自虐指向と破滅願望 不幸になりたがる人たち (文春新書 113)

著者 :
  • 文藝春秋 (2000年7月19日発売)
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本棚登録 : 299
感想 : 34
5

前書きで著者が言うように、確かに「後味の悪い読後感」がある。不安感と言葉に変換しがたいおそろしさと…。それでも、その内容を読み取りにかかってしまうあたり、著者がこの本に記したことが一つの真実であると証明しているみたいだ。
不幸になりたがる人は存在する。社会人になってはじめて、その色が濃すぎる人物に会った。その人物に対してずっとずっと嫌な感じがあったのだが、適当な表現が見つからずモヤモヤし続けていた。止まらない微妙な違和感、常識外の世界観、言葉が通じていない感覚、成立しない意思疏通、思考不足で怠惰な依存性。得体が知れないのだ。不可解で不快極まりないのだ。苦手だからあまり関わらないようにしようとか、嫌いだから考えないようにしようとか、迷惑だから接点を少なくしようとか、そういう自分の能動的な意志でコントロールできないのだ。これがノンフィクションであることが怖い。
けれど、この本でかなり理解できた。つまり“そういう”性質が強い人なのだと。人間に潜在する性質であるからこそ、本人はその気はなくとも、「生・進歩・向上」とは真逆のそれを何も考えずに表に出し続けているのを見るのは、とても不快なのだと。受動的で言いなりで特に何か思ったり考えたり自ら行動することもなく人からのアクションをただ待ち続け漫然と生きている人のことは、私には理解できないのかもしれない。そして、できることならばもう関わりたくないのが本音である。
不幸になりたがる人たちについて書き記されたもう終盤の184頁、「危うい芽が自分の内面にびっしりと植わっているような気がして、私は息苦しくなってくる。」という文を読んだ時、昆虫や爬虫類が枝や葉に隙間無く植え付ける大量の小さな卵のようなものが自分の皮下にびっしり広がっているグロテスクな想像が浮かび、まるで体の内側に鳥肌が立つような気色の悪い感覚を覚えた。本当に読後感はよくない。
ただ、いかにも現実離れしたホラーやサイコサスペンスより、よほどおそろしいし興味深い、と思う。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2013年4月29日
読了日 : 2013年3月14日
本棚登録日 : 2013年3月19日

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