なぜ働いていると本が読めなくなるのか (集英社新書) [Kindle]

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感想・レビュー・書評

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  • 自分にも色々と刺さり、タイトル以上に面白かったと思う。この本の言葉を借りるとすれば実に心地よい「ノイズ」だった。あとがきのコツは結構理にかなっていると思っていて個人的にもオススメ。

  • 単純な読書論の本ではなく、労働と自己啓発の文脈に関する歴史から、いかに文化的に余暇を過ごすかについての考察がまとめられている。結論はシンプル。 読書は「ノイズ」であり、現代社会はノイズが求められておらず、ネットやSNSのように自分が欲しい「ノイズレス」なものが重宝されているという考えはなるほど。

  • 本を読むという行為は、多様な文脈に触れる(ノイズを受け入れる)行為であり、それゆえに現代の主流な価値観が求める「仕事で自己実現をする」という文脈にコミットしろ、という圧力とコンフリクトする、という仮説。
    自分も改めて仕事をしながら、仕事と全然関係のない分野の本を読んだり、学んだりすることに感覚的な難しさを感じていて、たしかにそういうことだなという符合感があった。
    そのうえで筆者は、単一の文脈ではなく、複数の文脈に自らを置く「半身社会」を目指そうという提言をしている。
    これは仕事と子育ての両立、ワークライフバランスみたいな話を少し違う言い方で表現しているということに感じる。
    もちろん、子育てに限らず、仕事だけでない自己実現でいいじゃないか、という幅の広さはあるが。
    昨今は働き方の自由度も高まり、デュアルライフ的な、複数の文脈を抱える生き方も話題になってきているように思うので、大きな方向性としては筆者の言う社会に近づいているとも言えるだろう。
    しかし、社会の中心、すなわち中央省庁や大企業が、そのような複数の文脈を抱える社員を許容するには、ハードルはまだたくさんあると思う。
    たとえばすごく足元の話として、週5フルタイム5人と、週3フルタイム10人だったらまったく同じようにチームパフォーマンスを出せるのか、というのはけっこう難しい問題。
    また、ひとつの文脈に没入するほうが楽だ、というのも絶対ある。
    社会全体がいっきにそういう方向性に変わるとは限らないが、生き方を見つめ直すという意味では、自分が持っている文脈をときどき確認してみる、ということが大事なのだろう。
    そして、そのきっかけのひとつが「働きながら本を読めるか」というポイントなのかもしれない。

  • タイトル付けのマーケティング勝利のような本。
    タイトルがキャッチーで手に取ったが内容は薄い(というかタイトルの問いへの回答が薄い)

  • 本を読めなくなるのはなぜなのか?という切り口でなんかしらの論文を紹介するような本だろうと思って読み始めたのだけど、そういうのではなかった。
    何で読めなくなるって、そりゃ時間がないからだ!みたいな短絡的な考え方もあるがそれよりも更に一歩踏み込んで考察していて大変おもしろかった。

    日本人の庶民が本を読むようになった歴史から、どのような本がいわゆる労働者に好まれ、読まれ、積まれ、或いは積まれていた結果として読まれたりしながら読書というものの変化について言及されてる。その中で、本を読むこと、広くは何からの文化に触れるための時間がない現況は理解しつつ変えていくことを提言していて、その提言の根拠のための前置きが本書の主な中身だと感じた。そう言われるとつまらなさそうに聞こえるが、その前置きから得られるものが多くしかも面白い中身だった。読後、久しぶりに面白い本に出会えたな等と思えた。なので、本を読む時間が足りないと感じる人や、そう嘆く人を見て何かしら思うことがあった人は読んでみるといいかも。

  • 現代は働くことで読書ができない時代。なぜか。それを考えるために著者は読書が急速に普及した明治から読書のできなくなっている現代までの日本人の読書のあり方を俯瞰し、その原因を考察する。日本人の読書観や読書のあり方は時代とともに変遷したが、明治時代から戦後高度経済成長期を経て、バブル崩壊までの時代とそれ以後、特に2000年代以降では大きな違いが存在する。それは前者の時期は読書することが仕事との何らかの関連性があり、読書することが社会的地位の上昇であったり、自己実現のための手段であったのが、現代は読書は仕事をする上で有益性が無く、逆に読書による知識はノイズとして捉えられ、全く邪魔なものとなっているらしい。インターネットやSNSの普及する時代、読書を行う時間はないのに、パソコンやスマホをのぞく事が出来るのは、それが自分と直接関係があり、社会の波に乗るための行動に役にたつ即物的なピンポイントの情報を手に入れることができる手段であるから。自分の生き方や人生との何らかのつながりがあるかもしれないような文脈に触れる機会である読書は不要な存在に成り下がってしまったようだ。自己実現のために、自分の生活の全てを仕事に注ぎ込む「トータル・ワーク」文化の現代社会では読書などしている時間はないのである。
    仕事だけが自分の自己実現の手段となってしまうような現代。それを見直すため、著者はいわゆる「半身で働く」社会を目指すべきだと言う。今現在は関係のないように見えるが、長い人生のなかで何がしか繋がってくるかもしれない知識をもたらしてくれる読書。そんな読書を行える余裕のある社会こそ豊かな社会なのではないか。
    競争を煽り、その競争の波に乗れないのは個人の行動の結果であり、自己責任を強く求める新自由主義の風潮が強まったことが、2000年以降の働く者の価値観や行動に大きく影響を与え、労働と読書との関係を大きく変えてしまい、「働いていると読書ができない社会」を形成しいたことの大きな要因であることは言うまでもない。

  • タイトルの問いに答えてくれるのが最終章になってから。
    それまではずっと日本人の働き方と読書の持つ意味の変遷を説明しているのでじれったい。
    頑張って読んだけど最終章だけ読めば良かったかもな…。ただ、私のこの姿勢がまさに著者のいうところの「知識」ではなく「情報」を欲しがる姿勢なんだろうなと感じた。

  • 映画『花束みたいな恋をした』の「パズドラしかできねぇよ!!」という名言を彷彿とさせるタイトルだが、まさかこのセリフがきっかけになって執筆された本だったとは…。タイトルを観て「この本には読書法が書いてるんだな!!」と思った私の脳みそはガツンと揺れた…。「なぜ働いていると本が読めなくなるのか」というテーゼを、日本の労働史を遡りながら紐解いていく本書で決して実用的な読書法の本ではないのだが、そのような考え方の背景には現代の労働観が横たわっていることをわかりやすい筆致で読み解いてくれる。読み終わった後は、余暇への向き合い方を考え直すことになる一品。

  • 「半身で働く」この言葉につきると思った。
    真面目に全力で働きすぎている社会に対しての処方箋だと思った。

  • 読書の習慣が誕生した明治以降、社会の変遷とともに読書の目的や意義は時代ごとに変わってきた。現代では新自由主義のもとで人々は他に強制されるのではなく、自ら全身全霊で労働を行うように仕向けられ生活の余裕がなくなった。そのため読書することが少なくなり、読まれるとしても、歴史性や文脈性といったノイズを削いで実用的な知識が身につく自己啓発本や、Youtube動画が代替するようになった。しかし時間的・意味的にも自分から遠いところにある知識こそが教養であり、教養を身につける余裕がなくなった社会は貧しいものだ。全身全霊ではなく半身くらいで働くことを許容する社会にすべきではないか。

    ーーーー
    前半は読書と社会の関係史が書かれているが、後半の筆者の自説展開との繋がりが見えず、これ必要か?と思ってしまった。個人的にこの関係史も特に面白いとも思わなかった。
    後半の教養とは、全身全霊を求める社会の件は興味深かった。まさに現代の罠に自分がどっぷり嵌っていることを自覚したし、その理由も分かった。半身で働く社会は望ましいが、自分も社会全体もそうなるイメージができないなぁ、、

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著者プロフィール

1994年生まれ。高知県出身。
京都大学大学院人間・環境学研究科博士前期課程修了。大学院時代の専門は萬葉集。大学院在学中に書籍執筆を開始。現在は東京で会社員の傍ら、作家・書評家として活動中。
著書に『人生を狂わす名著50』(ライツ社)、『文芸オタクの私が教える バズる文章教室』(サンクチュアリ出版)、『副作用あります!? 人生おたすけ処方本』(幻冬舎)、『妄想とツッコミでよむ万葉集』(大和書房)、『(読んだふりしたけど)ぶっちゃけよく分からん、あの名作小説を面白く読む方法』(笠間書院)。ウェブメディアなどへの出演・連載多数。

「2021年 『女の子の謎を解く』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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