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感想・レビュー・書評
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ナチスの体制下で、「ドイツ人でありながら」ユダヤ人を助けようとした人たちを描いた本。
ナチスに反してユダヤ人の味方をすることは、国家に背くことと同意であり、場合によっては死すらありえる。
そんな全てを失うリスクを抱えてでも、迫害されるユダヤ人に手を差し伸べたのは、一体どんな人達だったのか?
それはとても高潔で、聖人のような善性を持つ人々……
ではなく、意外にも、ごく普通の人たちばかりだった、という内容。
本書には、実に様々な人が出てくる。
自分の身を危険に晒してでも、ユダヤ人を救おうとするドイツ人がいる。
嬉々として略奪に加担し、迫害に加わるドイツ人もいる。
偽造証明書に騙されたふりをして、わざとユダヤ人を見逃すドイツ兵もいる。
絶望的な状況下でも、必死で生き抜こうとするユダヤ人がいる。
その状況に耐えられずに、自ら死を選ぶユダヤ人もいる。
スパイとしてゲシュタポの手下になり、甘い汁を吸うユダヤ人もいる。
最終的にホロコーストはソ連兵の侵攻によって終わりを迎えるが、もちろんソ連兵は「正義の味方」なんかではない。
そんな彼らが「正しい」か「間違っている」かなんて、一体誰が決められるんだろう?
中でも特に印象深かったのは、スパイ(捕まえ屋)としてゲシュタポの手下になるユダヤ人のくだり。
逮捕されたユダヤ人は、ゲシュタポの指示の下でスパイになり、同胞の逮捕に協力することもあったのだという。
その場合は、自分や家族の身の保障に加えて、給金や住居などの特別待遇が与えられたそうだ。
彼らは同胞や知人すら売り、対価を得ていた。
およそ人としては最低の行為だ。
しかし、そんな彼らを誰が責められるだろう。
誰もが生き延びるのに必死だった。
むしろ家族や恋人の命までかかっている。
そんな彼らに対して、自分だったら絶対そんなことをしない、お前は悪だ、と言いきれる人は存在するのだろうか。
なお彼らは、戦後に厳しい追求と断罪を受ける目にあったそうだ。
何ともやりきれない話だと思う。
こうして生き延びたユダヤ人は、その後イスラエルを建国し、やがてパレスチナ問題に繋がっていく。
今現在、とても大きな問題になっている。
そんな彼らは、今や国際的には「被害者」から「加害者」になったと言ってもいいだろう。
だからこそ、過去に何があったのかを知っておくべきだ。
ドイツ人にもユダヤ人にも、本当に色んな人がいる。
彼らを善悪で二分化することは出来ない。
そして何よりも、戦争は悲惨である。
そんな当たり前のことを、今一度考え直しておきたい。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
ユーデンフライを宣言したナチスも、ドイツからユダヤ人が一人もいなくなったなどを信じていなかった。ナチスは潜伏者たちを「潜水艦(ユーボート)」と隠語で予備、「いないはず」のユダヤ人を躍起になって追跡した。「ユダヤ人のいない社会」が表向きのドイツだとすれば、地下には「ユダヤ人が生きるもう一つの社会」があった。P110