神去なあなあ日常 (徳間文庫)

著者 :
  • 徳間書店 (2012年9月7日発売)
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当然だが、林業に関心があったわけではなく、林魚を好きになろう、知ろうと、思ったわけではなく、好きな先生の本なので、手に取った1冊。読み始める前のこの本のイメージは日本昔話!

この作品の中には、赤い着物と白い着物をきた山神・オオヤマヅミさんの娘たちが登場する。『神と人間の共存している描写あり』という点では、まさに「日本昔話」の世界だった。信仰心の厚い村人と神の共存。そこから日本人の信仰心(神を信じる心)の精神のようなものが感じられる本であった。

高校を卒業したらフリーターで生活していこうと短絡的な考えを持っていた主人公・平野勇気が、母と担任の共謀により、社会に、そして携帯も届かないど田舎に、しかも一人っきりで、知らない土地で林業を業とする生活がはじまる。

そんな勇気が自然の美しさに感動し、村の不思議を感じながら、成長していく過程の中で日本の根底にある伝統、風習、慣習が説明されている。読者と同じ目線の現代かつ都会で育った勇気だから、この村に住む人たちと自分との違いや感動を伝えることができる。そして、この物語にも人間の根底にある子孫繁栄の欲が随所にメッセージとして織り込められている。

山太の行方不明事件で、「大祭の年には、神さんがたまーに、こどもを招かれることがある。そういうときは、身を清めて迎えにあがらなあかん。」と、神隠しを信じ、村人たちは何の疑いも持たずに神去山に迎えに行く。また、村をあげての命がけの大祭が昔から今に渡って継続している。

現代人の私たちは自分たちの中の「心の神」は信じても、実際には神が自分の目の前に姿を現すことはないと思っている人が大多数だと思う。しかしながら、物語の中では神が村人や勇気の前に現れる。この物語を実話的に考えたい私にとっての解釈は、彼らの「心の神」が幻想となり見えたのだと、考えた。

あと、自然に近し人間として、強烈なキャラで登場している飯田家の主人である与喜(ヨキ)。斧を自由に操り、木から木を飛び渡り、山の声を聞く。人間的な自然な欲望を隠そうともしないヨキの存在は、三浦しをん先生の他のある作品にも通じる「自然=生」というメッセージなのかもしれないと考えた。
 
この作品の背景である林業の魅力は、帯に書かれた「林業っておもしれー」のセンテンスに凝縮されている。この作品を読んで、経済発展により私たちの頭から離れつつある第一産業の関心を持つ人が増えればいいなぁと、思った。
 
素直な気持ちで読める、読み終えたあと、最初のイメージ通り日本昔話に通じるものがあると感じる作品だった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2020年5月27日
読了日 : 2020年5月2日
本棚登録日 : 2020年4月4日

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