理解 33・1% ⑧年齢 27・4% ⑨親の同意 14・7% ⑩経済力 12・4% データを見ると、「性格」「恋愛感情」「健康」については、女性が男性に求める条件同様、常識の範囲内だ。つまり、男が女性に求めるのは③の「容姿」だ。また、女性に④の「家事能力」を求めている男が41%もいる。男がいかに封建的なのかを示している。

    30代を過ぎれば、人柄のよさも悪さも必ず顔に表れる。美醜のことをいっているわけではない。男女とも、優しく微笑む人で性悪な人は少ない。きつい目で優しい人も少ない。笑っていても、性格のきつい人の目は厳しい。写真がないと、そのあたりの判断ができない。 僕は雑誌の取材現場でプロが撮影してくれたバストアップの写真を使わせてもらった。実はその一点しか持っていなかったのだ。50代のオヤジに、自撮りの習慣はない。

    男は女性に容姿や若さを求めるという事実を知ったうえで、婚活市場価値の高い10代の女性たちが経済的・学歴的・外見的にハイスペックの相手をさがしているのだという。なかなかしたたかだ。 女性会員の写真はほとんどが日常のスナップ。自撮りも多い。どの世代の女性もきれいに写っている。



    このような誠実そうな自己紹介文も多い。一度結婚の経験がある女性は安心できる。過去にその女性と人生をともにしようと決めた男性がいたあかしだからだ。 一方、シングルで、美しく、仕事にも自信を持っていそうな女性については、いろいろと想像をめぐらせた。なぜ一度も結婚していないのだろう? エキセントリックな性格なのだろうか? 遊びまくってきたのだろうか? 美人局ではないだろうか? 女性会員が男性会員のプロフィールをチェックするときも同じだろう。高年収、イケメン、高学歴で婚歴がなかったら──。DVか? 借金があるのか? ギャンブルに狂っているのか? 特殊な性的嗜好があるのか? 不安を感じる。
    そして女性の顔に魅力を感じたとしても、「顔が好みです」などとは書かない。「お写真の表情から知性を感じました」「品のよさ、清潔さに魅かれました」などとした。自分がどんな女性を求めているか、どんな関係を築きたいか、どんな仕事をしているかも明記。さらに、趣味が近い女性や、相手の仕事に興味を覚えたら、そのことを書き加え


    婚活アプリでマッチングした女性と食事をする場合、苦手な食べ物を確認したうえで、イタリアン、フレンチ、和食、アジアン……など、それぞれお店を提案。そのなかから女性に選んでもらった。 しかし、納得してくれないケースもある。 「行ったことのある店ばかりだから、知らないところに連れていってほしいなあ」 このように、もっとお店を提案するように求めてくる女性もいる。 会ったこともない相手になんでここまでご奉仕しなくてはいけないのか──。ばかばかしくなってくる。「ご提案したなかから選んでくださいよ」と言いたい気持ちをぐっと抑える。今の状況が婚活市場における僕の商品価値、と自分に言い聞かせる。

    「お見合いの場に別人のような女性が現れたら、チェンジはありですか?」 またもや思ったことが口をついて出てしまう。 「いけません! 私どもはそういう種類のお店とは違いますので」 電話の向こうは急に強い口調になった。 「そうですか……。ならば、写真をつくり込んでいるか、見破る方法はありますか?」 「それはご自身のスキルを磨いていただくしかないかと」 「スキルを磨く……」 「はい。あっ、一つポイントを申し上げましょう。モノクロ写真は加工されている前提で見てください」 コジマさんはきっぱりと言った。
    好みのタイプには「何でも話し合える女性」と記入した。夫婦であれ、親子であれ、兄弟であれ、意識して言葉で伝え合わないことにはおたがいが何を考えているかわからない。言葉にしなくても察してもらうなど、かつての高倉健や藤竜也限定の特権だ。 「あとは、これから申し上げる書類を提出していただき、入会金と年会費をご入金いただけれ

    「お育ちも学歴も申し分ないかたです。こんな女性がシングルでいらっしゃることが、相談所のスタッフの私ですら信じられません」 「中学入学から大学卒業までずっとテニス部で活躍されたスポーツウーマンです。いつお目にかかっても明るく、私も元気をいただいております」 そんな内容が書かれていた。 コジマさんはどんなことを書くか、心配になった。なにしろ真っ白スーツの男だ。 そこで、僕は「担当カウンセラーからのPR」を自分に考えさせてほしい、と希望した。 「実物は40代半ばに見えます、と書いていただけますか」 図々しく頼み、承諾を得た。
    結婚相談所での婚活も、スタート当初は苦戦した。B社のホームページを介して何人もの女性にお見合いを申し込んだものの、次々と断られた。一か月で許されている上限いっぱいの20人にお見合いを申し込み、断られた数は19人。システムが故障しているのかと思うほどの惨状だ。50代後半は初老に見えるのだろう。婚活アプリで出会ったマリナさんに「クソ老人」とののしられた記憶がよみがえる。実際に自分が40歳のころ、50代後半は違う時代を生きている人たちだと思っていた。

    「はい……」 顔を見られたくなくて、視線を下に落とす。 「ハナゾノメグミです」 僕はあわてて顔を上げ、声をつまらせた。目の前には、写真とは別人のような白髪交じりの女性がいた。 カウンセラーのPRコメントは、明らかに誇大広告だ。相談所のプロフィール画面で実年齢を知らなければ自分よりも年上だと思っただろう。30代には見えないし、もちろん20代とも思えない。こうなる可能性があることを想定していないわけではなかった。しかし、想像を超えてギャップは大きかった。

    見た目の良し悪しだけではなく、一つ噓があると、年齢も、職業も、すべてに疑いをもってしまう。だから、何を話しかけられても、うわの空で対応してしまう。そんな自分に自己嫌悪も覚える。悪循環だ。 「イシガミさん、あまりお話しにならないんですね?」 「あっ、はい、まあ、そういうわけでも……」

    「一つ偽りがあると、ほかの全部が噓に思えて、積極的に会話ができません」

    メグミさんとのお見合いで、それまで無自覚だった自分のコンプレックスに気がついた。僕は女性をつい容姿で判断する。それは自信のなさと背中合わせだ。自信がないから、見た目のいい女性を求めてしまう。「お前、いい女と結婚したなあ」という周囲の評価が欲しいのだ。そして容姿に引かれて付き合うから、相手の心ときちんと向き合わない。しかし、わかっていても、変えられるものでもない。

    失恋 目が覚めると、視界がぼんやりとして、まるでヴェールに覆われている気がした。 体に力が入らない。どういうわけだ──。徐々に脳が覚醒してくる。 そうだ、オレ、ふられたんだ……。 自分がおかれている状況を思い出す。こんな朝が、もう1か月以上続いていた。2019年の秋のことだ。婚活でこんな思いをするとは。 「あああああー!」 天井に向かって叫び、自分に活を入れ、ベッドから起き上がる。

    ところが、57歳でガツンと足腰も立たないくらいに打ちのめされた。 その女性はアイコさん。50歳。美大を目指す子どもたちに個人レッスンで画を教える仕事をしていた。 彼女とはB社を通して出会った。 「新規のお見合いの申し込みがあります。応じますか?」

    ラウンジに入ると、すでに彼女は座っていた。あわててテーブルに駆け寄って挨拶をすると、輝くような笑顔で応じてくれた。今思うと、あの笑顔で僕は腑抜けにされた。 僕は高揚し、婚活をしているいきさつ、仕事のこと、好きな映画や音楽について、しゃべりまくった。彼女も自分について、隠さずに話してくれた。
    たとえば、世の中の妻は夫が浮気をするとすぐに気づくらしい。しかし、妻の浮気に夫は気づかない。男は概して阿呆で、すべてが態度に表れる。でも、女は見破られないように完璧にふるまえる。

    「相談所での3か月間の交際、ありがとうございました。とても楽しい時間でした。でも、結婚を前提としてのお付き合いは難しいと感じたので、すみません。お会いしている過程で、私は安定したお仕事をしているかたと静かに暮らしていきたいのだと気づきました。ご縁はありませんでしたが、おたがい頑張りましょう」

    再会 その日から体に力が入らなくなった。何をしても楽しくない。何を食べてもおいしくない。ベッドに入ると10時間でも15時間でも眠ってしまう。 これはまずい、と感じて毎朝必ず9時からジムでエクササイズを行うことにした。ストレッチをひと通りやって、レッグプレス、チェストプレス、腹筋マシン……など、鉄の塊を力いっぱい持ち上げたり、押したりを1時間ほどくり返す。朝きちんと起きて、決まった時間に、決まったことをしないと、生活がむちゃくちゃに乱れると感じた。 仕事には没頭した。必死に働いている時間は失恋したことを忘れられる。とくに取材には救われた。相手に向き合って質問をするには大変な集中力が必要なので、ほかのことをまったく考えない。しかし、取材が終わると同時に心がふにゃふにゃになった。

    毎週月曜日から金曜日まで、僕はガツガツ働く。気を緩めると、アイコさんにふられた記憶がよみがえるからだ。土曜日の午後、ケイコさんがやってくる。二人でご飯を食べ、翌朝までベッドで過ごす。日曜日の午後にケイコさんが帰ると、すぐにシーツを取り換える。やがてジュンさんが訪れる。食事をして、翌朝までベッドで過ごした。月曜日の午前にジュンさんが帰ると、金曜日まで狂ったように働く。 そのサイクルを1か月くり返し、この暮らしは人としてまずいと思った。ケイコさんにもジュンさんにも失礼極まりない。心も壊れると感じ、B社を退会することにした。

    このときまで、婚活のツールによってすでに多くの女性と会っていた。ただし、ほとんどは1、2回。5回以上会った人など数人しかいない。しかし、時間の許す限り会う回数を重ね、相手が何を求めているのかを察し、自分が何を求めているのか胸にもっと問いかけなくては、幸せはつかめないと感じた。

    平日午後のカフェで待ち合わせると、変わらず美しいアイコさんが現れた。日中に会うのは最初のお見合い以来だ。彼女も相談所を退会したという。大手家電メーカーの男性と成婚退会したものの、その相手も結婚対象とは思えなくなったそうだ。久しぶりに会いテンションの上がった僕は、こりずに真っ昼間のカフェで3時間以上彼女を口説いた。彼女はあきれ、カフェの店員もあきれ、隣のテーブルの女性客もあきれた。
    その努力は実らなかった。しかし、気持ちの整理はついた。思えば、相談所に登録しているときはルールを意識し過ぎて、積極的に口説いてはいない。自分の思いを伝えることなくふられたのである。しかし再会し、3時間もかけてばかみたいに口説いたことで、けじめがついた。あの3時間は、心の治療だったのかもしれない。




    「私どもの相談所に登録している女性の多くは、経済力のある男性を見つけて、無理をせずに人生を歩いていきたいと考えています。積極的で人生を自分の力で切り拓いていくタイプの女性は、すでにふさわしいパートナーを見つけています」 「では、僕は存在しない女性を探しているということでしょうか?」 「もちろんゼロではありませんが、ほとんど出会えないと思っていただいてまちがいありませんね。できれば仕事をしないで子育てに専念したいかたが多数派でしょう」 結婚相談所に登録している女性の多くが仕事をやめたいと思っていることをいまさらながら知った。夢のない話だが、これが現実なのだと自分に言い聞かせた。

    婚活で多くの女性に会うと、自分がどんな相手を求めているのかがわからなくなってくる。どんな相手を求めているのか。どんな人生を送りたいのか。どうしても譲れない条件は何なのか。どんなことなら譲れるのか。話すことで整理され、再確認できるのだ。 カウンセラーそのものには期待せず、ただし、人と話すことで自分を整理する。そういう目的ならば、カウンセリングを受ける価値はあると感じた。


    「ダメモトと思っていたはずなのに、断られるとやっぱり傷つきますよね。しかも、即日。2、3日おいて、迷ったふりをしてから断ってくれればいいのに、と思いました」 年収700万円の同世代のデザイナーにも申し込んだ。 「ドクターよりも可能性はあるかな、とちょっと期待したけれど、翌日断られちゃった。自分の市場価値の低さを突き付けられた気がして心が折れそう。もう退会を考えているくらいです。でも、あえて真剣にやらないで、なあーんとなく登録していればいいかな、とも思っています。期待しないで、申し込みをもらったときだけ、相手のプロフィールをチェックするスタンスで続けようかな、と」 入会したばかりなので、期待が大きかった分、ダメージも大きいのではないかと、自己分析しているそうだ。

    そもそもヤマシタさんはどんな男性を求めているのか──。 「それはね、ワクワクさせてくれる人!」 即答だった。 「顔とか学歴とかは、私はそんなに気にしていません。収入も、二人が生活できれば、まあ、いいかな。私も働くし。それよりも、この人といたら楽しく暮らせそうだなあ、と感じさせてくれる男性と出会いたい」 ごくふつうの希望のように聞こえるけれど、現実的には難易度の高いリクエストだろう。女性をワクワクさせるには、男の側もワクワクして生きていなくてはだめな気がする。そういう男は多くはない気がした。

    相手とのことなる価値観をどう克服するか、婚活は人間力がためされる

    ダメもとと思っていても断られると傷つく、迷ったふりしてからことわってくれればいいのに

    婚活のメインストリーム、つまり婚活アプリ、結婚相談所、婚活パーティーの三つのなかで、僕に関しては婚活パーティーが向いている。それは〝ライヴ〟だからだ。ある程度ハンディをカバーできる。 57歳で、バツイチで、フリーランスの記者は、婚活市場では概ね不利だ。ジジイで、失敗経験者で、経済的に不安定。三重苦を抱えている。 婚活アプリと結婚相談所は、プロフィールからスタートする。容姿のいい、いわゆるイケメンで、年収2000万円以上で、年齢が20代から30代前半あたりならば、プロフィールの時点で有利な立場で女性にアプローチできるだろう。 しかし僕の場合、その第一歩のプロフィールにハンディが明記されている。その時点で女性にはじかれる可能性が高く、リングに上がることなく、敗北する。 一方、婚活パーティーは最初から対面だ。リング上から始まる。男女ともプロフィールにある記述よりも、自分の目で見て会話した第一印象で相手を判断するだろう。57歳という年齢も、ある程度カバーできる。静止した写真ではジジイでも、声を発し、表情が変化し、身振り手振りがあると、実年齢よりもいきいきとして見える。

    では、婚活アプリや結婚相談所のほうが向いているのはどんな人だろう──。 まず、たとえばコンピュータ関係や研究者など人と接する機会が少ない仕事に就いているケースだと思う。コミュニケーション能力に自信がなくても、プロフィールの閲覧から始まる婚活アプリや結婚相談所ならばカバーできる。 メールのやり取りが多い仕事ならば、婚活アプリを通してメッセージを何度も交換して、心の距離を十分に近づけてから会えばいい。 高収入の男性はどんな婚活ツールでも有利だが、婚活アプリや結婚相談所では特にインパクトは強い。女性は男性に経済力を強く求めているからだ。 ただし女性側は、高収入、イケメン、高学歴、婚歴なしの男性は、慎重に検討したほうがいい。そんな好条件の男性がシングルで残っている可能性は高くない。〝優良物件〟は周囲の女性が放っておかない。背景には、借金、ギャンブル、DV、変態……など、何かしらリスク要因があるかもしれない。
    でも、どれか一つから始めるならば、自分に合うツール、アドバンテージを感じるツールを選びたい。


    会場は恵比寿。あくまでも個人的な印象だが、東京できれいな女性がもっとも集まっている街は、恵比寿と広尾ではないだろうか。すれ違う女性の多くがおしゃれで、ついふり返ってしまう。
    丸の内や八重洲や新橋のパーティーと、青山や恵比寿のパーティーでは、参加者の服装やヘアスタイルも明らかに違う。男性参加者の場合、前者はカチッとしたスーツ姿、週末は安心や安定を感じさせる〝お父さん〟のような服装が多い。後者は、平日も週末もダメージの入ったデニムだったり、シャツの袖のボタンをはずして少しまくったり、やや崩した服装が多い。自分はどちらのエリアで受け入れられるか、よく考えて、アドバンテージを意識して参加したほうがいい。


    週に1度2時間の平日デート、食事はなし、セックスのみ、リーズナブルなビジネスホテル、週末デートはなし……。不自然なことはいくつもあったはずだ。 「怪しいとは思わなかったの?」

    既婚者になった彼といまだに会っている理由は、ベッドでの相性がいいこと、一緒にいるときは優しいこと、そして、別れたら、会わなくなった時間を埋めるものがほかにはないからだという。

    ユキコさんは、おおらかなのか、無防備なのか、自分の経済事情も、過去の恋愛も、なんでも話す。 「ユキコさん、明るくて楽しいから、この前のパーティーでももてたでしょ?」 ストレートに聞いた。 「モテたよ」 ストレートに答えられた。

    「行ったよ。してみないと、相性、わからないでしょ? 私はそういうこと、すごく大切だと思ってるの」
    好きな誰かとともに生きていきたい──。婚活を再開したときからの気持ちはまったく変わってはいない。ところが、たった一人の女性と出会うのがこんなに難しいとは。あらためて思い知った。 人生の折り返し地点は過ぎた。こんなことを言うとバカみたいだと思われるかもしれないが、ここからの年月を目一杯楽しく過ごしたい。いよいよこの世を去るときに、楽しかったなあー、と思ってまぶたを閉じたい。一緒に暮らしてくれた女性に「ありがとう」と言って、ピリオドを打ちたい。
    「じゃーん!」 大げさにバスローブを脱ぐ。小さな淡いピンクの下着をつけていた。 「かわいいでしょ?」 抱きついてくる。こちらの下半身はすでに準備ができている。そのままベッドに倒れ込んだ。こういう行為をしたからといって、そのまま結婚というわけではないだろう。自分に言い聞かせる。

    十分に時間をかけて、おたがいを確かめ合う。いい感じだ。そして、ついに中に入ったとき、マイさんがかすかに鼻をすすっていることに気づいた。 あらためて顔を見ると、閉じた目が涙で濡れている。 なぜだ? 涙の理由を知るすべはない。聞ける雰囲気でもない。 気づかないふりをして、先に進もうとした。しかし、鼻をすする音はやまない。 「大丈夫?」 つい聞いてしまった。 「うん……」 マイさんはうなずくけれど、涙はとまらない。 自分のものが活力を失っていくのがわかる。必死にエロなことを考えて、取り戻そうとした。しかし、ダメだった。やがてナカオレした。 「今日はやめようか?」 そう言うしかなかった。 「うん。ごめんね……」 しばらく無言の時間を過ごした。 「マイちゃん、帰るね」 マイさんは起き上がり、服をつけて、部屋を出ていってしまった。僕は全裸のまま、ベッドから見送った。



    しかし、この状況から逃げるのは困難だ。幸い犬の鳴き声は小さくなってきた。僕がいる状況に慣れたのだろう。もうやぶれかぶれだ。頭の中で必死にエロティックなことを考え、自分を奮い立たせる。57歳になり、復活に時間がかかるようになった。それでもあきらめず、過去のエロい体験を記憶からたぐり寄せる。 ちょっと元気になってきた。タイミングを逸すると自分の復活はないと思い、一気に突撃する。よし、いい感じだ。

    年齢を重ねた婚活において、とくに年齢が離れた男女において、夜の相性は大切な問題だ。たとえ心が通じ合っても、体力や性欲量に著しい差があると、そのギャップを埋めるのは難しい。それを痛感した一夜だった。

    看護師の秘密 その後しばらくして参加した婚活パーティーでは、ナオミさんという看護師の女性と知り合った。彼女は38歳で1度婚歴がある。 短い会話のなかでも仕事を頑張っていることが伝わり、好感を持った。彼女も僕に興味を持ってくれて、帰りに食事をした。翌日も翌々日も会った。婚活パーティーには、ときどきこういうミラクルがある。

    この日から彼女と会うことに後ろめたさを覚えるようになった。彼女は、気にしないで、と言う。しかし、母親のいない家で食事をして就寝する姉弟のことを考えないほどこちらはタフではない。また、本当に申し訳ないのだけれど、母子まるごと引き受けるような覚悟が持てなかった。そういう漢気は、残念ながらない。 彼女とはもう会わないほうがいいと判断した。 そしてこの出来事があったころから、僕には結婚は難しいと考え始めた。

    「皆さん、おはようございます!」 黒のパンツスーツのスタッフがマイクで挨拶をした。 「おはようございまーす!」 参加者もいっせいに声を上げる。 これは婚活だ。パートナーがいない寂しい男女の集まりだ。にもかかわらず、参加者は目一杯明るい。

    モリエさんが28歳で婚活バスツアーに参加していることには驚かされた。自分が20代のころ、すでに結婚相談所はあった。しかし、恋愛は仕事関係や学生時代の友人といった日常的な交流から生まれるものだと思っていた。結婚相談所には、人生を金銭で売買するイメージもあった。ところが今は、20代のクララのような顔の女性が貴重な週末をまる一日使い、しかも1万5000円を投じて婚活バスツアーに参加している。 「私、何年も男性とお付き合いしていません。職場はコールセンターで、フロアの9割以上は女性です。ふだんの暮らしではまったく出会いがないんですよ」 彼女は専業主婦になりたいという。同世代の男と結婚したら、共働きは避けられない。年上ならば多くの場合自分よりも収入は多い。家庭で子育てに専念できるかもしれない。だから、婚活市場で有利な年齢のうちに相手を見つけたいそうだ。

    スタッフの女性が叫んだ。沢を横目に見ながら、奥多摩駅方面へ歩く。満を持して、僕は自分のまわりの参加者にお菓子を分ける。男性にも勧めた。人間性のアピールだ。 「嬉しーい!」 歓声が上がる。 「後ろにまわしてください」そう言って飴も配る。われながら、あざとい。 自分で思っていたよりも、甘いものは効果が大きかった。多くの参加者が元気になり、会話のトーンが上がった。
    婚活をしていると、さまざまな女性と会話をする。そのなかで頻繁に話題になるのが、食事の会計のことだ。男性が全額負担するべきか。割り勘か。 僕はすべてのケースで支払っている。毎回自分が歳上だからだ。それに、自分をプレゼンテーションする場で割り勘にする発想はない。相手に自分を好きになってほしい場での割り勘は、肝心の婚活では、当然不利な展開になる。しかし、人にはそれぞれ考え方があり、経済的な事情があり、あるいは親からの教えもあるかもしれない。

    婚活料理教室の会場は、東京・池袋のマンションの一室。週末に開催される、男女各4人、計8人での会だ。いいことなのか、よくないことなのか、年齢制限のない企画だった。つまり、僕のような中高年もいれば、20代前半らしき、いたいけな感じの女子もいる。いたいけ女子は、自分の親の世代になる僕にあからさまに不満の視線を向けた。 「ごめんね」 心の中では謝ったけれど、僕の責任ではない。
    週末の午後、出会ったばかりの男二人でカフェに入ってコーヒーをすする。僕たちは自分が行っている婚活について話した。主に婚活パーティーについてだ。苦戦している状況は正直に打ち明けたが、何度か女性とホテルに入ってしまったことは言わなかった。 彼がユニークなのは、王道の婚活は婚活パーティーに数回参加したくらいで、イベント性の強い企画ばかり選んでいることだ。スポーツマンらしく、ゴルフ婚活やスキー婚活に参加したという。言われてみると、彼の顔は健康的に陽焼けしている。 「ゴルフ婚活もスキー婚活もとても楽しいイベントでした。ただ、婚活ということを忘れてゴルフやスキーに夢中になってしまって、なかなかうまくいきません」 そう言って笑った。それでも、ゴルフ婚活で一緒にラウンドした女性と交際に発展したこともあるという。 「ただし、1か月しか続きませんでした。グリーンやゲレンデでは高揚しているせいか、女性を実際よりも魅力的に感じてしまうんです。街に戻って会うと、ときめきを覚えなくて。あれっ、この人、こんなだったかな、と。女性の側も同じらしく、おたがいどんどん熱が冷めていきました」

    婚活には、それがどんな形態であっても、パートナー探し以外の目的で参加している男女がいる。金融商品の勧誘、宗教の勧誘、男ならばナンパ、女ならばブランド品を買わせる相手探しだ。その点、コンドウさんが選んで参加しているスポーツ婚活や寺社婚活には、そういう勧誘系やナンパ系が格段に少ないという。時間とコストがかかるからだ。僕たち二人が参加した婚活料理教室も参加人数と会費と手間を考えると、勧誘目的なら避けるだろう。
    やがて肌が女性のように白くすべすべの僧侶が現れて、法話が始まった。内容は婚活とはまったく関係ない。自分自身が僧侶になったいきさつだ。特にドラマティックでもなく、就職の流れのようなエピソードが、低いテンションで語られていく。 法話は20分、30分と続き、退屈に耐えきれないのか、僕の後ろの男性参加者が、はあはあとため息をつき始めた。右横の男性は舟をこいでいる。 盛り上がりのないまま話は終わり、部屋を移して仏教の経典を書き写す写経の時間になった。般若心経が薄く印刷された紙が参加者全員に配られ、筆ペンで10分間、ひたすら文字をなぞっていく。その間、もちろん全員無言だ。
    思いのほか楽しい。楽しむのは、不謹慎なのだろうか? そんなことをぼんやりと考えながら、書き写していく。これは婚活だ。どんな女性が参加しているのかは気になる。しかし、周囲を眺めるわけにはいかない。やはり、寺社婚活は根本的なありかたが矛盾している。ここには、異性と親しくなりたいという、邪念をはらんだ気持ちで男女が集まっている。にもかかわらず、雑念を振り払う写経や座禅を行うのである。
    多数の参加者の婚活の場では顔を憶えられた方がいいので僕は幹事を引き受け、お酒や料理のオーダーをまとめたり、お金を集めたりした。そのついでに連絡先も交換。その中の二人の女性と連絡を取り合い、35歳の看護師の女性とはその後一度だけ食事をした。白いワンピースで、髪に花の飾りを付けていた女性だ。しかし、会話はかみ合わなかった。



    僕は〝婚活アリ地獄〟にはまってきたように感じた。婚活イベントには多くの男女が参加している。熱量に差はあるかもしれないが、参加者はみんなパートナーを求めている。それなのに、男女ともなかなか相手に恵まれない。 なぜか──。 40代を過ぎると、自我は育ち切っている。自分が好きな人間、波長が合う人間がよくわかる。だから、ストライクゾーンがどんどん狭くなっていく。自覚はある。しかし、それは理性でコントロールできる領域ではない。たぶん、女性の側も同じだろう。男女ともこの歳まで頑張ったのだから何とかしたいという気持ちも強くなる。 婚活を重ねることで、婚活から抜けられなくなってきた。

    こうした〝現代版仮面舞踏会〟のような状況では、パーティー全体のテンションは上がらない。男性であれば、1時間強の婚活パーティーで5000円前後の会費を払う。話す相手がマスクではコストパフォーマンスはよくない。徐々に参加者が減っていった。 3月に入ると、新型コロナウイルスの感染はさらに拡大。婚活パーティーは開催されなくなった。
    オンライン婚活は楽だ。会場に行かなくていいので、1時間の婚活ならば、準備時間を加えても1時間半も要さない。マイナス面は、自宅なので、女性参加者と意気投合しても、「帰りに食事でもご一緒しましょう」という流れにならないことだ。日をあらためて、テンションの下がらないうちに会う約束をしなくてはいけない。 また、徐々に改善されていったものの、初期はシステム上のトラブルが頻発した。参加者も主催側もシステムに不慣れなので、ネット事故が頻繁に発生する。

    どちらも、相手が自分を憶えていないことにも気づいていた。それでも大人同士なので、仕事の内容や、休日の過ごし方や、コロナ禍での生活など、さしさわりない会話を2時間ほど続けた。オンライン婚活は、ある程度参加回数を重ね経験を積まないと、成果を上げるのは難しい。

    何度か会っていよいよ男女の関係を深めるには、相手が感染していないと信じるしかない。極端な言い方になるが、この人からならば感染してもいい──とおたがいに思えなくては関係が成立しない。 コロナ禍のステイ・ホームで、夫婦関係、恋人関係の二極化が進んだと聞く。仲がいいペアは一緒にいる時間が増えてさらに関係が深まり、出産が増えるといわれている。その一方で、一緒にいる時間が長くなることで衝突が増えるペアも多いらしい。
    その日は深夜までおおいに食べて飲んだ。楽しい時間だった。彼女とはその後もLINEでやり取りをしたが、この関係にはなかなか未来は見出せずにいた。真剣に交際するには、家族も受け入れなくてはならないだろう。彼女は盛岡へ帰りたいともいう。70代の母親も地元を離れる気持ちはまったくない。子どもたちにも自然豊かな盛岡で暮らしてほしいそうだ。盛岡には、僕ができるフリーランスの記者の仕事はないだろう。彼女自身地元に仕事がないから、東京で働いているのだ。 そうしているうちに、3月になり、新型コロナウイルスが蔓延し始めた。銀座の歓楽街を訪れる人は一気に減り、マリコさんが勤める店もクローズ。銀座での仕事を失った彼女は大田区蒲田のキャバクラに転職した。
    マリコさんは女性としてとても魅力的だ。家族を思いやる発言が多く、情に厚い性格であることがわかる。美しく、たくましい。生命力を感じる。 正直な気持ちをいえば、彼女を口説いて、恋愛関係になりたかった。しかし、結婚相手として考えると、なかなか勇気が持てない。会ったことのない彼女の家族まで受け入れる度量は、僕にはない。そもそも、マリコさんとも3回しか会っていないのだ。 やがて、蒲田のキャバクラが再開し、彼女は店に戻った。フェイスシールドを装着して接客しているそうだ。〝おかあさんのイタリアン〟はコロナ禍で客が大幅に減り、クローズした。別のかたちで出会えたならば、コロナ禍でなければ。タイミングの悪さ、そして自分の人間力のなさが悔やまれる。「わたくし、食事は男性に選んでいただきたいものですから」
    翌日、アプリを通してトシコさんからメッセージが届いた。 「昨日は失礼しました。またお目にかかれますか? もしこれきりであれば、ほかの男性を探してもよろしいですか?」 即レスポンスした。
    「こちらこそありがとうございました。もちろん、ご自由にされてください。いい出会いがあることを心よりお祈りしております」
    腹立たしかった。相手の男は許せない。しかしそれ以上に、まんまとだまされて結婚する夢を見た自分のことを許せなかった。アプリの運営会社からの早期の退会、スタンダードなクレジットカード、偽りの名字など、怪しいことはいくつもあった。変だと思ったにもかかわらず、信じてしまっていたのだ。 「だまされたとわかって初めてネットで検索すると、私と同じ手口で彼にだまされた女性の書き込みを見つけました。しかも、何人も。彼はたくさんの女性をだましていたのです。婚活アプリの会社に相談すると、退会者までは追えないと言われました。警察にも届けを出したけれど、現金を奪われたわけではないので、調書をとっただけです。彼に払わされた10万円ほどの食事代が高い授業料だったのか。それですんでよかったと思うべきだったのか。とにかく3か月経っても、気持ちはまったく収まりません」
    「食事の後は、パパ活もしてくれませんか?」 うん? パパ活? その意味をすぐには理解できなかった。 「パパ活というのは、ご飯を食べてお金をさしあげるということでしょうか?」 「身体の関係ありです」 パパ活とは援助交際のことなのだ。僕がやっているのは婚活で、パパ活ではない。 「僕には対応が難しいご提案です。ごめんなさい」 レスポンスをしたところで、彼女とのやり取りは終わった。
    「私は精神的にもう限界です。会っていただけませんか?」 「いつですか?」 「できれば、今すぐ」 しかし、平日の朝6時半である。 「すぐは難しいです」 「では、昼。夜でもかまいません。蒲田に来てくれませんか」 彼女は東京・大田区の蒲田に住んでいるらしい。 「都心まで出て来られませんか?」
    「私は今、蒲田から出られないんです。ずっと自宅にこもっています」 「蒲田から出られない理由は? そもそも急に会わなくてはいけないご用件はなんでしょう?」 「それはここには書けません。お会いしたときに話します」 事情はなかなか打ち明けない。その後のやり取りで、明確にはしなかったもののお金の無心をにおわせてきた。しかし、一度も会ったことのない女性だ。 「リエさん、ご用件もわからずにすぐに会うというのは、難しいご相談です」 「この機会を逃したら、私たち、もうお会いすることはないと思いますよ」 「それはしかたがないと思います」 「わかりました!」

    婚活アプリ、結婚相談所、婚活パーティーなどを体験し、婚活とは一種の〝等価値取引〟だと感じた。 前にも書いたが、かつて婚活ツールが発達する前の恋愛の多くは、同級生や先輩・後輩同士の恋愛、社内恋愛、友人の紹介によって生まれ、育まれ、結婚に発展した。男女とも必ずしも条件で相手を選んだわけではない。同じ学校に通っていたならば、勉強やスポーツに打ち込む姿を見るし、誠実さや優しさを知ることにもなるだろう。同じ会社に勤務していたら、仕事ぶりや、上司や部下や同僚からの評価も知る。 一方、婚活ツールでは、最初の段階では相手の日常の姿を見ることはない。だから、第一段階で女性は男性の収入や資産などの経済面、職種、将来性、容姿、年齢などの条件で判断することになる。男性も女性の容姿、年齢、仕事、趣味、家族関係などを参考に人選する。本当に結婚生活を送るには性格、相性などが大切なのだが、それらはこの段階ではほとんどわからない。 だから条件による婚活市場価値のバランスによって、男女がマッチングするのが婚活の現状だ。趣味が一致して意気投合し、結婚にいたるような例外はあるだろう。太った男性を好む女性や、年上を好む男性もいる。こうした周囲から観たら等価値ではないペアも、もちろんゼロではないが、稀だ。
    何度も書いているが、僕の場合、婚活市場でいくつものハンディがある。年齢はこの時点で58歳。会社員ならば、定年に近い。戦後まもない時期ならそろそろあの世からお迎えが来る年齢だ(1950年の日本人男性の平均寿命は58歳)。自由業なので、収入は不安定。容姿も並以下だと自覚している。自分より若い世代の、好みの容姿を求めても、交際は成立しない。ただし、相手が抱えているなにかしらの条件を受け入れることによって、関係が成立するケースはあるかもしれない。たとえば、婚歴が2回以上ある女性、子どもがいる女性、日本で暮らしたい外国人女性……などだ。
    女性の側も同様だ。自分が40代、50代で、若く高収入の男性を希望するならば、相手のハンディも受け入れなくてはならないだろう。婚歴がある、子どもがいる、年老いた親と暮らしている、浮気癖がある、性的嗜好に偏りがある……などだ。 男女とも、自分が望む条件をすべて備えた相手に出会うのは難しい。だから、なにを受け入れることができ、なには受け入れられないか、できれば紙に優先順位を箇条書きにしておきたい。
    長いシングル生活で、自分の生活もでき上がっている。フリーランスの記者という仕事柄、朝早い時間帯から働いたり、深夜まで働いたり、生活は不規則だ。また、自宅で長い時間パソコンと向き合うことによって生活が成り立っている。結婚し同居人ができれば、今の生活のリズムは維持できなくなる。経済的なダメージを被る覚悟が必要だ。 それでも結婚したいか? また、自分に問う。自信を持てなくなってきた。 57歳のとき再度婚活に力を入れるようになったのは、一人の暮らしに寂しさを覚えたからだった。しかし婚活を始めると、結婚していないのに寂しさが薄らいだ。熱心に婚活をすれば、コンスタントに女性と会える。複数の人と食事をして、ドライブをして、ときにはお泊まりもする。実に楽しい。いつのまにか、結婚を目的に婚活を行うのではなく、婚活そのものを楽しむようになっていた。 もちろん婚活ではきつい目にもあう。40代女性に「クソ老人」と罵倒された。詐欺にあいそうにもなった。高額な服や靴を買わされたこともある。そんな経験も時間が経てばエンタテインメントだ。
    しかし、ほんとうに結婚は幸せで、義務なのか。60歳を目の前にして、シングルをこじらせて、さんざん婚活をして、ようやく疑問を抱いた。 周囲をみると、幸せそうな夫婦もいる。その一方で、口も利かない夫婦もいる。つまり、結婚したから幸せになったのではない。 幸せは、二人の性格や努力や相性によってつかむものではないだろうか。自分自身かつて結婚生活を体験した。必ずしも幸せではなかった気がする。だから、わずか1年で夫婦生活に終止符を打った。妻への愛情はあった。それなのに、生活をともにすると苦しみは多かった。既婚だろうが、未婚だろうが、幸せになるのは自分次第

    40代で婚活をしたときには、自分に3つのことを課した。
    ① コンスタントにエクササイズを行い、健康を維持し、体を引き締める。 ② 女性や世代の違う人と交流し、厳しい意見をもらう。 ③ 仕事は常に前向きに取り組み、トラブルから逃げない。 この3つによって常に自分を客観視し、心と体の健康を維持し、戦う顔・戦う目であり続けることが、社会でも、ひいては婚活でも、自分の市場価値を高めると考えたのだ。 同じことを50代でも感じた。婚活に費やすエネルギーと時間をもっと自分自身の質の向上に使ったほうが、結婚しようがしまいが幸せにつながると思った。その結果、誰かと手を携えて生きるチャンスがあればなによりだ。もし一人でいても、強く生きる意識で仕事をして、ときどき婚活もしてみてはどうだろう。自分自身に提案した。

    恋愛ができると、自信もつく。僕はまだ大丈夫だ、という思いは仕事の活力になった。婚活を頑張った成果はあった。 この本を読み、結婚をしたいと思ったシングルの方は、40代はもちろん、50代でも、あるいは60代でも、婚活にチャレンジしてみていただきたい。 自分の婚活市場価値がリアルにわかり、つらい思いをするかもしれない。でも、そのときはそのときだ。アプローチの軌道修正を行い、自分のバージョンアップにも励めば、成果は上がるかもしれない。エネルギーもわいてくる。女性に好かれたいという欲求が高まると、服装や言葉遣いにも気をつける。すると、婚活に限らず、周囲が好意的に接してくれる。明らかにプラスの効果を生む。


    「誰かと生きたい」という気持ちには多分に依存心が含まれている。依存心が強いと相手に期待する。相手への期待が大きいと、アテがはずれたときの失望も大きい。そして、たいがいアテははずれる。男女とも自分が生きるのに精一杯だ。おたがい相手の期待に100%応えることなどできない。 それを思うと、自我が育ち切ってしまった中高年の場合、一人で生きていく自信があってこそ、自分以外の人間に費やす時間と余力があってこそ、誰かと一緒に生きることができるのではないだろうか。 「誰かとともに生きたい」ではなく、「誰かのために生きたい」と思えるくらいの心のゆとり、経済的なゆとりを持ってこそ、婚活は成就するのではないだろうか。

    ☞婚活アプリでチャンスをつかむポイント ① 登録者が多いアプリを選ぶ。人の好みや相性は多様なので、登録人数が多ければ多いほど、チャンスも多い。 ② 低価格のアプリは避ける。安いサイトは登録者の真剣度も低い。
    ③ プロフィールは全項目書く。職業、学歴、身長、婚歴、子どもの有無、男性の場合は収入欄や学歴が未記入だと、不信感を持たれて、マッチングできない。 ④ 写真は必ず掲載する。言うまでもなく、顔のわからない相手と会おうとする人はいない。なお、できるだけ笑顔のカットを載せる。 ⑤ 相手の写真はよりよく見せるための加工が施されていることを前提で見る。とくにモノクロ写真は、加工されている前提で見る。 ⑥ 気に入った相手にアプローチするメッセージ文には、相手のどこに魅力を感じたのかを具体的に書く。 ⑦ 数多くアプローチする。仕事での営業同様、機会を増やさなければ、成果も少ない。 ⑧ 根気よくメッセージを送る。アプローチに相手が応じてくれて、マッチングしても、必ずしも会えるわけではない。日にちを空けず、しかししつこくならないことを心がけながら、誠実に、メッセージを送り続ける。その際、相手に興味を持っていることを示すために、さしさわりない程度の質問を投げかけてみる。 ⑨ よほど強いポリシーがない限り、食事は割り勘にせず男性が持つ。 ⑩ 常に複数のレストランやカフェの候補をストックし、相手の苦手な食べ物を確認して、食事の提案をする。 ⑪ ナンパ目的の男性、高額なプレゼントを求める女性が一定数いることを前提に活動する。会話していて怪しいと感じたら、速やかに交流を断ち、アプリを運営する会社に報告する。 ⑫ デート詐欺も一定数いる。カップリングし、LINE IDや電話番号を交換してすぐに相手がアプリの登録を抹消したら、気をつけること。

    ☞婚活パーティーでチャンスをつかむポイント ① 会費が高めのパーティーを選ぶ。低価格のパーティーは真剣度が低い。女性参加者無料、あるいは女性の参加費500円といった低価格パーティーは避けること。 ② 会話、対人関係に自信があるならば、参加人数が男女各10名以下のパーティーを選ぶ。少数タイプのパーティーは、概して一人との会話時間が長めに設定されている。自分の長所が生かせる。
    ③ 会話や対人関係よりも容姿に自信があるならば、参加人数の多い男女各20人くらいのパーティーを選ぶ。一人との会話時間が短めに設定されているからだ。第一印象で勝負する。 ④ 自分に合った街で開催されるパーティーを選ぶ。自分が会社員ならばオフィス街、専門職ならばそういう職種が多い街だと、価値観の近い相手と出会う確率が上がる。 ⑤ ホテルや品のいいサロンで開催されているパーティーを選ぶ。雑居ビルの一室で行われるようなパーティーは避ける。概して会場にふさわしい参加者が集まっている。 ⑥ 清潔な服装を心がける。髪を整え、できればジャケットを着用し、靴も磨いて参加する。ブレスケアやガムで口臭を予防し、鼻毛や爪を切る。 ⑦ 一人で参加する。友人と一緒だと、異性に避けられる傾向がある。また、好みの相手が友人と競合するリスクも生じる。 ⑧ 会話は相手の目を見て、身振り手振りも交える。真剣度が高く、健康的で、活発なイメージを与えられる。 ⑨ 自慢話はせずに、相手の話をきちんと聞く。 ⑩ パーティーにも、ナンパ目的の男性、高額なプレゼントを求める女性やデート詐欺が一定数いることを前提に活動する。会話していて怪しいと感じたら、速やかに交流を断ち、パーティーを主催する会社に報告する。

    ☞女性が敬遠するタイプ、傾向 ① 身なりに清潔感がない。女性に好かれようとする場なのに、洗いざらしのTシャツやダボダボのジーンズや汚れたスニーカーで現れる。あるいは、明らかに身の丈に合っていない服を着てくる。ブランドのロゴが大きくプリントされたシャツを着てくる。 ② 財布や靴がボロボロ。 ③ 歯が汚れていたり、唇が荒れていたり、爪が伸びていたりする。 ④ ハイテンションで一方的に自分の話をする。女性の話を聞かずに、何度も同じ質問をする。 ⑤ レストランやカフェのスタッフに横柄な態度をとる。 ⑥ ケチ。最初のデートで、細かい額まで割り勘にしようとする。また、最初のデートで、メニューの単価の低いチェーン系のレストランに連れていく。 ⑦ 最初のデート、あるいはまだ親しくなっていない段階でホテルに誘う。 ⑧ ステレオタイプ。プロフィールの趣味欄に「読書」と書きながら、ベストセラー作家の本や自己啓発本しか読んでいない。「映画」と書きながら、エンタテインメント系のヒット作しか観ていない。「音楽」と書きながら、J‐POPのメジャーなアーティストのヒット曲しか聴いていない。

    ☞自分を印象付けるプロフィール文のポイント 婚活アプリ、結婚相談所、婚活パーティー、どのツールを利用しても書くことになるのが自分のプロフィールだ。多くのライバルがいるなかで、いかに自分を強く、良く印象付けるか──。それが婚活の成否を左右する。 プロフィール文のサンプルは第1章で紹介したが、そのポイントをあらためて整理しておきたい。 ① 長すぎず、短すぎず、20行くらいでまとめる。 ② 一文は短く、読みやすいように頻繁に改行する。 ③ テーマごとに1行空けるなどの工夫をすれば、30行くらいまでは読んでもらえる。 ④ デスマス体で丁寧な言葉を心がける。 ⑤ まず、自分が真剣に、本気で婚活していることを書く。とくに女性は、遊び、ナンパの男を警戒している。 ⑥ まじめに働いていることを示す。自分がどんな仕事をしているのかを書き、真剣に取り組んでいることを書く。 ⑦ 趣味は具体的に書く。「趣味は映画鑑賞です」だけでなく、好きなジャンル、俳優、監督、作品なども書く。ただし、あまりマニアックな好みを書くと引かれる危険がある。 ⑧ スポーツの経験があれば書く。健康で健全なイメージを持ってもらえる。 ⑨ ⑧と同様に、ジムへ通っているなら書く。 ⑩ 好きな食べ物、あるいは食べることが好きであることを書く。食事をご馳走したい、と書くと気に入られる可能性が高くなる。食べることが好きな女性は多い。 ⑪ 旅行経験が豊富なら、それも書く。女性の多くは旅行が好き。 以上のようなことを心がけてプロフィール文をつくり、何度も推敲する。 ただ、職種によっては文章を書きなれてはいないかもしれない。その場合は、箇条書きのプロフィールにしてはいかがだろう。 「真剣に出会いを求めています。よろしくお願いします。 (1)仕事は家電メーカーの営業です。仕事の成果がわかりやすく、やりがいを感じています。 (2)趣味はスキューバダイビングです。1か月に1度は海に行き、1年に1度は南の島に行きます。沖縄の慶良間諸島は最高です。 (3)餃子が大好物で、都内に3軒好きな餃子の店があります。仲よくなったらお付き合いください」 このように書くとわかりやすく、少ない行数で「真剣さ」「まじめさ」「スポーツマン」「旅が好き」「食べることが好き」……など多くのことが伝わりやすい。その程度のことは常識だと感じる人も多いかもしれない。しかし、婚活で出会った女性たちによると、〝その程度〟のことができていない男性は多いという。婚活の場で出会った女性によると、自分は写真未掲載でありながら「写真のない女性はお断り」とか、50代でありながら「40代以上の女性は申し込まないでください」と書いている男性が目立つそうだ。 一つ気を遣うと、その分女性と出会う可能性が上がるはずだ。



    マリコさんは女性としてとても魅力的だ。家族を思いやる発言が多く、情に厚い性格であることがわかる。美しく、たくましい。生命力を感じる。
    ミズホさんとの食事は身の上相談状態になった。女性が高所得で容姿のいい男性に魅力を感じる事情は、よく理解できる。しかし、そんな好条件の男なら、婚活アプリに登録しなくても、パートナーを見つけることができるはずだ。

    何を受け入れることができ何はうけいれられないか、条件の優先順位

    恋愛ができると自信もつく
    自分のバージョンアップ

  • 参考にどうとかでなく、昨今の一つの潮流として界隈がどういう感じなのかって意味では面白かった。

  • 婚活アプリ、結婚相談所、婚活パーティーと婚活市場はかなりのスケールがある。その内実も面白いし、出会う女性の多彩ぶりにも驚かされる。これだけ風変わりな人が多いとなかなかしっくりくる出会いはないのだろう。途中で筆者は58才になるが、1才違いで申し出はグンと落ちるらしい。40台をターゲットにしてることもあるだろうが。ある程度の年齢になると自分の好み、ストライクゾーンもはっきりしてきてるし、ここまで待ったのだからということもあってなかなか決まらないようだ。

  • 結婚に求めるものは多種多様と頭では理解しているけれど、婚活する女の方々の自我が剥き出しの様が生々しく、現実の婚活活動はすごいなぁと圧倒されました。

  • 57歳になる著者の赤裸々な婚活奮闘記。
    マッチングアプリから始まり、結婚相談所、婚活パーティ、婚活イベントまで。

    タイトル通り本当にすごかった。赤裸々にも程がある。
    全然知らない世界だったので、爆笑&ものすごい衝撃でした。
    今年1番かもしれない。


    『第1章 41歳女性にクソ老人とののしられる』

    もうね、このタイトルで勝ちですよ、勝ち。
    こんなの絶対読みたくなるじゃん…。

    この本を読んだ程度で「分かったつもり」になってはいけない、というのはもちろん承知の上ですが。

    いやー、いるわいるわ。
    メンヘラ、身勝手、欲求不満、貢がせ、詐欺、などなど。

    事実はネットより奇なりというか。
    世の中、本当にいろんな人がいるんだなあと感心しました。
    読んでて頭がクラクラしましたよ。

    こういった中でも「頑張れる」人は、嫌味ではなく、本当に凄いと思います。

    自分ももっと歳を重ねたら、寂しさのあまり、同じようなことをするのだろうか。
    うーん、怖いなあ…。


    しかし男も女も、何歳になってもやることは大して変わらないみたいですね。
    呆れるやら、感心するやらです。

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