目の見えない白鳥さんとアートを見にいく (集英社インターナショナル) [Kindle]

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感想・レビュー・書評

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  • 音訳ボランティアをやってたので、白鳥さんのような人が珍しくないのは既に知っていた。視覚障がい者の方の中に難無く移動されているのを目にした時は、驚き尊敬した。箏曲家・澤村さんは無類の鉄道マニアで、日本各地の沿線をひとりで旅されている。
    しかし、「見えない」人が「見る」ってどういうことなのか? そういえば、盲学校の先生が点字のような凹凸をつけた絵で鑑賞すると話していたっけ? そんなことを思い出しながら本を開いたが、まったく違っていた。
    実際に美術館で絵画を前にして見る行為をしていた。一人ではなく複数の人らと鑑賞するのだ。全盲の白鳥建二さんは、著者・川内有緒さん、彼女の20年来の友人・マイティ(佐藤麻衣子)さんらと美術館を訪れる。絵の前でそれぞれが感想を「見えない」白鳥さんの前で、「感じたことを話す」ことから始まる。
    3人に共通する「推し」ジャンルは「現代美術」。敬遠してきた現代美術を知る機会にもなった。印象に残ったのは版画家・風間サチコさんの”ディスリンピック2680”。https://artscape.jp/report/curator/10169949_1634.html 『人が競争原理によってランク付けされ、勝ち組と負け組が選別される過酷なオリンピック。役に立たない負け組は柵で囲われ生き埋めにされる。逆に「役に立つ」と選ばれた人々はのっぺらぼうでマスゲームに参加する』。羽がもがれた勝利の女神・ニケは右側に描かれている。大きな絵は右と左に分かれていて、はっきり分断されていた。生き埋め寸前の人の顔には、字のような物が書いてある。「え、顔に字が書いてあるの?」と白鳥さんが訊くと、「うん、丙、丁とか。きっと甲乙丙丁のそれだね」。白鳥さんはふうんと頷く。こんなふうに、たっぷりと時間をかけて鑑賞するのだ。マイティと有緒さんが思いつくまま感想を述べるのを聴きながら、白鳥さんは頭の中に描いていくのだろう。
    続いて”ダイナマイトは創造の父”という9枚の連作。恥ずかしいことに、黒三ダム建設で大勢の朝鮮人労働者が関わっていたいたと、初めて知った。吉村昭さんの『高熱隧道』を読むことにした。
    地元の美術館でも同じような鑑賞会を開いてもらえたらと切に願うところだ。
    本を読み終えレビューを書く段になり、とらえ方が間違っていないかと不安になる時がある。でも、正しい感想なんてもともとないのだ。色んな人の感想を読み、違う視点に気付かされ、異なる味を見つけられたらめっけ物でいいのだろう。

    • かなさん
      しずくさん、こんばんは!
      この作品私も読んでいます(*^^*)
      しずくさんは音訳ボランティアの経験がおありなんですね!
      素晴らしいです...
      しずくさん、こんばんは!
      この作品私も読んでいます(*^^*)
      しずくさんは音訳ボランティアの経験がおありなんですね!
      素晴らしいです!
      そんなしずくさんがあげたレビューだから
      このレビューとってもいいって共感してます。
      私のレビューが、恥ずかしくなるくらい…
      でも、どんなレビューでも間違いはないって、
      いろんな意見があっていいと、私も思います。

      今回は、乙女の本棚をきっかけに
      フォローやいいねをありがとうございます。
      乙女の本棚は、難しそうと思って読むのをやめちゃいそうな
      名だたる文豪の作品が読めます。
      しかもその作品にぴったりなイラストで楽しめます。
      ぜひ手にしてみてくださいね!

      こちらからもフォローさせていただきますので、
      これからどうぞよろしくお願いします。
      2023/08/03
    • しずくさん
      かなさん、おはようございます。

      音訳ボランティアは数年続けましたが、考えるところあってやめました。パソコンやスマホが普及する今を考えれ...
      かなさん、おはようございます。

      音訳ボランティアは数年続けましたが、考えるところあってやめました。パソコンやスマホが普及する今を考えれば、いつかは消滅するものだったのでしょうね。それは時代がニーズに追いついたと歓迎する一方、まだ不完全さも感じますが・・・。

      ”乙女の本棚”ってブクログをやってない限り知らなかったかも?!
      本当に、難しそうと思って読むのをやめちゃいそうな名だたる文豪の作品を読めちゃいそう。
      大人向けの絵本のようなイメージで待っています。

      こちらこそよろしくお願いします(ぺこり)
      2023/08/04
  • 全盲の白鳥さんとアートを見に行く、美術館へ行く。アートや仏像を前にして会話をしていると、作者も、今まで見えていなかったことが見えてくる。

    情報って何、目にするもの、音としてきくもの、匂いで感じるもの、触って感じるもの、そして人ととの会話で感じるもの。

    美術館へ行って、観るだけではなく、五感で感じる。
    この夏、近くの久保惣でも行ってゆっくりと時には目をつぶって観てみようと思っています。

    そしてこの本で、改めて感じた言葉に「記憶」があります。記憶って「昔」の記憶と言いますが、所詮「今」の時点での「記憶」に過ぎなくて、なんとなく時間というフィルターを通して、その時より淡くなっているのか濃くなっているののか、いずれにしてもかわっているような気がします。

    「記憶」で良い短歌ができました・・・えへっ。

  • オーディブルで

    読むきっかけは、ラジオで著者のインタビューを聞いたこと。対話型鑑賞に興味を惹かれたこともあった。

    興味深いポイントがたくさんあった。

    1つは、美術、特に現代アートとのどう付き合うのが楽しいのか、1つの視座が得られたと思う。
    もう1つは、全盲特に生まれた時から見えない人にとって世界がどう認識されているのか、もちろん話を聞いての想像でしかないが、視覚の部分が最初から無い世界は、当たり前だがまた一味も二味も違う世界ですごく興味深い。
    また、障害を持つ人に対する私達の態度、出生前診断の話し等は考えさせられるテーマだった。
    語り口は平易だけれど、すごくいろいろなタネを
    包括している本。

  • 対話型鑑賞について知りたくて
    この本を読みましたが
    鑑賞だけではなくて
    同じく
    美術を愛する人たちが
    つながる物語でした。

    慣れてくると
    川内さんの
    話し言葉のような
    書き言葉がいいなあと思いました。
    川内さんの人柄が伝わり
    熱まで感じる書き言葉だと思いました。

    作品の背後にあるものを感じて
    自由に語り,調べ,考え,
    何かを得て,世界が広がる過程が
    作品を見る醍醐味の一つなのだなと思いました。

  • オーディオブックで

    目が見えない人のこと
    わかっていませんでした。
    今でも、同じようにはわかることはとうていできないけれど、ずいぶんと、そうなんだ!がありました。

    目だけに頼りすぎている。

  • ギリギリアウトを狙うって、今の日本に大切なことだね。アイマスクしただけで盲人の気持ちをわかったようになっていた自分が恥ずかしい。わかることはできなくても少しでも寄り添うことができるようになりたいなぁ~

  • すごくよかった!!
    図書館で借りたけど、家に置いておいて後で読み返したいし、他の人にも勧めたい!
    読みやすくて柔らかい文章ですっと入ってくる。

    優生思想の話が特に印象に残った。
    普段から障がいに関わっていて、そうでない人よりも色々わかっているとしても、自分がもし将来子どもができて障がいを持っていたら、
    悲しまずにいられるだろうか?たぶん将来のことで不安になって悲観的になるだろな。これは優生思想なのかな?

    あとははじまりの美術館にも行ってみたくなった!参考文献のスウィングの本も読んでみたい。
    価値観変わりそう。

    この本を読むと本当に美術館に行きたくなる!!

  • 最初は白鳥さんといるときの作者のテンションや口調について行けなかったが、その口調やテンションだった理由が途中からなんとなくわかった気がする。
    そして最後の方は壮大な伏線回収なのだと感じた。

    P.169折本立身氏「アート・ママ+息子」
    母と息子というより父と子供に見えてなんか泣きそうになった。

    美術館という場所、
    作品とは別に、自分は建物に対しての興味がとても強いのだと、この本を通して発見があった。

  • なんと言ったらいいのか、自分は差別主義ではない普通の市民だと思っていたし、世間に見る「あからさまな差別意識に対する嫌悪」は持ち合わせていると思っていたが、この作者も作中目の当たりにして自問自答しているのと同様に、“そっち側の気持ち”はしっかり私の中にもあり、差別は良くない!という自分の思いは、どこか誰かの言葉のように他人事で、安く薄く大したことのないレベルにしかなかったのだと認識して、大変にモヤモヤした。

    美術にはおそらく一般より深く多く触れていると思うが(美大出だし美術館には結構訪問している)、
    今まで一度も視覚障害と思われる方の鑑賞しているシーンに出会したことはなかった。
    多分、多くの場所では来場対象になっていなかっただろうところに、白鳥さんは当然のこととして訪問している。
    そういうことを「大したトライ」だと思わない世の中が真に寛容になったと言うのだろうと思う。
    今は、さまざまなムーブメントの黎明期で、いろんな立場のいろんな人が千差万別の主張をして、対話もあれば衝突もある。正直、みんなが満足は難しいだろうが、そもそも「みんな100%満足」自体が無理な話で「みんなほどほどに良い」程度で折り合いがつけば良いとしたら、実現不可能ではないと思った。
    結局のところ、作中にもあるが、誰もが誰かにはなれず自分は自分でいることしか出来ず、各々が個の主張だけ叫べば衝突するんだろうから、どこまで「お互い様」「明日は我が身」などと許容できるかにかかっているのではないか。
    そんなことを読んで切に思う。

    白鳥さんは、ただ目が見えないだけ、私はただ見えているだけ。そんな差分は人間性において「だからどうしたの」程度のことだろうと思う。

  • 話しながら美術作品を鑑賞する、というのは大学で学んだことだったが、それを目の見えない人とやるというのが目から鱗。高橋源一郎さんの紹介ですごく面白そうだと思って読んだ。

    私には視覚障害者の母がいる。母と美術館に行った記憶はあまりない。そんな母と美術鑑賞できるだろうかと思いながら読み進めた。
    けれど、視覚障害者という括りで考えるべきではない、白鳥さんは視覚障害者の代表とかではない。美術鑑賞が好きかどうか、どこまで解説を聞きたいかなど、そんなのは人それぞれなんだと、この本を読んでわかった。

    母だけでなく、むしろ子どもたちと対話型の鑑賞をしても面白そうだな。これはこれで、一つのやり方として。

    あまり現代美術には詳しくないけど、越後妻有は行ったことがあり、知ってる作品が出てくるとうれしい。ほか、いろいろな作品を知れて興味深かった。

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著者プロフィール

川内 有緒/ノンフィクション作家。1972年、東京都生まれ。日本大学藝術学部卒業後、米国ジョージタウン大学で修士号を取得。米国企業、日本のシンクタンク、仏の国連機関などに勤務後、ライターに転身。『空をゆく巨人』(集英社)で第16回開高健ノンフィクション賞を受賞。著書に『パリでメシを食う。』(幻冬舎)、『パリの国連で夢を食う。』(同)、『晴れたら空に骨まいて』(ポプラ社/講談社文庫)など。https://www.ariokawauchi.com

「2020年 『バウルを探して〈完全版〉』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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