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感想・レビュー・書評
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海道に侵攻したロシア軍を迎え撃つ自衛隊の小隊長を描く表題作ほか、戦争中編3編。
界隈で話題になっていた本書は自衛隊出身者の芥川賞受賞者である砂川さんが、その経験から描き出す戦争小説です。話題になっていた「小隊」はロシアが北海道に侵攻するというフィクションですが、その想定は実際に防衛省が想定している侵攻ルートと同じで、当然自衛隊が迎え撃つ地点も同じです。そのあたりは中の人ならではのリアルが滲み出ています。また、いろいろ政治的な絡みがあって情報や命令の伝達が遅く、その皺寄せが現場の作戦指揮や隊員のストレスになっていく話なんかは現実感たっぷりで嫌な感じです。
一連の作品で印象深いのは、戦場に居ながら、限界に近いストレスにさらされながらも戦争という現実を受け入れられず、発砲音もおもちゃみたいに感じてしまうというところで、実際の戦場に出たらこんな風に思うのだろうか、と詮ない想像をしてしまいます。「小隊」に限って言えば、舞台となっている釧路の東側は土地勘があるということもあるし、描写に緊迫感があって、戦争の中で戦闘がすぐそこまで来ているけどいつ始まるのか、みたいな緊張感がすごくて、徹頭徹尾怖い思いをしながら読んでいました。戦闘の描写はそれはそれで陰惨なのですが、逆に戦闘が始まる前の方がリアルで怖いですね。あと、リアルのロシア軍を見てしまっていると、この話の怖さがちょっと和らぎます。
また、この3作では兵士一人称からの戦場や状況における心情の描写が主になっていて、そのあたりが特徴なのかな、と感じました。これは、例えば自分が戦場に行くことになった時の心構えみたいなものとしては役に立つかもしれません。戦争を一人称的で内向的に描くのは男性作家の特徴なのでしょうか。女性作家が戦争を描く時、戦争という状況をより広く捉えて戦争そのものの悲惨さを描写する傾向があるように思ったのでした。どちらが良いという話ではなく、全部ひっくるめて戦争なのですが。
防衛省的にはロシアや中国が日本に侵攻する、というのは想定して机上演習もしていることでしょうが、そんなことは昨年までは夢物語でまさに小説のネタだったことでしょう。でも去年の2月を境に侵攻するロシアや中国との戦争という状況はリアルさが格段に上がってしまいました。こういう小説だって創作と割り切って楽しめない世情(と自分の心情)に、何とも悲しさを感じます。ともすれば数年後には銃を持って前線に自分が立っていることが全くないとは言えない世の中です。戦争小説が過去のものとして未来への学びと戒めのためだけにあるような世の中に、早くなってくれることを願います。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
短編の表題の小隊が圧倒的。意図不明なロシア、絶望的な日本の政治、欠陥をもった組織の自衛隊を控えめに描き、自衛隊内の用語も読みづらいが、ロシア軍との交戦が始まり以降の死が漂う戦場の表現力が半端ない。
著者、自衛隊退職後に戦場経験があることを疑うほど圧倒的な戦場のリアル、そりゃ芥川賞獲れるはずだわ。
ロシア軍を宇宙人のように未知な存在として描いたところが秀逸 -
元自衛官の筆者が書く自衛隊小説。北海道にロシア軍が攻めてくると言うのは、実際にロシアがウクライナへの侵略を行った今に読むと、あり得たifを読んでいるような心地になり不思議な思いがある。
筆者の経験が活かされているだろう執拗なまでの専門用語や自衛隊風習が出続ける情景描写は、もはや一つの世界観を構築していて独特の味がある。 -
◆小隊
『死』も『生』もどちらも生々しい。
生々しいが、これも所詮は想像の域を出ない。
想像であったとしても、戦争はきっとこうなのだろう。
描写がグロくて、映像が脳裏に焼き付いて離れない。暫く引き摺りそう。
◆戦場のレビヤタン
先日、ウクライナへ傭兵として出向き、亡くなった日本人が報道されていた。
この本を読み、なぜ傭兵という職業を選んだのか、その一端を垣間見ることができたように感じた。
傭兵という言葉を嫌う者がいることも、全く気にしない者がいることも知った。
戦場という死と隣り合わせの状況に身を置く者が苦しんでいることは、われわれがふだん臭いものに蓋をしているそれと同じだと思った。 -
自衛隊小説3遍。
「小隊」ロシアが侵攻してきが北海道を舞台にした歩兵の戦闘の数日間の話。
「戦場のレビタシオン」元自衛官の傭兵Kがイラクの石化プラントに配属される警備ミッションから休暇突入までの数週間の話
「市街戦」一般大学卒の自衛隊幹部候補生kにとって幹部候補生カリキュラム最終プロセスとなる100キロ行軍(@佐賀県)の2日間の話。
感想は色々あるけれど「兵隊さんありがとう!」
に尽きる。 -
元自衛官の方が書かれた小説ということで、訓練や戦闘の描写は実に詳細で生々しい。
北海道に上陸したロシア軍との架空の現代戦を描く「小隊」、
自衛隊幹部からイラクの民間警備会社に転属した主人公の日々を描く「戦場のレビヤタン」、
自衛隊幹部候補生の卒業前の行軍…総合訓練の手記のような「市街戦」の章編三本から構成されている。
ノンフィクションのようなリアリティがありながら、文章の随所からは、「実際の戦争を体験したことのない自衛官」による焦燥と諦念のようなものも滲み出ていて、それがまた軍隊ではなく自衛隊という国防組織を持つ日本の今を的確に映し出しているように感じられる。
P160「八時間の警備任務は、何もなければ退屈だし、何かあれば、死ぬ」(戦場のレビヤタン) -
ロシアが地味に攻めてきたら、な、
地味で生々しい戦場。
描写が細かいので、本当に生々しい。 -
北海道にロシアが侵攻し、これに対峙するある小隊の話。数年前ならこんなことはあり得ないと思っていたのに、ロシアによるウクライナ侵攻で、ありうることとして読むと、そこにいる主人公の日常へのあこがれと諦めとの彷徨い、起こっている現実への対応、生きることの実感等が身に迫る筆致で描き切られていて、これを読んで自分事としてとらえることができるかどうか、でこういった分野に向いているかいないかがわかるかもしれない。
他に「戦場のレビタヤン」、「市街戦」が収録されているが、いずれも戦場、あるいはそれに近いものと、日常との間との彷徨いがひとつのモチーフになっているように思う。 -
元自衛官の著者による戦争/戦場小説。ロシア軍が突如北海道に上陸、釧路郊外の守備隊に配置された一般大卒の3尉が、心の準備ができないままで突如前進しはじめたロシア軍を迎え撃つ、という内容。「自衛隊もの」ならではの、軍事/戦争がまるで一般企業の事務のような言いまわしで処理されていく状況から、一気に激しい戦闘に巻き込まれていくあたりの描写が読みどころ。
ウクライナ戦争が始まったことで、ありそうであまりなかった北海道での戦闘シミュレーションという設定が注目されがちだが、基本的なストーリーは『生きてゐる兵隊』『土と兵隊』以来の「戦場ビルディングスロマン」の系譜に入る。「敵」たるロシア兵がまったく描かれないことも、日本語の戦争小説の系譜の延長線上にある。