少年と犬 (文春文庫) [Kindle]

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感想・レビュー・書評

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  • 一頭の犬が様々な場所でたまたま巡り会った人々に寄り添い救いを与えながら、目的の地に向けて旅を続けていく。
    それにしても、この人々はそれぞれがなんと辛い背景を背負って生きていることか。犬と出会った人々はともに暮らす間に一時の安らぎを得ることが出来るが、それをきっかけに苦しみから抜け出せる人もいれば、最終的には救われない結末を迎える人もいる。犬はその人々の行く末を見届けるまで傍に寄り添う。

    直木賞受賞作だからといって飛びつくタイプではないけど、本作に巡り会って人と犬の絆を描く物語だと知って読み始めた。短編集の形をとってはいるがそれぞれの物語を繋ぎひとつの物語としているのは主人公である犬なのだと知ってますます興味を持ち読み進めることができた。

    主人公である犬は挿入されていたマイクロチップから岩手県で飼われていた牝犬「多聞」であることが分かる。

    震災にあい飼い主を亡くしたペットや捨て置かれたペット達やそのペット達を救うボランティア活動について見聞きし、私の住む地域でもそのペット達の里親探しの活動に触れることができ幸せになって欲しいと祈った記憶が本作を読んで甦った。

    最後の短編まで読み進めて初めて何故多聞が大震災から5年もかけて釜石から熊本までやってきたのかが分かった。物語上の話だとは分かっていても犬と人との絆の強さに感動した。実話として長旅をして飼い主と再会した犬の話を聞いたことがあったが、それにしてもその絆の太さには感動せざるを得ないと思った。自分自身、子供の頃犬を飼っていて犬が大好きだったのだが亡くなった愛犬にもう一度会いたくなった。

    物語の最後で、岩手で大震災を経験し熊本まで避難してきた親子3人家族が再び熊本地震に遭遇する。多聞は倒壊した家屋の下敷きとなった子供を守り傷付き死んでしまう。しかし… 。
    涙がとまらない。

  • 長年の馳さんのファンではあるが、これまでのどの作品よりも、この作品で直木賞を受賞されたということが嬉しい。

    犬と人間との絆、関連性、意思の疎通や心のやりとり、それらが震災の後の仙台から九州まで、人間模様、それぞれの事情や環境を綴れ織りに語られるストーリー。


    読み終わった日の夜に福島、宮城で震度6強の地震。作中、熊本の地震では一度揺れがおさまった後に再び強い地震で家屋が倒壊する描写がある。怖いねえ、本当に地震は怖い。

    2021/02/14

  • 物語終盤にかけて、明らかになっていく
    タモンの生い立ちや、目的。
    連作短編でタモンと出会う人々の人生と
    そこにいたタモンを描く。
    人生色々、各章ごとに様々な人間模様で
    飽きる事なく読了。最終章の熱量は犬好きには、くるものがあるだろう。
    物語の結末が私は好きではなかった。

  • 犬が笑うことを知っているのは犬と暮らしたことがある人だけだろう。
    全体に犬と言う生き物への尊敬と愛情が散りばめられている。
    パートナーであり親友であり時に恋人でもある。
    かけがえのない存在を命ある限り慈しむことが出来ればと願う。

  • シェパードの誠実さと、生き物としての温かさが丁寧に描写されていてほっこりした気持ちになる。犬好きにはオススメ。
    1匹のシェパードが人との出会いを繰り返して1番出会いたかった人に会いに行く話。人の死と別れを繰り返し、最後に少年と出会った犬の幸せそうな様子に涙が出た。
    そしてバトンは渡されたを連想する人もいるかもしれない。

    とにかく静かで、吠えず噛まず、じっと進むべき方向だけを見つめる犬と、その犬の眼差しの光を生み出した少年との愛と絆が、物語を形作る。読んでいて胸が温かくなる。

    御涙頂戴の胡散臭い感動物語ではないので、平気で人が死んだり犬が飢えたり傷付いたりする描写も出てくる。むしろその現実味が読者を世界に引き込み、読みやすさも抜群にある。
    表紙の淡い緑色のように、穏やかで温かく、それでいて静かな物語。

  • どのお話もハッピーエンドではありませんが、つかの間でも「多聞」と暮らした人は、温かな感情を取り戻し、幸せな時間を過ごせたのではないか、それが救いになったのではないか、そう思いました。

    「多聞」の温もりが私にも感じられるような気がしました。

  • 【短評】
    第163回直木賞受賞作。
    看板に偽り無し。素晴らしい作品だった。犬を題材にした小説と言えば、古川日出男の傑作「ベルカ、吠えないのか」が思い出されるが、同作と個人的犬小説No1を争う程の名著であると思う。
    [○○と犬]と題された七つのお話からなる連作短編集。個人的には、不思議な犬”多聞”に纏わる一つの物語と評価したので、レビューの形式は長編のものを採用する。
    犬が人に齎すものは何か、説明するのは難しいと思う。本作の登場人物たちは、その人生の岐路に”多聞”と出会い、絆を結び、少しだけ人生に光が差す。人生を逆転する都合の良い奇跡が起きる訳ではない。ちょっと救われるのだ。その”ちょっと”が実に味わい深く、ほんのりと温かい。
    読んでいる間、幸せになれる類の一冊である。

    【気に入った点】
    ●[少年と犬]本作の集大成となる一冊。この頃にはすっかり”多聞”に愛着が湧いていたので、しっかりと心を動かされてしまった。全編通じて語られていた、とある「謎」が解消するのだが、もうね、これが凄い良いお話。こんな奇跡ならあっても良いさ
    ●[老人と犬]死に瀕する猟師と犬という組合せからして大好物。「死」をテーマにした作品だが、まさかああいう結末とは思わなかった。だが、それが良い。そこに犬が寄り添うというだけで救われる何かがあったのだ

    【気になった点】
    ●終盤まで人が死に過ぎるのがやや気になっていたが、[老人と犬]においてきちんとフォローされていたので、個人的には得心がいった。”多聞”が嗅ぎ取るものは何か、というお話
    ●その他は特になし。自然と物語に没入出来た。

    発表順から言うと[少年と犬]が初出とのこと。その他六編はその後に書き加えられたとのこと。発表順に読んでみて自分が何を思うかにも興味があるが、やはり収録順がベストだと感じる。盤外的な感想だが、編集の妙だと思った。

  • 東日本大震災で被災した犬、かすかな絆を求めて長い長い旅に出る。そこで関わる人々とのオムニバス。

    犬好きのハードボイルド作家、馳さんの直木賞受賞作です。
    馳さんの作品はエッセイ以外読んだことはありませんし、情報としてもバーニーズマウンテンドッグが好きで多頭飼いしてるくらいしか知らないんですが、しょっぱなから慣れた手つきでハードボイルドテイストで、ちょっと想像していた話と印象が違っていました。中盤あたりからは最後の結末もだいたい予想の範疇に入って来るし、ああ、やっぱりこのイベントでこうなるのか、という、安堵よりは落胆の方が大きな終わり方で、個人的にはあまり楽しめないし共感もしづらいお話でした。
    一つ一つのエピソードはそこそこ楽しめます。どこにも救いが無い「老人と犬」が割と好きです。が、とにかく立ちまくる死亡フラグが読んでいて苦しいし、とってつけたようなラストの救いもすとんと腑に落ちるものではなかったのが残念でした。

  • 救いと不穏★★★★★

  • 単行本では既読ですが、文庫本では「少女と犬」と北方謙三の「解説」が追加されています。

    「少女と犬」は、両親と右脚を失った瑠衣が自殺しようと車椅子で東尋坊付近に行き多聞(ここではマックス)と出会い、そのマックスと散歩をするために懸命の努力により義足をつけられるようになるというお話です。しかもそこを去る前に多聞は瑠衣に捨て犬・風を見つけています。
    「少女と犬」以外の話での主人公はほとんど亡くなっていますが、ここだけは希望のある未来を描いています。どうせなら、ほかの話もそうしてほしかったものです。

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著者プロフィール

1965年北海道生まれ。横浜市立大学卒業。出版社勤務を経てフリーライターになる。96年『不夜城』で小説家としてデビュー。翌年に同作品で第18回吉川英治文学新人賞、98年に『鎮魂歌(レクイエム)不夜城2』で第51回日本推理作家協会賞、99年に『漂流街』で第1回大藪春彦賞を受賞。2020年、『少年と犬』で第163回直木賞受賞した。著者多数。

「2022年 『煉獄の使徒 下』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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