鬼はもとより (文芸書)

著者 :
  • 徳間書店 (2014年9月10日発売)
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感想 : 44
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時代小説で、経済もの。藩札という仕組みを初めて知りました。
経済に疎くても、十分楽しめます。
壮絶な武士の生き様がきちんと書かれていて、そのうえでなるほど、と思う理論があちこちに出てきます。

「元々、役所の端くれでもあるから、札場に詰める者は”換えてやるぞ”といわんばかりの態度になりがちだ。好きで使っているわけでもないのに、引き換えるたびに偉そうにされたのでは、使ってやろうという気も失せる。その小さな穴から、大きな仕組みが崩れ出すのだ。」(P-33)

女が己の非を認めない事について、”獣(けだもの)”と呼ばれた長坂甚八の言葉。
「あれはな、女の潔さなのだ。」
「母親はなんとしても生き延びねばならんということだ。自分が死ねば、子も死ぬ。とにかく生きることが先決だ。とはいえ、自分一人の身ではない。傍らには常に無力な子がいて、守らねばならず、ひたすら無防備である。そんなときにあっさりと己の非を認めて、いちいち責任を取っていたらどうなる。もしも、そんな母親がいたら、子はまちがいなく野垂れ死にだぞ。だから女は非を非と認めぬようにできている。神様がそう造られたのだから、自分が非を認めぬことに気づくこともない。」
「それに、文句を言う筋合いでもない。どんな手を使おうと、とにかく子だけは守り抜く・・・それこそが、女の潔さなのだ。俺もお前も、母の潔さのお蔭で、いつ死んでもおかしくはない子供時分を乗り切る事ができた。」(P-42)

「女たらしに、退却はないぞ」
「女遊びをする限り、けっして己の好みは持ち込むな」
「いったん誘ったからには、好みに合わんとか、想ったようではないとかいうのは一切なしだ。それでは、なにも得られん。なにひとつとして分からん。好む処がひとつもなくとも、なにか手掛かりを見つけて、きっと、終いまで辿り着け。あれこれ言うなら、その後だ」(P-83)

なるほど、深い。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 時代物
感想投稿日 : 2015年6月21日
読了日 : 2015年6月21日
本棚登録日 : 2015年6月21日

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