- Amazon.co.jp ・電子書籍 (237ページ)
感想・レビュー・書評
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『時間は存在しない』のカルロ・ロヴェッリによる、量子力学入門書。
ただ、半分は合ってるのだけれど、後半、意外な展開をしはじめたものだから驚いた。
第1〜3章にかけては、
まず、ハイゼンベルクやシュレーディンガー、パウリ、ボーアなどが量子論の骨格を整えていった経緯が紹介され、しかし量子のあまりに奇妙なふるまいを、不可解なまま受け入れるか、あるいはもっと明確に意味付けしたいかで、量子観が対立したという話が付け足される(実はこの対立が本書の骨子になっている)。
具体的には、量子の「重ね合わせ」や「もつれ」(エンタングルメント)、それと関連して「シュレーディンガーの猫」などの解説がなされる。
また、XP-PX=ih(hバー。プランク定数hを2πで割った値)
という、ハイゼンベルクらが定式化した式、つまり位置Xと運動量PをかけたものとPとXをかけたものが異なるという式に、量子力学の謎が集約されているということが示される。
(この式には、エネルギーがとびとびになるということを表現されている。)
さて、上のことが物理的事実だとわかったものの、
こうした量子対して、「多世界解釈」(いわゆるパラレルワールド)、「隠れた変数の理論」、「QBイズム」などさまざまな解釈が登場。
しかし筆者は上のどれもがいわゆる主客二元論にすぎないとし、「関係」をキーワードに量子的世界観を解釈しなおす。
ここから一気に話は4章あたりから「哲学」へ急旋回。
私たちが素朴に、確固たる「物質」が存在しているとする世界観を否定し、物質であれこの「私」という存在であれ、それそのものとして独立して存在しているわけではなく、関係の結び目にすぎないのだと説く。
なんだか現実離れした話のようにも思われるが、量子力学の延長として語られるとこれはもう事実としか思われない。
こうした世界観はアインシュタインらに影響を与えた哲学者エルンスト・マッハに準備されていたとする。が、さらに時代をさかのぼり、龍樹(ナーガルジュナ)の「空」の概念がこの関係性の物理学をかなり言い当てていると指摘(もっとも、仏教と量子力学の親和性はよく言われることでそう新奇な指摘でもない)。
(あ、その前に、ロシア革命後のレーニンとボグダーノフ(マリノフスキー)の対立が、ハイゼンベルクとシュレーディンガーの世界解釈の対立と重ね合わされてもいたっけ。)
世界は「関係」の界面にしかないという具体例で驚いたのは、人間の視覚の例。
何かを知覚するさい、光を電気信号に変換していったん脳に送り、それを記憶と照らし合わせて認識するのではないらしい。
逆に、まず、脳から目へと信号が送られる。つまり、これまでの記憶や経験にもとづいて目の前の物体をいわば「予期」し、その上で、目の前の対象と予期との差異だけが脳に知らされる。
こうするとかなり効率よく環境情報を得ることができる。
著者の言葉を借りるなら、私たちは世界を「観察」しているのではなく、自分の知識にもとづく世界の像を「夢見ている」のだ。この、「確認された幻覚」が私たちを取り巻く世界なのだ。
私たちは確固たる物質っぽいものがある日常で生きているから気がつかないけれど、量子によって構成されるこの世界は徹頭徹尾このようなものだ。
各人でこのような活動が行われ、それぞれの視点からの対話が進むに連れて知識というものが蓄積していき、現実らしきものの理解が深まる。外界から自立した意識、あるいは心などというものはほぼ幻想だし、またこれがザ・世界みたいなものも存在しない。
なんだか読後すごく気が楽になった。し、刺激的だった。マッハと龍樹は要チェックだな。
哲学にもかなり造詣のあるカルロ・ロヴェッリは、解説で竹内薫氏が書いていたように、物理学者がかつてそう呼ばれた数少ない「自然哲学者」だ。いわく、
「わたしたちは科学に哲学を順応させるべきなのであって、その逆ではない」
ほんとそう。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
「時間は存在しない」のカルロ・ロヴェッリの一般向け物理書の新作。
本の出だしの部分はハイゼンベルグやシュレーディンガーといった量子力学の偉人たちが当時どういう生活をしながら彼らの偉大な着想に至ったか、というような感じのストーリーが語られて、特にシュレーディンガーが女性関係にだらしなく、愛人が何人もいたり女子学生を何人も妊娠させたりという人物だったことは初耳だったので面白く読みました。
本書は、「時間は存在しない」でも出てきた関係論による量子力学の解釈を前面に打ち出しており、他の解釈を紹介しつつも関係論の正しさを訴えています。特に多世界解釈に対しては懐疑的なようでかなり明確な批判も書かれていました。
…という、第一部、第二部までは良かったのですが、本書のクライマックス第三部に入ってボグダーノフとレーニンの話が出たあたりから完全に哲学的な世界になってしまい(物質とは何か?、意識とは何か?)、量子力学を突き詰めていくとどうしてもそういう話題に立ち入らざるを得ない、という点は理解するのですが、それにしても哲学的すぎてよく分からんかったです。
しかし、この世界を完全に記述できる神の視点は存在しない、ということはまあ理解できました。 -
タイトルですでに言いたいことは言ってる。ヘルゴランド島あたりの歴史は読み応えあるし楽しい。最後の仏教の件は日本人からするとそうか、そう思ったのねみたいには読めちゃう。真ん中までだったら星五つ!
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今年最高
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量子力学の奇妙な振る舞いの要因を不要な部分を削ぎ落として、本質だけをあらわにしてからの説明が見事。
それを、関係というキーワードで捉えるという考えで議論を進めている。
個人的には、情報との関連をもう少し深く示して欲しかった。 -
著者は物理学者でありながら人文系の知識にも通じており、本書は自然科学と人文科学に橋をかけるすごい本になっています。物理法則が決定する世界という認識を量子力学の知識が破壊し、そこから世界は相互関係でのみ成り立っているという龍樹の哲学の世界まで飛躍していきます。物理の説明が式なしの比喩止まりなのがもどかしいです。
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