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感想・レビュー・書評
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新聞などで国際情勢に関して鋭い意見を述べておられた岡本氏(故人)の自叙伝。「外交官とはそもそもどういう仕事をしているのか」という興味から本書を手に取りましたが、著者が外交の最前線で経験した数々の局面の描写は、臨場感にあふれて期待以上でした。
湾岸戦争当時の国際協力に関する部分は本書の特に読みどころです。当時は「カネしか出さない」と世界から酷評された日本の協力体制でしたが、その裏で何とか「人材・物資」の提供が実現できないかと奔走する著者(外務省)と、国益よりも省益に走る大蔵省とのやり取りや、クェート大使館を舞台にした邦人、米国人の救出劇など日本や世界のマスコミが触れなかった多くの局面が克明に描かれています。
関わりのあった政治家のエピソードも多数。宇野宗佑氏については「幅広い教養人であり、また勉強家で宇野政権があと2年長持ちして湾岸戦争を迎えていれば、日本の対応は大きく違っていたはず」、小泉純一郎氏についてはイラク戦争当時の記者会見に際し、外務省が作成した「総理御発言要領」を文字通り投げ飛ばし、「こんな物はいらない!文章は俺が考える」と一括した様子が紹介されています。
著者は外務書では北米局安全保障課長を経験しているだけに、アメリカと日本の同盟関係や、日本の安全保障に関する見解は非常に理論的、現実的で説得力があります。日本の核武装にも触れており、著者が米軍基地を視察した経験をもとに「実際に核を運用するコストは膨大で、現実的ではない」と一刀両断しています。一方で膨張する中国に対しては日米同盟を安定させて抑止力の整備が必要との主張もされており、昨今ありがちな極端な理論ではなく、現実的な主張をされておられます。
国同士の外交で首相や外務大臣クラスが会談をする前の地ならし、事前交渉に著者の様な外交官がどのように関わっていたのか、本書を読むと最後の部分は結局は交渉にあたる人物同士の個人的な信頼関係がモノを言うのが改めて実感させられます。
本書執筆の動機として、あとがきにも「日本がやってきたことはせいぜい60点ぐらいだが、我々は90点を目指さなければならない。しかし国際社会が日本に与えている評価は30点ぐらいで、少なくとも本来の60点の評価をするべきだ」とあるように日本の外交は必ずしも全てが満点ではないにせよ、貢献してきた部分までもが評価されなさ過ぎであると著者が感じていたことであると述べられています。なので、本書は著者の生前の功績を誇るものでは決してなくて、今後の日本の立ち位置に問題を提起する姿勢が一貫しており、大変説得力に富む内容でした。
第34回 アジア・太平洋賞 特別賞受賞作品です。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
故岡本行夫氏の自筆自伝、外交官出身の外交行政アドバイザーとしての秘話の公開。
湾岸戦争、イラク戦争、沖縄、近隣国(中国、韓国、ロシア、北朝鮮等)との外交等。兎も角、氏の生命を掛けて取り組んだ「アメリカとの同盟最優先」と対米同盟の実践的な有効化策と外交努力策を説く。安全保障の三つの選択肢は①非武装中立、②武装日中立、➂同盟。地政学上の日本の選択は③のみ。それも同盟国は」アメリカ以外の選択なない。 -
下位の人間に常に敬意を払った。大きな仕事を構成する各部分の仕事は重要性において同じだという考えからだ。それぞれの人間が最善の努力を行っているという前提で、だ。
どの内閣でも官邸の金庫番、つまり鑑定機密費を管理するのは総理大臣でなく官房長官。田中派が中曽根内閣を支持する代わりに官房長官のポストをとることは田中派閥が機密費を掌握することを意味した。
電電公社の外国からの機器購入のエピソードが面白い。
太平洋戦争での大きな敗北から戦後日本の根底に続いてきたのは、人命の危機に対する超の字がつく安全主義だ。
湾岸戦争で兵士にウォークマンを送るときにソニーの森田会長に直訴するエピソードも面白い。 -
自身の生い立ちから家族の歴史。
そして、日本外交の本質を真剣に考える姿勢に感銘を受けた。
惜しくも、今年コロナで逝去。
やりたいこと言いたいことを残して旅立ったことを残念に思う。 -
【日本外交とは7割がアメリカといかにつきあうかで決まってくる】
外務省入省後に主にアメリカ畑を歩み、退官後も総理大臣補佐官等を歴任して日米関係や沖縄に尽力し続けた岡本行夫。新型コロナで死去する直前まで推敲を重ねた自伝であり遺稿です。
どういったことを成し遂げたかという点や、後半に綴られる日本外交論も非常に興味深かったのですが、何にも増して本書の白眉は自身の家族とその生い立ちを綴った序盤パートではないかと感じました。岡本氏に代表される「安全保障は右、歴史問題は左」という立ち位置が、個人の記憶と結びついて息づいていた世代があったんだなと目を見開かされる思いでした。
やはり自伝も尋常ではありませんでした☆5つ