不連続殺人事件 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (2018年8月29日発売)
3.50
  • (19)
  • (32)
  • (50)
  • (10)
  • (2)
本棚登録 : 711
感想 : 40
4

目次
・不連続殺人事件
・アンゴウ

ずっと読みたかった坂口安吾のこの本。
ところが本の厚さよりも登場人物表に載る人物名の名前の多さにうんざりし、それが揃いも揃っていけ好かない人たちばかりなのにさらにうんざり。
もう、夫婦や元夫婦が不倫やら何やらで、戦後の倫理観ってどうなってるの?って感じ。

けれど、一つ一つの事件で誰が犯行可能で誰が不可能なのかを考えて読むにつれ、誰が犯人なのか、動機は何かがわからなくなってくる。

犯人捜しの再会者発表の中で安吾が書いている。
『犯人の間違った答案の多くは、消却法を用いられているが(中略)ところが、消却法による限り、必ず犯人は当たらない。いわば探偵小説のトリックとは、消却法を相手にして、それによる限り必ず失敗するように作られたものである。』

なるほど、そう考えたことはなかったな。

何度かさしはさまれる安吾からの挑戦状の最後通牒を読んだ後まで、犯人に気づけませんでした。
最後の事件が起こった後、動機から逆算して犯人に辿り着きましたが、これでは遅すぎる。

ちなみに尾崎士郎は「坂口安吾の小説はいつも「私」が悪者に決まっているから、「私」が犯人である」と推理。
太宰治は「最後の海にたった一度、何食わぬ顔で顔を出すやつが犯人」と。
どちらも「作者の挑戦状を受けるだけの素質がない」と安吾に一刀両断されている。

文壇も巻き込みながら楽しんでいたようで、いい時代だったんだなあなんて関係ないことまで思ってしまった。
だけど正解者の住所までバッチリ記載されているのもまた、時代なのね。

事件のトリック自体はそれほど難しいものではないけれど、というか、それが安吾の狙いなのだけど、事件の真相は納得のいくものだった。

そして「アンゴウ」。
安吾だからアンゴウなの?なんてふざけたことを思いながら読んだけど、最後は胸にぐっと来た。

主人公がたった一枚の紙を妻の不倫の証拠と断定するのは、それなりの理由があるにしても短絡的だなと思った。
最後にアンゴウの意味を知ると、戦争が遺した傷のむごさ、戦争がまだ身近だったころの時代感覚などを考えさせられる。
いい作品だった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2019年9月17日
読了日 : 2019年9月17日
本棚登録日 : 2019年9月17日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする