- Amazon.co.jp ・電子書籍 (441ページ)
感想・レビュー・書評
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ローラン・ビネによる3作目。
極上の知的料理フルコースを味わったような読後感。
もしもインカ皇帝アタワルパがスペインを、さらにはヨーロッパを支配したらどうなるかを思考実験した小説。
共産主義社会の成功例のようにも映る。
本書は4部構成。
第1部は「アイスランド・サーガ」をパロったもの。
第2部は「コロンブスの日誌」という体裁をとる。
第3部メインディッシュは「アタワルパ年代記」
そしてなんと第4部は、ドン・キホーテの作者「セルバンテスの冒険」
調査に調査を重ねて緻密に歴史を組み替えている。
それぞれに語り口も違っていて、それぞれが独立した短編小説としても読める。
前作、前前作もそうだったけど、この作者の用いるレトリックはほんとにユーモアに溢れていて最高だ。真顔でふざけてくるところも好み。
腐敗したキリスト教のからかい方がなかなか辛辣。
とくに、あまり知られていないかもしれないが反ユダヤ主義であるマルティン・ルターをけっこうぼろくそに描いている(ちなみに作者はユダヤ人である)。
また、イングランドのアン・ブーリンとの結婚をめぐるエピソードにインカ帝国の性的にわりと肝要な太陽信仰がからんでくるところなんかすごく皮肉がきいていて笑ってしまった。
第4部のセルバンテスの相棒が画家のエル・グレコであるところも拍手したいほどだ。
なるほど、そこでそう来るか!の連続だった。
心から愉しませてもらった。エンタメ小説はこれくらいの水準であってくれると嬉しい。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
新大陸に旧大陸にある鉄、馬、そして疫病が早くに入り、それに対して慣れていた場合どうなるか。インカがスペイン征服したらどうなるかという仮想歴史小説。
https://historia-bookreport.hatenablog.jp/entry/2023/04/05/105157 -
史実を逆転させ、もしも「インカ帝国がスペインを征服したら?」を描いた壮大な歴史改変小説。緻密な考証の元紡がれる歴史の"if"はやがて大きなうねりを生み出してゆく。各章で微妙に語り口を変え、さらに叙事詩、書簡文、提題と形式も多様なので文体フェチにはたまらない。"小説の自由さ"を十全に味わえる小説。