文字で綴られた音楽
多くの小説の魅力は「構造的な美しさ」に依存している。
ナボコフやツヴァイクの作品はまさにその好例だと思う。
読者はその精緻に組み立てられた構造と仕掛けに酔い、読後感を味わう。
この作品の魅力はそれらとはまた異なる。
構造がまったく気にならず、まるで美しい旋律の鼻歌のように会話や情景がハーモニーを描く。
作品中、会話と情景描写、心理描写に切れ目がなく、流れる淸水を眺めているような気持ちになる
考えて見たらそうだろう。心の中では会話と思いと感情と風景がシンフォニーのように淡々と流れるのが人間だ。
時代の流れから取り残され、かといって弾かれるわけでもなく、徐々に下り坂を下っていくひとたちが主人公。
彼女達を動かしているのは、ノスタルジアのように見える。
でも、なんと美しいエンディングだろう。
幸せとは、毎日眺めている石垣の中、たったひとつの石つぶの中に、幼い自分が付けた傷を発見する事なのかもしれない。
読書状況:読み終わった
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- 感想投稿日 : 2023年7月17日
- 読了日 : 2023年7月17日
- 本棚登録日 : 2023年7月17日
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