グラスホッパー

著者 :
  • 角川書店 (2004年7月31日発売)
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本棚登録 : 5564
感想 : 875
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「昆虫って何種類いるか知ってますか?」「百万種類ですよ。種類だけで。で、新種が見つかります。未知のものを含めれば、一千万種類はいるんじゃないか、と言う人もいますよ」
自分の周りに知らない世界が無限にあることをわざわざ昆虫の世界で表現しているのに笑ってしまう(蟬が登場しているからであろうが)。でも、自分の住むこの世界にも殺し屋の世界が当然に含まれているかと思うと笑ってはいられない。

殺し屋の物語であるが、それぞれの登場人物が、特徴的で少しボケているため憎めず、重く感じない。また、殺害方法が、専門に分化されていて、殺し屋界隈では名が通っていて確立したステータスを有しているのだが、私の住む世界とはあまりにも異なるため、別の社会として切り離してしまっているせいで本作に恐怖感をいだくことがなく、逆に次の展開に関心を持って読み進めることができる。

本作は、鈴木、蟬、鯨を語り手として、交互に話が進み最後に3人がつながる。

元教師の素人・鈴木が妻が殺された復讐のためにその犯罪者がいる殺し屋の世界に潜入することから物語が始まる。しかし、この復讐を計画する鈴木という男は、お人好しで、少し間抜けな設定である。とてもじゃないけど、彼に復讐計画は立てれないし、まかり間違っても復讐が成功するはずはないだろうと思ってしまう。しかも、そもそもこんな世界にこの一般人がどうやって入り込めたのか、不思議に感じ、少し無理があるようには感じたものの、一般人が殺し屋とどのように関わって、復讐を成し遂げるのか、成し遂げはしたものの鈴木も最後には亡くなるのか?と思い巡らせて読むことができた。いずれにしても殺し屋・蟬と鯨が鈴木にどのように関わっていくのかが本作のキーであると考え読み進める。

鈴木は妻を『フロイライン(令嬢)』という非合法な会社の社長の息子・寺原長男により殺害される。復讐のためにこの会社の契約社員として潜入した鈴木であったが、会社には復讐目的で入社したことがバレており、上司の比与子に誘拐してきた男女を殺すように試されている。その時、目の前で復讐のターゲットである寺原長男が誰かに押されたはずみに車に轢かれるのを目撃する。そして、鈴木は、この『押し屋』を追うように指示される。

人を自殺に追い込むことが専門の殺し屋・鯨は、政治家・梶から秘書を自殺させるように依頼を受けるが、秘書を、自殺させる依頼をしたことがバレるのを恐れて、梶は岩西に鯨の命を狙うように依頼するが、蟬が来る前に梶を自殺させる。そして鯨の殺害するはずだった蟬を確認するために岩西を自殺に追い込んだ後、蟬の向かっている場所に向かう。

蝉は岩西の受ける殺人依頼に従う殺し屋で、ターゲットをナイフを使い容赦なく斬り殺す専門である。
蝉は鯨の殺害を岩西を通じて梶から依頼されるも約束の時間に遅刻してしまう。この間に梶は、鯨によって自殺に追い込まれてしまい、依頼を遂行することができなかった。
それを寺西から責められることを恐れ、押し屋の正体を知る鈴木を令嬢から横取りすることで手柄を立てようと目論むが、この安易な考えが、私の持つ蟬のイメージらしくてよかった。
こうしてバラバラだったはずの三人の思惑が交差し、繋がっていく。

また、「鯨」、「蝉」という名前とその体格、性格が一致しているのは、作者の意図であろうが、そのため、当時人物をイメージすることが容易であった。

そして、影の主人公・槿も『押し屋』であり個性的なキャラクターだが、名前に一致しているかどうかは別として、なんとなく善人のように見えてします。

少々無理を感じる設定と、面白くしようとして意味がわからない場面があるにしても、登場人物の個性的で憎めないキャラクターと展開のテンポの良さに、あっという間に読んでしまった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2020年9月27日
読了日 : 2020年9月27日
本棚登録日 : 2020年9月27日

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