- Amazon.co.jp ・電子書籍 (477ページ)
感想・レビュー・書評
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寡作作家の第2短編集。前の作品集から17年かかってるけれどその内容の濃密さといったらない。テッド・チャンすげー。
特に中編「ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル」が凄すぎる(「クララとxxx」の100倍はいいぞ)。現在のAIは脳の学習機能だけを実装したいわばゾンビ・モデル?(カエルの足に電気流したら動きます的な)である意味気持ち悪いのだけれど、この作品のAIはゲノム・エンジンによってある傾向をもたせてはいるけれど学習済みではない存在でユーザーが育成していくモデル。だからAI育成とその問題を扱っている作品とも言える極めて現代的な作品。近々私たちはこういう問題に現実的に直面するのだろうか?人間のように反応するけれど、意識があるかどうかはわからない存在(それをいったら生き物は進化のどのレベルから意識が発生したのだろうか?)に人権や法人格は必要か?。たんに学習モデルという機能製品ではなく、愛情の対象となるような人工的な存在になるのだろうか?そんな存在がいる社会はどのようになっていくのだろうか?これは宇宙人が現れるのに等しい刺激的なことではないか!
人間側としては「人間をデータ・ベース以上の価値あるものとしての性質は、ひとつ残らず、経験の産物なのだ。」と作者は言い切っていますが、自分も老害とならずに実際にそういう存在になりたいのものです(作者の視点は優しさにあふれているから希望の光もさしていて慰められるのだけれど)。効率重視の経営層や世の中はパフォーマンス指標で取り替え可能なロボ人間を求めているからそんな人は少なくなってきているように思えます。いずれ存在価値そのものもAIに逆転されてしまうのでは?と、じっとり脂汗が流れるのだ。
その他にもライフログによる画像記録など新しいテクノロジーによる記憶にまつわる革新が精神にどのように衝撃を与えるかを口伝文化から文字文化への変化と照らし合わせた作品「偽りのない事実、偽りのない気持ち」や、三体三部作でも扱われているフェルミのパラドックスを描いた「大いなる沈黙」(自分的にはドーキンスの動的平衡仮説を支持!)、量子論に基づく多重世界を描きながらも、よりよいバージョンのわたしを目指すすがすがしい作品「不安は自由のめまい」など深く考えさせられる作品が詰まっています。今読み、今考えるべき作品集だと思う。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
タイムトラベル、エントロピー、決定論、社会学、AIの進化、科学者と宗教の葛藤、量子論…。
それぞれのトピックはよく知られた(少なくとも名前や概念は)材料なのに、思いもよらない味付けで出てきたお料理みたいだった。
特にタイムトラベル、エントロピー、量子論みたいな、文系人間の自分にはなんとなくしか知らない物を、人間(とは限らなかったけど)の営みに照らしたストーリーで読めたのは大変面白かった。
#ブックサンタ -
超短編から中編まで、合わせて九つの作品が含まれている。単行本として刊行されたのが2019年だが、雑誌での初出は早いもので2005年とのこと。AIの話題などが取り上げられていて、ちっとも古びていない印象。ディストピアではないのだけれど、なんとなく自分自身に不安を感じるものが多い。一方で、表題作の息吹のように、現実とは離れたところで楽しめる内容のものもある。
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なかなか考えさせられるないようでよかった。
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前作「あなたの人生の物語」はまだ良かった。
映画も見て馴染みのあった表題作が読めたこともあるのか、一冊を通じてさほどの難もなく読み終えることが出来た。
ところがそれに続く第2作の本書はどうだ。全9作の短編。そのいずれもが、何と云うか、一言で云うなら、読みづらい。要は、なんとも分りにくい。ぶっちゃけ、かなり小難しいのだ。作品ごとに、その土台、背骨となっているモチーフというかコンセプトのようなものはかなり明瞭に掴むことが出来る。だが、それを小説、物語として読んで楽しめるか?となると、少なくともぼくにとっては、読み手の側にかなりの「レベル」の熟練と知能の双方を求められている気がしてならなかった。
...その結果、一冊を読み終えるのにそれはかなりの苦労を要したし、ようやく読み終えた今となっては「ゴメンナサイ、オレまだこの作者のSFが読みこなせるレベルじゃないわ」と申し訳ない気分すらする。それでいいのか?とも思うが(笑 -
自らの思考の働きが隔壁内外の気圧差によって発生すること、さらに隔壁の内外の気圧差が次第に均衡へと向かっていることをつきとめてしまう、エントロピーを題材とした表題作ほか重厚なSF短編〜中編集。
寡作ながらパワフルで圧倒的なSFを世に送るテッド・チャンの作品、ようやく読めました。どれもこれも非常に重厚で読み応えがあって楽しめました。
印象に残ったのはAIの成長を描く「ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル」やパラレルワールドもの「不安は自由のめまい」で、使い古された題材ながら掘り下げが深くて楽しい作品でした。一方で記憶を全てストレージが肩代わりする「偽りのない事実、偽りのない気持ち」や、宗教と科学が一元化された「オムファロス」なんかはとても斬新な切り口でやはり楽しませてくれました。
わりとハードなSFに類されるかと思いますが、ひとつひとつのストーリーをじっくり読めてその圧倒的な語り口を楽しめる一冊です。
AIについて、その発生と発達と人間との関わりを描いたマンガ、山田胡瓜の「AIの遺電子」といっしょにお楽しみください。アニメ化するんですって。 -
NDC10版
933.7 : 英米文学--小説.物語 -
ずっと気になってたテッドチャン、遂に。
SF初心者にもわかりやすいヤツが結構あって、全然楽しめた。そんなに長くないのもありがたい。
別のも読みたいな、とちゃんと思わせてくれる、小説を普段全く読まない自分にも合ってた、良き本だった