話の冒頭は賑やかな小学校の修学旅行の描写から始まる。そこに突如訪れる不吉な一報。小学生にしては冷静な少女が徐々に心を鈍くさせ覚悟を決めていく様は、悲痛の一言で他に何とも言えない。そうして凄惨な一家四人惨殺事件の生き残りという事実が、少女にも読者にも決定付けられる。
続く第二章では、一転して犯人の「上申書」という形で、犯行に至る経緯、心情が綴られる。第一章で被害者遺族である少女に感情移入したばかりなのに、この第二章では加害者である男性にも同情の余地が出てくるのだ。
そして更に舞台は変わって第三章。ここでようやく時系列は現在となる。
修学旅行中で一人事件を免れた少女・秋葉奏子は、叔母の家に引き取られ成長し、その後大学進学を機に一人暮らしを始めていた。
心の奥に「隠れ家」を持ちながらも表面上は穏やかに過ごしていた奏子だが、八年前の事件を取り上げたある記事をきっかけに、加害者の娘の都築未歩に興味を抱く。自分と同い年の彼女の心の闇は、自分が抱くそれより深いのか。彼女は今、自分より幸せなのか。幸せであってはならない――
そうして犯罪被害者遺族と加害者家族という二人が出逢うことによって、新たな事件の芽が生まれる。八年前に囚われたままの彼女達は、自身の心の闇から抜け出すことができるのか。
正体を偽って奏子は未歩に近づくわけだが、未歩に会ったことによって奏子の心の歪みが顕わになる様子は、こちらに何とも言えない居心地の悪さを感じさせる。
最終的に憎しみの連鎖は断ち切られるのかという話になるのだが、その着地点に到達するまでの奏子の感情の変化が読み応えがあった。人によっては若干唐突だったり拍子抜けに感じられるかもしれないが、自分はあの終わりで良かったと思う。
そう言えば何年か前に映画化されていたが、結末が原作と違うようなので機会があれば観てみたい。
- 感想投稿日 : 2011年8月20日
- 読了日 : 2011年8月19日
- 本棚登録日 : 2011年8月15日
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