誰が国家を殺すのか 日本人へⅤ (文春新書) [Kindle]

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  • 昭和41年(1966年)に欧米視察に行った中央公論社のデスク粕谷一希が、ローマを案内してもらったのが塩野七生だった。彼女は当時イタリアに遊学して、「婦人公論」にイタリアのモード記事などを書いていた。
    この時、粕谷が彼女に「ルネサンスの女」を書いてみないかと打診したのが、作家塩野七生の誕生のきっかけだったそうだ。(「作家が死ぬと時代が変わる:粕谷一希」より)

    その後、彼女は“私はイタリアの司馬遼太郎になる”と、「ローマ人の物語」等イタリアの歴史物語を書きまくっている。(「ローマ人の物語」は、一般には歴史書と思われているが、正確には、タイトルのように歴史物語(小説?)と言った方が正しい気がします)

    その彼女も御年85歳になっても、未だに気炎を発し続けているのは驚きです。
    本書は、文芸春秋の巻頭随筆2017年10月~2022年1月まで書いたものを纏めたもので、辛口のエッセイが小気味いい。
    多くのエッセイが掲載されていますが、以下に数例を揚げてみました。

    ★「五十年前の三十代が考えていたこと」
    国際政治学者だった高坂正堯の「世界地図の中で考える」を読んでの感想の項。
    高坂は、この本のあとがきで「われわれは前例のない激流の中に置かれている。通信・運輸の発達のおかげで世界がひとつになり、世界のどの隅でおこったことでも、われわれに大きな影響を与えるようになった。そして歴史の歩みは異常なまでに早められた。次々に技術革新がおこり、少し前までは考えられもしなかったことが可能になる。われわれは新しい技術に適応するための苦しい努力をつづけなければならないのである。ややもすると、われわれは激流に足をとられそうになる。皮肉なことにこうした状況はかつて多くの人の夢であった。そして実現した願望が今やわれわれに問題を与えている。そのような状況を捉えるためには、事実を見つめなければならない。とくに文明について早急な価値判断を避けて、その恩恵と共に害悪を見つめることが必要である」
    「私はこの書物で、文明をそのようなものとして捉え、そのような文明の波が地球の上でどのような模様を作り出しているかを描こうとした。現代の世界を捉えるひとつの試みとして世に問いたいと思う」

    これを受けて、塩野は、この本が1968年つまり今から50年前に、34歳になる人間によって書かれたことを考えて欲しいという。
    そして高坂はこの後、首相諮問機関など国政への積極的な関与を行っていった。当時敗戦から20年しか経っておらず、いまだ観念的な平和論が支配的で、当時の進歩的文化人と呼ばれる人々からは、「保守反動」と呼ばれ、京都大学では「打倒高坂」という看板まで立った。しかし塩野はいう、「高坂の頭の中を占めていたのは、日本が再び敗戦国にならないためには何をすべきか」であった。

    塩野はいう、「高坂のいう安全保障とは軍事に留まらず、文明にも視野を広げてこそ明確に見えてくるものという考えに共鳴する」と。
    そしてそれから50年後の今の三十代は、この一書(世界地図の中で考える)をどう読むだろうかと考えてしまうと、若い世代を憂う。

    ★「民主政が取り扱い注意と思う理由」
    現代のイタリア政治のポピュリズムに関しての批判に関しての項。
    塩野は「ポピュリズム」という言葉より、昔の日本人が訳した「衆愚政」の方が的を得ているという。愚かになったのは大衆だけでなく、指導者たちまでが愚かになったのだからと。大衆の怒りと不安に駆られた意見に、迎合ばかりする政党が政治運営する今のイタリアを憂う。
    「なぜ二千年昔に建てた橋は落ちないのに、五十年前に作った橋は落ちるのか」と。
    行政が機能せず税金だけが高い現代イタリア。財源がないのではなく、財源を利用していないだけなのだという。ポピュリズム同士の連合政権、つまり、衆愚政治に問題があるので、すぐに票に結びつかない橋のメンテナンスには金が付かないと現代のイタリア政治への強烈な批判。

    ★「民意って何?」
    政治家か自ら判断しないで、国民投票に結果をゆだね、混乱しているイギリスのEU離脱問題を批判する。
    「票を投ずる人の三分の一はそれに賛成の人。他の三分の一は反対の人。残りの三分の一は、テーマの賛否ではなく、提案した人への好悪の感情で投票する」という例を引き、国民投票の結果は世論調査のようなもので、政治家が自ら判断しない政治は、代議制民主主義を放棄しているという。
    「民意」こそが真の正統性を持つという幻想からいい加減に卒業してはどうか。民主政を守るためにも。
    と、辛口の批判が続く。

  • Audibleで視聴。
    塩野七海のエッセイ。語り口が明快、痛快で面白い。
    コラム集になるのかな?? 軽めなのでAudibleで聴くのにちょうどよい。
    でも本で買うのはいらないかな。

    今はVしかないので、他もAudibleにならないかなー。

  • オーディブルで読了。
    タイトルのインパクトが強いが、塩野七生のローマからの読みやすいエッセイであり、小難しい話はあまりない。
    塩野七生は初めて読んだが、何よりも語り口がとても良い。
    しっかりとした硬い論理構造を持っていながら、軽く読めて上品で風格がある。

  • 塩野七生さんの文藝春秋での連載を文庫化した書籍。古代ローマやヴェネツィア共和国といった歴史的な観点から、現代ジャパンやイタリアの政治行政からサッカーまで幅広く語っちゃう。論理だけでも感情だけでもないので面白く読めました。

  • イタリアと日本を往復する筆者の目に留まる両国の政治・経済・社会の現状風刺と危機感、警告の高レベルのエッセイ集

  • このエッセイは初めて読んだが、塩野さんの文章は読み易い。

  •  いつも利用している図書館の新着本リストで目に付いた本です。
     塩野七生さんの著作は今までも何冊も読んでいますが、この「日本人へ」と副題がつけられているシリーズもずっと読み続けています。
     “誰が国家を殺すのか”というタイトルは編集者のセンスでもあるのでかなり刺激的なものですが、内容は塩野さんの感性で現代のイタリア政治をはじめとした“コロナ禍の現在”をさまざまな視点から綴ったエッセイです。

  • ふむ

  • 世界についての見識で圧倒 日本を代表する「教養人」
    ローマ帝国史など世界の歴史に通じている
    時代は世界史についての知見を必要としている

    塩野七生先生は主著を書き終えたせいか、本書はカジュアル

    検疫システムを開発 ・・・ゥ゛ェネチア「40日間検疫隔離」

  • 塩野さんの言うことは非常に正しい。ただ世の中はそのようになっていないことがどうしようもないこと。

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