傲慢と善良

著者 :
  • 朝日新聞出版 (2019年3月5日発売)
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感想 : 957
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昔に付き合っていた人が、全く結婚を意識してなかったのに、いつの間にか自分よりも先に結婚していた…何かショック。

結婚だけが幸せではない!って、わかっていても、同級生の結婚式に出席すると取り残された感に…焦る。

かと言って、適当に手を打つかと言うことも出来ず、一生に一回と思うと慎重になる…なかなか決めれない。

主人公は、39歳の西澤架。男性である。婚活アプリで知り合った35歳の坂庭真実と9月に結婚が決まっている。
本作は、真実が自分の部屋にストーカーの影を見つけ、逃げている場面から始まる。タクシーに乗り込み、架に助けを求める真実は、怯えていて、この話はストーカー被害の話かなぁと想像する。真実は、この日以降、架の家に泊まっていたのだが、それから2ヶ月後の2月3日、忽然と架を残して姿を消してしまう。

架はストーカーが真実連れ去ったと思い、必死で探す。警察に相談はしたものの、居なくなった現場の状況などから、警察は真実の意思でストーカーと一緒にいなくなったのだと言い取り合ってもらえない。『えー、事があってからでは遅いのに、これだから…』と、昔、ニュースになったストーカー事件を思い出す。本作はストーカー被害のストーリーではないため、結局、警察の判断は間違ってはいないのであるが。
『ストーカーは、いったい誰なのか 』、『真実は今、本当にストーカーと一緒にいるのか?』、それよりも何よりも『いったいどこにいるのか?、戻って来てくれるのか?』と、架は、不安な気持ちの中、真実の実家がある群馬まで通い、群馬県庁の元同僚、結婚紹介所を通じて見合いをした相手と会う。そしてまた、真実の両親や姉から真実のことを聞いていくうちに、子離れできていない傲慢な両親、親離れできていない真実が見えてくる。真実の姉の言葉を借りて説明するのであれば、親に子離れさせないのは、実は子供が望んでいるせいである。そして、親が子供を思い通りにしたいけど、子供だって親の言う通りにしていたい。つまり、親と子の「共依存」だという。すごく説得力のある言葉だ。親と子の傲慢の共存が浮かんでくる。そして、私自身、親は、どうだろうかと、どこまでが一般的で、あるいは許容範囲で、その境界はどこなんだろうと考えてしまった。

親の世界、価値観が常識のごとく、子供を自分の価値観の中に縛り付ける。「あなたは世間知らずだから」とか、何歳になっても「頼りない」と「親の言うことを聞いていれば間違いはない」と、思っている。社会人になっても「外泊は駄目だ」と言う親。「親が選ぶ人と結婚することが幸せになる」と信じている親。親の望む「いい子」のまま自立する機会を持つことができなかった子供は、親の世界、価値観の中で自分の世界、価値観を見つけ出すことは難しい。そして、真実のように、一人で東京で生活すると、決心し親から離れようと決めたものの、「親の世界で生きていくことができなかった」という罪悪感に縛られ、結局、親離れができない。親と子の呪縛である。

また、「いい子」を演じる真実は、親だけでなく、架に対しても「いい婚約者」だと思われようとする。それは人間の心理としては当然のことだと思うのだが、この後、自分が架のことを思う気持ちと同じ気持ちではないことを知ると、見かけの「いい子」は、架を残して親元に帰ろうとするが、今回はたまたま、親元に帰れなかった。

読み進めていけばいくほど、真実の性格、考えがわかってしまい、同情の余地すら浮かばない。架の女友達の美奈子たちと同じ気持ちになる。(私が、真実側の人間ではないからなのだろうか…それとも同じ側の人間なのでイライラするのであろうか…)

架が真実の両親の価値観や真実の性格を、理解していくのに、どうして諦めないのか…と、美奈子たちから聞いた真実のストーカーの嘘の話を聞いて真実に対する気持ちが冷めないのかと、架の気持ちも私にはわからなくなる。
それは、やっと見つけた結婚相手だからか、真実が嘘までついて架の気持ちを繋ぎたいという気持ちがわかるからなのか、それとも架にとって、真実はすでになくてはならない存在になっているからなのか…

真実のストーカー騒動が、嘘であったと分かり、第二章は真実が架の家を飛び出した理由、そしてその後の行動について、真実の視点で描かれている。

架に70点と評価されたことを美奈子たちから聞いて落胆する真実。何も告げずに架のいない間に家を飛び出した。
結婚できなくなるのは嫌なのに、架にストーカーの嘘をついていた事を奈美子たちにバラされる恐怖。母にも姉にも頼ることができないのに、飛び出して来てしまった真実は、昔の見合い相手・金居から聞いたボランティアの話を思い出して、仙台でボランティアに手をあげる。

結婚しようと思っているのに、衝動的に居なくなり、架に心配をかけてしまうことは、考えないのだろうか?結局は自分の気持ちを優先で、架が自分と同じ気持ちでないことに腹を立ててる。自立できていない上にプライドが高いだけではないか…真実なりの考えがあってのことかもしれないが、私の真実に対しての印象はより悪くなる。

仙台でのボランティア紹介で、あの「青空と逃げる」で登場した谷川ヨシノが登場する。思わず『おおー、もしかしたら、こんな親子がいたと、力たちのことを回想するシーンがあるかも』なんて、思っていたら、何と『樫崎写真館』の名前が上がった!そして回想ではなく、力と早苗がちょうど写真館を手伝っていたタイミングであった。「青空と逃げる」のスピンオフのような展開になる。

このボランティア活動を通して、自分の価値を見出し、自立をしようとする意識が芽生えたことで、真実自身が強くなった。個人的には架と離れて、新しい恋をして欲しかった。
が、本作は架と真実は、結婚する。
最後まで、ふたりに対する気持ちはスッキリしなかったのが本音。

石母田の言葉通り、『これって、大恋愛の物語だったんだ』と分かり、恋愛小説だからスッキリしないのも理屈ではないのか…と、無理矢理納得した。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2021年2月13日
読了日 : 2021年2月13日
本棚登録日 : 2021年2月13日

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コメント 2件

しずくさんのコメント
2021/02/14

2年前に読み、私の読後感もすっきりしなかったのを思い出しました。若いkurumicookiesさんだってそうなのねぇ。私の感覚も古臭くはないのだと何だかホッとなりました(笑)

kurumicookiesさんのコメント
2021/02/14

しずくさん、こんには(^o^)

コメントありがとうございます!

ですよね!!
ふたりにはここで別れて新たな道に進んで欲しい。と願ってしまい、この結末はおさまるところに強引におさめられた感が残りました。

私もしずくさんと同じ感覚とお聞きして、ホッとしました 笑
いつもコメント参考になります!
今後ともよろしくお願いいたします。

追伸: 若くないですよー(*⁰▿⁰*)

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