「明るく静かに澄んでいて懐かしい文体
少しは甘えているようでありながら、厳しく深いものを湛えている文体、
夢のように美しいが現実のようにたしかな文体」
を物語にするとこんな感じになるのかな。
ピアノの調律師というあまり馴染みがなく、
私にとってはおぼろげな職業のお話だったが、
その深く美しい世界にどんどん引き込まれていった。
一見、自分との世界とは遠い話のようだが、
自分の仕事も形は違えどピアノの調律師のようにピアノと
ピアニストの橋渡しのような役割なのかもしれない。
まるで自分のことのように中に散りばめられた言葉に気づかされたり勇気づけられた。
主人公の外村もいたって平凡な田舎の青年で
自分の才能や素質に不安を感じている。
それに対して「ただやるだけ」
と先輩が返す言葉に私も救われた気がした。
和音が進む道を決めた瞬間の描写
「世界はこれまでと違って見えたのではないか、
突然目の前の霞がはれたような、
初めて自分の足が地面を蹴って歩き出したような喜び」
は当時の自分の感覚とも重なり熱くなった。
努力とも思わず努力できるひと。
もし才能があるという人がいるならば
そうゆう人を指すのだろう。
その道を根気よく一歩一歩歩き続けることの難しさを知った今だからこそ、外村の純粋さが尊く感じられた。
私もまだまだだな。また一歩一歩、歩み続けよう。
読書状況:読み終わった
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カテゴリ:
森の本棚
- 感想投稿日 : 2020年9月30日
- 読了日 : 2020年9月30日
- 本棚登録日 : 2020年9月30日
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