さみしさの周波数 (角川スニーカー文庫 134-3)

著者 :
  • KADOKAWA (2002年12月1日発売)
3.54
  • (633)
  • (741)
  • (2067)
  • (78)
  • (9)
本棚登録 : 6927
感想 : 600
4

目次
・未来予報 あした、晴れればいい。
・手を握る泥棒の物語
・フィルムの中の少女
・失はれた物語

切なさド直球の物語、と思ったら、「切ない話を」とのオーダーだったのですね。(未来予報)
未来が見える、わかるというのは、必ずしも幸せなことではない。
天気予報レベルで外れることも多い未来予報だとしても。
彼も、彼女も、特段その未来に縛られていたわけではないけれども、その未来は支えだったはず。
「意味のない人生なんてない」
清水が言ったからこそまっすぐに伝わった言葉。

”僕たちの間には言葉で表現できる「関係」は存在しなかった。ただ透明な川が二人の間を隔てて流れているように、ああるような、ないような距離を保っていた。
 しかし、僕は清水のことを考えるとき、まるで何十年も連れ添った後、寿命で眠るように死んでしまった妻へ思いを馳せるような、懐かしい気持ちになるのだ。”

この最後がもう飛び切りに上手い。
しかし古寺は、どんな気持ちでこの二人を見続けていたのか。

金に困って、旅館の壁に穴をあけて札束の入ったバッグを盗もうとした主人公が、まったく違うものを掴んでしまった挙句、何も取らずに家に逃げ帰ってしたこととは。(手を握る泥棒の物語)

”身辺を片付け、テレビやビデオの電源を抜き、冷蔵庫に入れていた腐りそうなものを食べた。逮捕されてしばらく戻ってこれなくてもいいようにという準備だった。”

こういう、ふざけているのか真面目なのかわからない語り口が乙一だなあ。
思わず噴いた。

「こわい話を」というオーダーで書かれた作品。(フィルムの中の少女)
確かに本来そこにいなかった少女がフィルムに映っていたら、そして再生するたびにその向きを変えていたら怖いよ。
でもこの作品の真の怖さはそこじゃなかった。
そして彼女がフィルムの中に存在した理由は、「せつない」じゃないか。

乙一の小説って、喪失とか欠落とか多いよね。(失はれた物語)
これはまた不条理で、切なくて、妻の気持も夫の気持もどちらもわかるだけに、どうするのが正解かなんて簡単には言えない。
だけど、最後のそれはないわ。
入院費用を払っている人はいるはずだし(まさかの自動引き落とし?)、点滴を交換しなければならないのだから、絶対忘れられた存在になるはずはないと思うの。
ってことは、叙述トリック?
ちょっと解釈に悩んじゃいます。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2022年5月20日
読了日 : 2022年5月20日
本棚登録日 : 2022年5月20日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする