ヤンキー君と白杖ガール 6 (MFC) [Kindle]

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  • アルゼンチンの作家ボルヘスは晩年目が見えなくなり盲目の作家とよばれた。幽界の世界にさまように記憶に頼りつつ幻想怪奇の世界を描いた。目が見えなくなる恐怖を描いた短編もある。見えなくなるとはどう言うことなのか。彼ら視覚障害者の日常生活はどうなのか。
    そんなことを描いたのが今回ご紹介する漫画。ラブコメである。
    PIXVピクシブというサイト。無料で読んでいた。これも出版されたものの、あまり売れないせいか本屋ではほとんど見かけなかった。それなのに何故かテレビドラマ化されびっくり。面白く、笑いながら視覚障害者の世界が分かるようになっている。

    日本のテレビは本当に腹が立つ。肝心なエピソードをカットしたり、妙な脚色入れてストーリーを変えてウザい設定入れている。障害を気にせず前向きに生きる主人公のコメディーなのに妙に深刻にしたり、湿っぽくしたりしてる。やたら流れる安っぽいBGMといい、回りくどい脚色と言い、指摘したい点は山ほどあるがこれをドラマ化して認知度を上げたことは評価したい。テレビのおかげかようやく本屋でも見かけるようになり最新刊の6巻を購入して電車中で人目もはばからず声を出して笑ってしまった。

    弱視の視覚障害者の少女ユキコは自立を目指し常に前を見ている。一方健常者ではありながら、子供の時顔に負った傷がもとで不良扱いされヤンキーになった黒川。黒川は健常者でありながら、生きる方向性がつかめずやさぐれていて、不良グループのリーダー。
    この2人が出合い、障害を持つ者と顔に傷を持つ者の絆の話。ぼんやりとしか見えないユキコにとって、黒川がヤンキーだろうが、顔に傷があろうがそれ自体がわからない。点字ブロックを歩くヤンキーをいきなり杖でどつくところから始まる。
    「障害者の自立」という重いテーマを持った話だが、これをラブコメにできて面白おかしく見せてくれる、こういう本を読むとマンガのメディアとしての可能性を感じる。

    弱視の人が日常生活をどのように送っているのかがよくわかる。映画館では音声ガイド付きの映画を観て、ポップコーンはおちたら拾えないから買わないとか。雨の日は視野が狭くなり、音やにおい等5感も妨害されるから面倒だとか。我々健常者は如何に視覚に頼っているかがわかる。メラビアンの法則ではコミュニケーションのうち視覚情報が55%と言われる。この社会は言うまでもなく健常者への視覚に頼った社会となっている。
    食事の際も味よりもまずは美味しそうかどうか視覚で判断し、その後実際味わってそのおいしさを確認すると言われる。

    健常者が見る色彩の世界、視覚の世界は視覚障碍者は想像するしかない。障害者はそれに合わせて生活をしなければいけない。様々な色の違いも想像で認識し、社会に合わせようとする。視覚障碍者は音で判断する。弱視ゆえに人の声の調子でその体調や感情やその人の外見を察したりする。

    チャップリンの作品に街の灯と言う映画がある。盲目の花売り娘に恋したチャップリンは彼女の眼の手術のためお金を工面し渡す。娘は浮浪者のチャップリンを金持ちの紳士と思い込む。目が見えるようになって彼女は残酷な現実を見てしまう話し。

    こちらの漫画ではユキコは目が見えないことで、顔の傷で不良に見られる黒川をその外見に惑わされず、彼の内面が良く見えたりする。目が見えないからこそ本質が見えたりする。

    日々戦いのような生活を送っている障害者ユキコに精神的にひ弱な健常者である黒川が逆に世界を教えてもらい少しづつ前向きに変わって行く。自立を目指すユキコはバーガーショップの厨房の仕事にようやくつける。周囲の店員も彼女の熱意に押され、助けようとする。彼らの助けもありようやく料理を作ることができた。

    お客さんがその料理を残さず食べたことを聞き涙ぐむユキコに私もうるっと来た。
    漫画でうるっとくるのにテレビでは全く来ない。他にはユキコを必死に守ろうとする姉がいる。
    お姉さんの最初のエピソードは笑えるし凄く良い話なのにテレビでは丸々カットされている。
    テレビでのお姉さんのキャラクター設定が多少違っているせいだと思われる。
    それ以外に少年を見守るLGBTの青年がいたり、目で見える世界に振り回される引きこもりの少年が目が見えないユキコに諭される話だとか社会的な弱者やダイバーシティを描いた社会派コメディともいえる。
    この漫画自体も音声で楽しめるよう朗読版がネットであるらしい。
    テレビを見て面白いとおもったらぜひ漫画を読んで欲しい。原作のほうが格別に面白い。

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