儚い羊たちの祝宴

著者 :
  • 新潮社 (2008年11月1日発売)
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感想 : 483
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本作は、5つの短編小説からなり、夢想家のお嬢様たちが集う読書サークル「バベルの会」が共通キーワードである。また、短編それぞれが独立していて、使用人がいるような大きなお屋敷の雇主あるいはその家族、親族とそこで働く使用人がかなり歪んだ性格を持って登場している。

最後の「儚い羊たちの晩餐」で、それまでキーワードのごとく出てきた「バベルの会」が、ここで大きく展開し、話が結末へと動く。

身内に不幸がありまして
5歳の時に、孤児院で育った村里夕日が名家の丹山家・丹山因陽に娘・吹子の身のまわりの世話のために引き取られる。
夕日より2歳年上の吹子から秘密の書棚を作るように言われてその秘密を共有する。
ある日、素行の悪い兄・宗太により吹子の命が狙われる。

秘密の書庫に並べられた本には「眠り」の共通キーワードがあり、吹子と夕日のキーワードでもあり、本作の結末に向かうキーワードである。
夕日が秘密の書庫の本を盗み読みしていたことに対し、優しいと思っていた吹子が『床を異にして同じ夢を見るつもり?』というメモを短編の最後に挿んでいた行為で、夕日に対する吹子の感情を知った気がした。
そして、吹子は「バベルの会」の夏合宿に参加できなくなる理由を作るために計画を実行する。

北の館の罪人
内名あまりは六綱虎一郎とその妾の母の間の子で、母の死により六綱家を訪れる。
現当主の光次から提示された小切手を断り、六綱家で住むことを希望する。体裁のために別館の北の館に住むことになる。そして、
別館で暮らす光次の兄・早太郎の世話と早太郎をこの別館から出さないようにと言い渡される。

「殺人者は赤い手をしている。」紫で描かれている手。光次と早太郎の妹・詠子は、早太郎が描いた絵画の中の紫色について、バベルの会にその意味するところについて確認したいと言う。紫色はいずれ赤へと変化し、犯人へと導くことになるのを確認するのだ。

山荘秘聞
貿易商・辰野嘉門の別荘である飛鶏館の管理を任されているわたし・屋島守子は、雪山で遭難していた越知靖己を助ける。越知の遭難救助のためにやってきた救助隊を迎え入れる。

人と接していないと人恋しくなるのは理解ができる。
そして、優秀であればあるほど、自分が優秀であることを認めて欲しいのだ。自分の自慢を他者に認めて欲しいのであれば、越知の養生を隠さなくてもよかったものであるが。一歩誤って道を踏み外す。いや、きっと守子は道を踏み外していることすらわからないほ のであろう。孤独のためにおかしくなったのか、あるいは初めからだったのかわからない。

玉野五十鈴の誉れ
駿河灘に面した高大寺といえ地域で君臨している小栗家。小栗家で専制君主的な立場である祖母から、15歳になった日に玉野五十鈴を召使として紹介される。友達がいない主人公・純香にとって、友達であり、使用人であった。

『始めちょろちょろ、中ぱっぱ。赤子泣いても蓋取るなー』このスレーズが、のちに純香を祖母の呪縛から解き放つことになるのではあるが、赤子が焼却炉で泣いていても、この歌のとおりに蓋を開けない。もし、悪気なく、この歌のスレーズを忠実に守ったのであれば恐ろしい。が、それにより救われる命もあった。

儚い羊たちの晩餐
主人公・大寺鞠絵は、『バベルの会』の会費滞納により除籍される。表向きは、会費滞納ではあったが、バベルの会の会長から聞かされた真実は鞠絵がバベルの会に必要とされていないからであるという理由であった。夢想家の中の現実家は、排除すべきということであった。

はじめは、『アミルスタンって言う種類の羊がいるのか?例えば、牛であれぼ、ホルスタインとかのようなそんな感じだろうか?』と考えていた。なぜ、『蓼科』とかぶせるのかと、もしかしてとも思いながら、どんな羊かと調べたところ、スタンリン・エイの『特別料理』で説明されていた。そして人肉食であると言うことだった。
例えば、「アミルスタンは、珍しい羊ではないが、獲えることは国法で禁止されている。」と言う作品中での記載は『バベルの会』が絡んでいると匂わせる。さらにアミルスタン羊を捕獲に対し、主人公のわたし・大寺鞠絵は、厨娘・夏に助言した「蓼科と言う土地が、きっとうってつけです。羊たちは夏の盛りに、湖畔に現れます。夢を見ているようなひ弱な羊ばかりですから、狩るにも苦労はないでしょう」の言葉でこの羊の意味を確信する。
つまり蓼科湖畔での読書サークル「バベルの会」の良家のお嬢様たちがアミルスタンであり、そしてタイトルでもある『羊たち』のことだ。

「厨娘」が贅沢を食で表現するため、1番いい部位を使って後は捨てる事、それはバベルの会全員を亡き者にするということであった。

読むほどに意味が理解でき、そして意味がわかるほどに歪んだストーリーであると思えてならなかった。
ただ、怖いもの見たさのような、怖いもの知りたさの感覚が先走り、読後の達成感はあった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2020年9月17日
読了日 : 2020年9月17日
本棚登録日 : 2020年9月17日

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