決壊 下巻

著者 :
  • 新潮社 (2008年6月26日発売)
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本棚登録 : 576
感想 : 115
4

死んでしまうと自分自身の存在はなくなる。当たり前のことではあるが、読み進めていくほど、「死」と自身の「存在」の関係性について、今まで自分は美化しているだけではないかという気持ちに陥ってしまった。

主人公である沢野崇の弟・良介のバラバラ遺体が京都の三条大橋で発見された。良介の妻・佳枝の思い込みから崇が容疑者として警察に拘留、逮捕される。崇を犯人と断定し躍起になって犯人に仕立てようとするその取り調べには警察の卑劣さを感じ、実際にもこんなものなのかもしれないと考えてしまう。

鳥取の中学生・北崎友哉が、同級生を殺害し、自首してきたことから、崇の疑いは晴れるものの、崇の取調べ中に父親は自殺し、母親は良介の骨壷を腹に抱いたまま精神的に病んでしまう。
良介殺害の主犯で悪魔と名乗ってい篠原は、クリスマスイブにお台場のフジテレビで自爆自殺をする。そして、最後には主人公・崇までも投身自殺をしてしまう。
本作でいったい何人が亡くなり、その存在が消えてしまったのか。

事件の発端となった日記の公開。ネット上この日記が、篠原の目に留まり、良介との対面を実現する。デジタル化の進歩による犯罪だ。本作の中でも篠崎が良介を殺害する際に「かつて、アメリカのとある犯罪者は言った。『私は、システムが作り出したものだ。が、システムが決して予期しなかったものだ。』この状況はまさに、システム・エラーだ。お前は今、稚拙なプログラムによって引き起こされた、この社会のバグに絡め取られている。システムの解決されるべき重大問題の発生、というわけだ。」と殺害DVDで叫んでいる。そして、篠崎は自らを「悪魔」、「離脱者」と呼び、社会のセキュリティ・システムエラーを演出する。この演出により、ネット上では容易に同調する共感者を集めることができるため、全国での類似する犯罪を増加させることになる。
そんな彼らの犯罪への行動はある種、宗教的信仰のもとでの結束を感じる。

また、崇と良介の不安が上、下巻通じて描写されており、兄弟の歪みが、自己の存在と現世の歪みを感じる。
最後まで、冷静で現実的であると思われた崇も、その歪みに耐えることが出来なくなり、自らの命と存在を、終わらせてしまう。家族の残虐な死によりこの家族の幸福が完全に「決壊」してしまう。

本作は、異常者の行動や心情を読み解いていくため、心が折れそうになるが、そうならないための心の持ち方も学ぶことができる。

上巻で壬生がきっと良介殺害の犯人だと思っていたが、全く外れ、単に非常識極まりない画家というだけであった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2020年7月7日
読了日 : 2020年7月7日
本棚登録日 : 2020年7月7日

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