ツヴァイク全集 11 ジョゼフ・フーシェ

  • みすず書房 (1974年11月1日発売)
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ナポレオンには「予はたった一人だけ、真の意味で完全無欠な裏切り者を知った、それがフーシェだ!」と言わしめ、ロベスピエールは「陰謀の親玉」と呼んで唾棄し、バルザックからは「人々に対してナポレオン自身より以上の権力をもっていた」と絶賛された、天才的な卑劣漢、政治的寝業師ジョゼフ・フーシェの伝記。確固たる無信条でもって勝敗がついてから勝者側につき、情勢や他人に関する多くの情報を握って操作するというやり口(警察大臣とかだった)で、フランス革命から第二王政復古までの激動期の政治に少なからぬ影響を持ちつつも生き延びることができた真っ黒けっけなフーシェの生き様を、「まったく心理学的な興味から」やや喜劇的に描いている。 祝いの席のスピーチに使いたくなるツヴァイクの慧眼なお言葉が多くてメモ。
「この世のいかなる悪徳や残忍さでも、人間の臆病さほど多くの血を流しはしない」 「王者は、自分が弱みを見せた瞬間を目撃した人を愛さないし、専制的な性格の人は、たった一度でも、自分たちより賢いことを示した顧問役を愛さないものだ」 「何しろ権力は、怪物メドゥーサの顔みたいなものだ! 一度支配し命令する陶酔感を味わった者は、もう決してそれをあきらめることなどできない」 「フーシェが人間をひどく軽蔑するのは、自分のことを知りすぎているから」 「裏切りものたちからだけは、予は真実を聞きえた(ナポ)」 「ナポレオンを裏切ったのは、わたしではなくて、ワーテルローだ(フー)」 「うなぎとか蛇とか、れっきとした冷血動物は、素手でうまくつかまるものではない」 「彼の妻が亡くなってしまった今となっても、たった一人だけ、彼を助けてくれるものがあった。それは「時」であった」 「人間と人生とに倦み疲れた彼は、ここにはじめて、名声と権力以外の幸福、すなわち、忘却を求めたわけである」

読書状況:未設定 公開設定:公開
カテゴリ: 欧州・政治経済社会
感想投稿日 : 2008年5月19日
本棚登録日 : 2008年5月19日

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