帝国主義が台頭した時代、アジアの多くが、西欧列強に植民地支配された。そのような状況で、著者大川周明は、中東、中央アジア諸地域に目を向ける。このような被支配地域を分析して、アジアをいかにして植民地支配から解放させて、世界の欧化体制に、終止符を打つのかを考察する。本書の秀逸な点は、中東、中央アジアに根付いている宗教、すなわちイスラム教に注目したことである。大川によると、西欧列強が、アフリカ諸国の植民地政策を難なくこなせたのに対して、中東、中央アジアを完全に支配する、つまり同化政策は困難を極めるのだという。これは、イスラム教徒が持つ団結力、排他的精神のためだと分析する。このように、大川はイスラム教の宗教性に注目する。そこから、日本はソ連とイスラム教を利用して、これ以上、西欧列強の支配力を強めないように努めるべきだと説く。以上より、本書は単に19〜20世紀前半の歴史のみならず、地政学の本としても読み込むことができる。今日においても、中東、中央アジア、およびイスラム教に関連する書籍はヨーロッパ諸国と比べて少ない。その意味で、依然として貴重な本である。同時に、戦前日本における右翼として、明晰な頭脳の持ち主であったかを実感できる。
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- 感想投稿日 : 2023年10月25日
- 読了日 : 2023年9月9日
- 本棚登録日 : 2023年9月9日
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