文明交錯 (海外文学セレクション) [Kindle]

  • 東京創元社
4.75
  • (6)
  • (2)
  • (0)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 43
感想 : 4
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・電子書籍 (441ページ)

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • ローラン・ビネによる3作目。
    極上の知的料理フルコースを味わったような読後感。
    もしもインカ皇帝アタワルパがスペインを、さらにはヨーロッパを支配したらどうなるかを思考実験した小説。
    共産主義社会の成功例のようにも映る。

    本書は4部構成。
    第1部は「アイスランド・サーガ」をパロったもの。
    第2部は「コロンブスの日誌」という体裁をとる。
    第3部メインディッシュは「アタワルパ年代記」
    そしてなんと第4部は、ドン・キホーテの作者「セルバンテスの冒険」

    調査に調査を重ねて緻密に歴史を組み替えている。
    それぞれに語り口も違っていて、それぞれが独立した短編小説としても読める。
    前作、前前作もそうだったけど、この作者の用いるレトリックはほんとにユーモアに溢れていて最高だ。真顔でふざけてくるところも好み。

    腐敗したキリスト教のからかい方がなかなか辛辣。
    とくに、あまり知られていないかもしれないが反ユダヤ主義であるマルティン・ルターをけっこうぼろくそに描いている(ちなみに作者はユダヤ人である)。

    また、イングランドのアン・ブーリンとの結婚をめぐるエピソードにインカ帝国の性的にわりと肝要な太陽信仰がからんでくるところなんかすごく皮肉がきいていて笑ってしまった。

    第4部のセルバンテスの相棒が画家のエル・グレコであるところも拍手したいほどだ。
    なるほど、そこでそう来るか!の連続だった。

    心から愉しませてもらった。エンタメ小説はこれくらいの水準であってくれると嬉しい。

  • ローラン・ビネの歴史改変小説。期待通りとても面白かった。鉄器や火器を持ったスペイン人が侵攻しインカ帝国、アズテッカ帝国を滅ぼした歴史が、もし逆の展開になったら、世界がどう変わるかを追求した小説で、緻密かつ複雑なシミュレーションのもとで、キリスト教世界である欧州文明と太陽文明との交錯がダイナミックに描かれる。よく知っている歴史上の人物が登場するも、史実とは無関係に登場するため、読者の頭の中で新たな歴史が構成され、そこから抜け出せなくなる感覚も面白い。
    私自身は、インカ文明の顛末は、興味をもって調べない限り、世界史の教科書の3行ぐらいの記述の知識しかないけれど、それでも十分楽しめるぐらいわかりやすく書かれている。登場人物の絡みや背景は奥深く考察されており、欧州全体の歴史も加えてよく知悉してる人が読んだらさらに面白いと思うけど、訳者による各章ごとの訳注が素晴らしく、「史実はこうである」との比較があるので、しっかり物語についていける。まさに極めて知的かつ驚きをもった娯楽小説と言える。
    まだ期半ばだけど、今年に出会った小説で、まちがいなくダントツ第1位。

  • 新大陸に旧大陸にある鉄、馬、そして疫病が早くに入り、それに対して慣れていた場合どうなるか。インカがスペイン征服したらどうなるかという仮想歴史小説。

    https://historia-bookreport.hatenablog.jp/entry/2023/04/05/105157

  • 史実を逆転させ、もしも「インカ帝国がスペインを征服したら?」を描いた壮大な歴史改変小説。緻密な考証の元紡がれる歴史の"if"はやがて大きなうねりを生み出してゆく。各章で微妙に語り口を変え、さらに叙事詩、書簡文、提題と形式も多様なので文体フェチにはたまらない。"小説の自由さ"を十全に味わえる小説。

全4件中 1 - 4件を表示

ローラン・ビネの作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×