これからの時代を生き抜くための 文化人類学入門 [Kindle]

著者 :
  • 辰巳出版
3.46
  • (2)
  • (4)
  • (5)
  • (2)
  • (0)
本棚登録 : 78
感想 : 7
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・電子書籍 (241ページ)

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 第一章の文化人類学の概要にはじまり、「性」「経済と共同体」「宗教」「環境問題」という各ジャンルごとの切り口から、文化人類学がどのような学問かを紹介する入門書。終章では、若き日の海外放浪からこの道に入った著者の来歴も語られる。全六章、約260ページ。本書はオンライン上の著者への取材から、口述筆記によって起こされている。

    文化人類学の基本的な用語と簡単な成り立ちに触れる第一章に始まり、第二章から第五章までは先述のテーマごとに進む。各章は現代的な問題とリンクして、文化人類学のもたらす知見の可能性を示唆する。以下、各章の要約を試す。

    第二章「性」
    類人猿としての人類の生物的進化の過程からいって、ホモセクシュアルは自然な歴史的な産物である。先住民社会においてもホモセクシュアルは確認されており、性との向き合い方も多様である。
    →LGBTQの人々が取り上げられることの多くなった昨今だが、先住民社会からみても不自然ではない。

    第三章「経済と共同体」
    著者の主なフィールド地であるボルネオ島のプナンの人々を取り上げる。彼らは文化的に徹底したシェアリングの精神を共有しており、そこでは分け与える人が最も尊敬を集めて指導者に選ばれる。また、プナンには「ありがとう」という言葉や心の病もない。
    →現代の先進国は行き過ぎた能力主義と競争原理が際立ち、それらはプナンの人々が意識して忌避してきた状況である。

    第四章「宗教」
    儀礼と、その延長線上にある宗教について解説する。社会に存在する儀礼は、「区切りのない連続体としてある混沌状態に区切りを入れて、人間が認識できるようにする」ためにある。とくに通過儀礼には惰性化した日常を刺激し、再活性化を果たす役割がある。そして、シャーマン、アニミズム、呪術といった宗教的慣習は、別の世界との間を行き来して人間以外の存在との内面的なつながりを見い出す。
    →これらの慣習には、現代における精神的な苦しみや怒り、悲しみを緩和する作用があったのではないか。

    第五章「環境問題」
    先住民社会では、私たちの世界が自然や動物といった人間以外の存在と絡み合って成り立っているということが、当たり前の事実として受け入れられてきた。
    →「人新世」という時代についての危機が謳われる昨今だが、先住民社会の思考は人間と自然の関係を問いなおす機会を与えてくれるのではないか。

    以上のようにいずれの章も、文化人類学が発見した先住民社会における私たちにとっては新鮮な常識を紹介したうえで、それらが近代化社会の諸問題について有用なヒントを示唆してくれるのではないかといった提案が、一貫した流れとして統一されている。著者の半生をたどる第六章だけは例外といえるだろう。

    全体を通してもっとも興味深く読めたのは、著者自身の研究対象であるプナンの人々の社会を伝える第三章で、本書のなかでは群を抜いて読みがいがあった。逆に、著者の海外体験を綴る終章を含んだ他の章については、全般に淡泊で素っ気なく感じてしまった。面白く読めた第三章についても、同著者の『ありがとうもごめんなさいもいらない森の民と暮らして人類学者が考えたこと』の簡略版に過ぎないとも言える。全体に単調で、タイトルに掲げられた「これからの時代を生き抜くための」というお題への対応も通り一遍に思える。ソフトな入門書ということを除いては明確な意義を認めづらかった。

  • 読みやすい、面白い。まだまだ興味をひくことってたくさんあるな
    最後の旅の話にはグッと来た

    学び
    それぞれの視点がある
    動物も関わり合って生きている 影響しあっている

  • 3.3

  • 文化人類学とは、未知の世界を体験しそこで展開されている自らが属する社会の常識とは違うやり方や考え方を知ることで「あたりまえ」を見つめ直す学問である。

    ジェンダーと言われて久しいが、今まで自分たちが当たり前と思っていた男と女と言う概念は自分たちが属する社会の常識であり、21世紀の現在にも全く異なるジェンダーが世界には多数存在している。

    例えば子供はセックスでできるとは考えていない部族では男が長期間狩猟で不在にしている間に妻が妊娠する事を非常に喜ぶ部族もいる。
    別の部族では女性は妊娠が発覚したら別の男性とさらにセックスをしたくさんの父親を作ろうとする。それは父親が狩猟等で命を落とした際に、子供が生きていけないリスクを軽減するためである。ジェンダーの捉え方は様々で、自分の状況によってジェンダーを気軽にスイッチできる文化もあれば、反対に男女が揃って外に出ることさえ許されない文化もある。

    現代生活をしている人とは考え方が異なり数としては少ないかもしれない。さらに文化人類学としてはそのような部族を実際に見て共に生活をすることで理解をしていく学問ではあるが、なかなかハードルが高いため、本書でまずは知る事が重要である。

    我々が感じている常識はその社会の中での常識であって、世界には様々な文化や価値観を持っている人がいる事を知るだけでも寛容になれる。

    ====
    ジャンル
    グローバル リベラルアーツ
    出版社
    辰巳出版
    定価
    1,760円(税込)
    出版日
    2022年06月25日

    ====
    奥野克巳(おくの かつみ)
    立教大学異文化コミュニケーション学部教授。1962年生まれ。82年メキシコ先住民の村に滞在、83年バングラデシュで上座部仏教僧、84年トルコを旅し、88~89年インドネシアを一年間放浪。94~95年ボルネオ島焼畑民カリス、06年以降同島狩猟民プナンのフィールドワーク。単著に『絡まり合う生命』『ありがとうもごめんなさいもいらない森の民と暮らして人類学者が考えたこと』(どちらも亜紀書房)など。共著・共編著に『マンガ人類学講義』(日本実業出版社)、『今日のアニミズム』『モア・ザン・ヒューマン』(どちらも以文社)など。共訳書にエドゥアルド・コーン著『森は考える』、ティム・インゴルド著『人類学とは何か』(どちらも亜紀書房)など。

    ====
    flier要約
    https://www.flierinc.com/summary/3215

  • 文化人類学というものの見方は自分と合っていると感じた。
    構造主義のように、自分というもの自体がなんらかの構造のもとで成り立っていて、その構造を文化という観点から分析研究するのが興味をひかれた。
    ちなみに、この文化人類学と他に考古学、言語学、自然人類学と併せて人類学と呼ぶそうで、人類を対象とした研究は様々あるのだなと思った。

    その中でも文化相対主義の説明に出てきていた時に、発展途上国ですら失礼な言い方なんだと気付かされた。
    後進国という言葉から発展途上国という言葉に変わったとはいえ、それさえも西洋の文化が進んでいて発展しているという前提の言葉になっている。
    当たり前に思っていることが、よく考えれば当たり前じゃないということにたくさん気づかせてくれた本だった。

全7件中 1 - 7件を表示

著者プロフィール

立教大学異文化コミュニケーション学部教授。
著作に『ありがとうもごめんなさいもいらない森の民と暮らして人類学者が考えたこと』(2018年、亜紀書房)、『これからの時代を生き抜くための文化人類学入門』(2022年、辰巳出版)、『人類学者K』(2022年、亜紀書房)など多数。
共訳書に、エドゥアルド・コーン著『森は考える──人間的なるものを超えた人類学』(2016年、亜紀書房)、レーン・ウィラースレフ著『ソウル・ハンターズ──シベリア・ユカギールのアニミズムの人類学』(2018年、亜紀書房)、『人類学とは何か』(2020年、亜紀書房)。

「2023年 『応答、しつづけよ。』 で使われていた紹介文から引用しています。」

奥野克巳の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×