エネルギーをめぐる旅――文明の歴史と私たちの未来 [Kindle]

著者 :
  • 英治出版
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感想・レビュー・書評

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  • 「エネルギーを切り口として人類の歴史を紐解」き、未来に向けてエネルギー問題への考察を行った力作。

    素晴らしい内容だった。特に、第1部「量を追求する旅 エネルギーの視点から見た人類史」には圧倒された。

    著者は、人類はこれまで6つのエネルギー革命を経験してきたという。最初のエネルギー革命は "火の利用"(加熱調理で胃腸の負担を軽くし、消化器官のエネルギー消費を減らして脳に十分なエネルギーを供給)。第2のエネルギー革命は "農工生活への移行"(太陽エネルギーの独占、人類が自由に使うことができる人的エネルギーが約100倍に増加)。第3のエネルギー革命は "産業革命における蒸気機関の発明"(化石燃料を用いたエネルギーの大量使用)。第4のエネルギー革命は "電気の利用"(エネルギー変換の自由・場の制約からの解放)。第5次エネルギー革命は "窒素固定技術の発明"(大量エネルギー投入で作られた人口肥料による食糧増産)。

    この壮大な物語を描く中で著者は、「私たちの脳は本質的に、「より賢くなりたい。そのために、より多くのエネルギーを得たい」と望む傾向があるのです」、「際限のないエネルギー獲得への欲求。それが、私たちの脳が持つ本性です」と人類の性(脳の性)を端的に指摘している。

    「人類の歴史とは、「時間を短縮すること」、いいかえるならば「時間を早回しにすること」に価値を見出してきた歴史であるともいえます。このことは、人類の価値判断基準がいかに頭脳偏重になっているかということの裏返しでもあります。私たちは常日頃、肉体的な負担を最小限に抑えつつ、最大の成果を得ることを追い求めています。ヒトの脳が持つ際限のないエネルギー獲得への欲求が、時間を早回しにする結果を生んできたのです」とも書いている(第2部)。

    なるほど、確かに脳を高度に発達させた人類だけが、脳が思索にふける時間(余暇)を増やすために血道を上げてきたと言えるんだな。こんな生き物、他にいないものな。斬新な切り口!

    そして第4部で著者は、資本主義の特性(資本主義が散逸構造そのものであること)やその問題点を分析・考察した上で、「現代の資本主義社会は、経済合理性が幅を利かすあまり、人々は不断の競争に駆り立てられ、常に緊張を強いられています」、「森林のおおよその成長速度から得られる年率二パーセントという数字は森のリズムを数値化したもので、自然とのハーモニーを実現しうる「ほどほど」のレベルを知るためのひとつの目安となり得ます」といった提案を行っている。この指摘もリーズナブルと思った。まあ、先進国は0パーセント成長で十分と思うけどな。

    気候変動問題の議論には利権の匂いがプンプンするので、自分は昨今の風潮にはやや懐疑的なのだが、著者の「気候変動問題に真摯に取り組むことは、仮に気候変動への効果が想定よりも小さくなることがあったとしても、少なくともエネルギー資源枯渇の問題にはポジティブな効果があると考えられるからです」との立場には全面的に賛同したい。

    やはり唯一かつ最大の問題は、成長を貪欲に追求して止まない資本主義だよな。世の中「足るを知る」ということにどうしてならないのかな。多くの国が、経済成長の名の下に税金を大量投入して浪費経済を一生懸命回しているんだもんな。経済成長を犠牲にしてでもここに抜本的なメスを入れるべきと思うのだが…。所得格差も広がる一方だし。著者の言う脳の性なのかな。

    地球規模の悠久の歴史から見たら人類はあまりにもちっぽけな存在だ。「人類が死滅したところで地球は存続し続ける以上、新しい地球環境に適応し、繁栄する生物が出てくる」だけ。いずれ自浄作用が働いて、人類も地球のキャパに合った規模に淘汰されていくんだろう、そう開き直りたくなる。

    ただ、未来に希望はあるようだ。「核融合反応による原子力の利用は、核分裂反応を利用した既存の原子力が抱えている課題をすべて解決してくれ」る夢の技術とのこと。今世紀中の実現は困難なのでその間は何とか凌がなきゃいけないのだが…。明るい未来に向けて、何とか耐え凌いでいけるかな??

    ところどころ、長くて掛かり付けが分かりにくい文章があったりして少し気になったが、内容的にはとても素晴らしい本だった。

  • エネルギー分野の数々のブレークスルーが人口爆発を可能とし、資本主義が持続不可能なペースの発展を実現させてきた。その世界史を著者自身の世界旅を通じて土地をつなぎ、また天才科学者たちの成功ストーリーをリレー形式でつないでいる。大くくりに言えば「○○の世界史」の類の本だが、文章力と世界観の広さに圧倒される良書。

    資本主義という加速主義に振り回されず、幸せを感じられる人を多くするのに理想的な社会は江戸時代にある、という視点は、成田悠輔さんの「ネオ江戸社会」に重なる。江戸文化の成り立ち、構造、人々の暮らし、価値観などについて知りたくなった。
    https://www.youtube.com/watch?v=_eSKHqhO_E8&fbclid=IwAR0PEvBQMWEUfyyqSS4j5gjR82plScxnFb67vbmXGbdgNyraO8uWSG5GHww

    著者、古舘さんへのインタビューが収録されたこちらのポッドキャストもオススメ。
    https://www.audible.co.jp/pd/%E6%AD%B4%E5%8F%B2%E3%82%92%E8%AA%AD%E3%81%BF%E8%A7%A3%E3%81%8F%E3%81%A8%E3%80%81%E7%8F%BE%E4%BB%A3%E3%81%AE%E3%80%8C%E3%82%A8%E3%83%8D%E3%83%AB%E3%82%AE%E3%83%BC%E5%95%8F%E9%A1%8C%E3%80%8D%E3%81%8C%E3%82%8F%E3%81%8B%E3%82%8B-Podcast/B09MFGNYQB?ref=f=a_pd_E69CAA_c3_lAsin_0_1&pf_rd_p=7de0a35f-7e16-49b6-9280-a117b45405f7&pf_rd_r=WD4HPNAJPXN195RV2P80&pageLoadId=oII7flNPcCLJ1YY3&creativeId=66397b97-d5c2-4c01-9ea0-b59ad4d7d4f0

  • コテンラジオでエネルギーの歴史を聞いているようでした。面白おかしくではないですが、エネルギーを火を使うところからずっと流れで聞くと、時代の旅をしているようでした。

    エネルギーと食が密接に関連していることは意識しておくべき事実であると、認識させてもらいました。

    増えすぎた人口。それを養う食料。
    科学はピュアだから、計算ができて、道標になって、希望にもなった。確かに理屈上は世界の人口をカバーすることができた。でも、有限のエネルギーを使うことで成り立つ社会、そして、工業化されていく食。これでいいのか、の疑問がエネルギーの観点からも問うてくれたのはとてもよかった。そして、その答えの一つに粋という概念を持ってきてくれたのはなんかよかったです。

    ヒントは縄文ではなく、江戸ですね。
    美意識より粋の方が個人的に好き。

    社会の合理的判断ではなく、自分の心に向き合い、粋な人生を送りたい

  • すごい、の一言の本。エネルギーの見方が変わった。
    題名からエネルギーの歴史をなぞった本かと思ったが、それに留まらない。
    地球の始まりと火から始まり、植物生理学、熱力学、量子と時間という科学分野をほりさげた後、エネルギーと資本主義経済、哲学、宗教、という文系分野を語る。
    気候と二酸化炭素という、いまや誰もが考えたことがある方面についての解説も、中立的で丁寧でわかりやすい。
    個人的に熱力学第二の法則の分野の説明が一番興味深かった。
    石油を消費すると言っても原子で見れば、形態が変化しただけで量は変わらないならエネルギーって何で、何を消費しているんだろうか。
    質量はエネルギーに変換できるから原子力発電などは質量からエネルギーをとりだし消費しているが……そうやって、ぼんやり考えていたことが、とてもわかりやすく解説されている。
    『エネルギーの質の消費』という文章が良くわかった。

  • 評判が良いので読んでみた。著者はJX石油開発(ENEOS傘下)の事業部長とのこと。そういったポジションの方で、これだけ縦横無尽な語りのできる人がいるのは率直に驚いた。
    エネルギー革命と人類の歴史について辿る第1部は特に面白く、また独創的だった。「サピエンス全史」のエネルギー版という感じで、こういう視点で人類史を再構成して語れるのか、という新鮮な発見がある。第2部はより科学の発展に着目していて、ブライソンの「人類が知っていることすべての短い歴史」のように産業革命以降の科学者・発明者たちを総ざらいする。ここは知らない内容も多かった。
    ただし第3部は宗教、第4部は今後の人類への示唆なのだが、ここはかなり陳腐だった。どこかで聞いたような話が延々と続くし、本人の知見もあまり豊かではないのかもしれない。学術的な考察というより、今までに読んできた本の面白かったエピソードを盛り込んだという印象を受けた。
    そういうわけで全体として尻すぼみな印象はあったが、第1部だけでも読む価値はあると思う。
    なお、全体として出典の明記がさほどなされておらず、出どころのよくわからないエピソードが多かったり、高校生向けの授業かと思うような安直なストーリー化、一般化が目立ち、記述はどこまで本当なのだろうと思うことが多かった。

  • エネルギーという切り口から様々な記述を試みていてとても興味深かった。

  • 【文章】
    とても読みやすい
    【ハマり】
     ★★★★★
    【気付き】
     ★★★★★

  • 内容は興味深かったけたど、時々出てくる情緒的な話で何度も萎えた。最後の章とかも違和感を感じる。内容は良いのに、その情緒的で個人的な話が台無しにしている。

  • オーディブル。
    エネルギーを変換できるってすごくね!?という新たな発見。(不勉強ですみません)いろいろ考え方が変わりそう。
    でもちょっと聞き流しすぎた感が否めないのでもう一度聞きこんできます。

  • 正直、とてつもなく面白い。

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著者プロフィール

1994年3月慶應義塾大学理工学部応用化学科卒。同年4月日本石油に入社。リテール販売から石油探鉱まで、石油事業の上流から下流まで広範な事業に従事。エネルギー業界に職を得たことで、エネルギーと人類社会の関係に興味を持つようになる。以来サラリーマン生活を続けながら、なぜ人類はエネルギーを大量に消費するのか、そもそもエネルギーとは何なのかについて考えることをライフワークとしてきた。本書はこれまでの思索の集大成となるもの。趣味は、読書、料理(ただし大味でレパートリーも少ない)、そしてランニング。現在は、JX 石油開発(株)で技術管理部長を務める。

「2021年 『エネルギーをめぐる旅』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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