生を祝う [Kindle]

著者 :
  • 朝日新聞出版
3.50
  • (3)
  • (6)
  • (6)
  • (3)
  • (0)
本棚登録 : 145
感想 : 7
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・電子書籍 (141ページ)

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • ブクログで知ってビビッときてすぐにダウンロードして読みました。いつもありがとうございます。

    出生の自己決定権が与えられた50年後の日本が舞台。科学技術の進歩によって、胎児の性別、性的指向、国籍、両親の経済状況や持病などを総合的に判断して割り出された「生存難易度」をもとに、なんと胎児自ら生まれるか生まれないかを判断することが可能になっている。それどころか、胎児の意思に反して出産に踏み切った場合、両親は犯罪者として社会から排斥されてしまうのだ。ちなみに、この日本では、安楽死も合法化され、女性天皇や同性婚も認められている。
    前提となる「正論」や「倫理観」が現在と違いすぎて、頭の中をさまざまな「?」がよぎるけれど、それでも荒唐無稽とは片付けられず、描かれるさまざまなケースについて、その都度真剣に考えながら読んだ。
    実際に人生を生きたことのない胎児に、データだけで何がわかる?出産間近のおなかの子に「リジェクト」される、そんな悲しいことはやっぱりあってはいけないんじゃないか?
    だけど、私自身、子どもを産みたいと思ったのは、はっきりいってエゴだ。子どもには生まれて良かったと思える人生を送ってほしいと心から願っているし、そのために親として精一杯やってきたつもりだけど、そうじゃなかった場合についてとことん考えたことなんて今に至るまで一度もなかった。子育て、楽しかった。なんて無責任。
    いっぽう、子どもとしての自分はどうだ? もともと私は人生を謳歌するタイプではなく、今も安楽死が許されるならとうっすら憧れているけれど、生まれてこなければよかったと思ったことは…ないかな。人生が辛いとすれば、勝手に産んだ親ではなく、努力が嫌いな自分のせいだと思うし。それに「産んでくれなんて頼んだ覚えはないよ!」っていう反抗期の捨て台詞が使えず「生まれたくて生まれたんだろうが!」と一蹴されてしまうのって、余計しんどくない?
    だけどだけど、女性天皇や同性婚が認められるなど、この社会が明らかに人権を尊重する方向に改善されていることを思えば、出生の自己決定権もその延長線上にある、やっぱり当然の権利なのではないか?
    ラストの主人公の決断・選択は意外なようで、一拍おいて「うん。それしかないよね」というすがすがしさがこみあげるものだった。
    「合意出生制度」に反対するカルト組織、主人公と姉との関係などはミステリー仕立てで、テーマありきでなく小説として純粋に面白かったし、何より、主人公が同性のパートナーと結婚して、ともに生きていることがほんとに当たり前のこととして描かれているのが読んでいて心地よかった。根底にある価値観・世界観が信用できるからこそ、エッジの利いた、固定観念を揺さぶられるような設定・物語にもノイズなしに安心して没入できるんだろうな。村田沙耶香さん(この設定では想起せざるを得ない)が、自分が書いているのは「ディストピアではなくユートピア」と語っていたのを思い出した。

  • 面白い一冊だった。本棚の端っこにそっと置いておきたいような、静かな読後感に包まれた。

    未来の2075年の日本を描いており、そこでは生まれる前の胎児に現世に生まれたい(アグリー)か生まれたくない(リジェクト)かを選択することができる時代となっていた。リジェクトされると母親は堕胎(キャンセル)する必要があり、もし産んでしまうと犯罪となってしまう。そんな世界観。

    本作を読んでいて1番印象に残っているのは彩華の胎児生存難易度計測報告書の場面だ。この世界では同性婚も認められており、あらゆるものの平等を謳っていた。それなのに報告書には容姿や宗教観の項目があり、点数が表記されていたのである。そんなもの平等社会なら関係ないのではないか?そもそもそんな社会における難易度とは?
    ……綺麗事を言っているのはわかる。本作同様、上辺だけでは語ることができないものがある。身体的特徴に関して、私はあまり突っ込まないように意識しているが、そうしている時点で気に掛かっているのだ。そしてそれがどこかで自然と影響を出すかもしれない。本作で書かれていることも、そういう意味での難易度なんだろう。

    いちSF小説として見るならば、とても面白い。しかし、この世界が本当にやってくるのではないかと考えると、「面白い」の感想だけではいけない気がする。言葉にするのは難しいけれど、なんとなくでいいから自分の中に考えを持っておくことが大切かな、と思った。

    (本作は作者の言いたいことだけを書いたものに見えた。そのためか設定による穴がいくつか空いており、その点がすごく気になったためこの評価。)

  • その昔、私の出産時に「合意出生制度」というものがあったら、うちの子供は生まれてきてくれただろうか?生を受けたら最後、下手すると100年生きちゃう。それでも思い切って生まれてきてくれたか?はたまた私だったら生まれることを選択したか?生きてるって素晴らしい!!と大手を振って言えない悲しさ。それなのに子供が欲しいと勝手に産む身勝手さ。考え過ぎると倫理的にヤバい気がして思考停止…うん、忘れよう。

  • 圧巻の小説でした。
    温暖化などから始まる現代の課題尽くしの近未来を背景に、普遍的な課題と希望が浮かび上がります。

  • 面白い世界観だった。
    将来的にこうなるんじゃないかと思うリアルな世界観に今生きてる命のことも考えさせられる内容だった。
    思想的にはこの未来の世界と近い感情を持っていただけに、倫理的には受け入れられない内容を小説という形で表現し、多くの人に読める内容として発言の代弁をして貰っているようで私的にはすごく面白くて良い作品だと思った。命のあり方に考えさせられる。

  • 一気に読めた。

    合意出生制度はない方がいいと思うけど、
    色々な情報を数値化するのは悪くないと思った。
    胎児に選ばせるのではなく、そのデータを見て
    親が産むか産まないか決めればいい。

    合意の証明書があったって、記憶がないし
    人生がうまくいかない事を親のせいにするのは、
    合意があろうがなかろうがでしょ。

  • 生まれてくるかこないかを自分で決められたらー

    胎児の出生の同意がなければ産むことができない、安楽死も合法化されている近未来の話。設定が面白いし生について考えさせられる。生まれた時から産んでくれてありがとう、親の言うことは絶対、と叩き込まれてきたけれど、そもそも生まれることに同意してないし、新しい生を授ける、子を産むことは親のエゴである、なかなか言葉にできないことをうまくストーリーに落とし込んだ作品だと思いました。

全7件中 1 - 7件を表示

著者プロフィール

1989年生まれ。中国語を第一言語としながら、15歳より日本語を学習。また、その頃から中国語で小説創作を試みる。2013年、台湾大学卒業後に来日。15年に早稲田大学大学院日本語教育研究科修士課程を修了。17年、「独舞」にて第60回群像新人文学賞優秀作を受賞しデビュー(『独り舞』と改題し18年に刊行)。20年に刊行した『ポラリスが降り注ぐ夜』で第71回芸術選奨新人賞(文学部門)を受賞。21年、「彼岸花が咲く島」で第165回芥川賞を受賞。その他の作品に『五つ数えれば三日月が』『星月夜』『生を祝う』などがある。

李琴峰の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×